グータラ令嬢の私、婚約す。そしたら前世の記憶が戻った。

さくしゃ

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レオside

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"ごめんなさい……大雅"

 支援活動のために持っていった資金が底をつき、一度ウルジュ子爵領へ戻ってきた俺は、自室のソファに腰掛け天井を眺めていた。

「……」

 思い浮かぶのは部屋を出る間際、ドアが閉じる一瞬の間に見たミリアの笑顔だった。

(笑ってた……)

 誰が見ても、心から笑っているようにしか見えないつくり笑い……。

(でも本当は真逆だ。大丈夫じゃない。なのに、周りに心配をかけたくないから「心配ない。大丈夫」という仮面を被って自分の気持ちを押し殺している時の笑顔だ)

 それに最後に確かに「大雅」と俺のことを呼んでいた。

(いつからかはわからない。だが、確定的なことはミリアの前世は「さやか」で、その記憶を取り戻した、ということ)

 視線を紅茶に戻す。すっかり冷めてしまった紅茶で乾いた喉を潤す。ほんのりと茶葉の香ばしさに張り詰めた心が緩む。

(記憶を取り戻してもミリアはメルエムと婚約するのか……)

 レイブン侯爵領の現状ーー権力争いに忙しい中央からの助けは見込めない、周辺所領も支援の撤退、侯爵家の金も底をついた。

 これらの現状を考えると王家に引けを取らない財力を誇るジーニスト侯爵家からの支援なしでは立ち直ることはできない。

(本当に前世から何も変わってないな)

 その明るく常に何をいっても笑って受け流す「さやか」に同級生や教師達は遠慮なく彼女のパーソナルスペースを侵した。とりわけ、共働きなのに他の家よりもお金のないことに関してずけずけと踏み込む奴ばかりだった。

 それでも「さやか」は、そんな奴らでも困っていると自分が傷つこうが関係なく助けた。中には、そんな性格を利用して「さやか」のお小遣いを巻き上げたりする奴もいたけど。

(「孤独」になるよりは全然マシだから。それに大切な人たちが幸せになるのなら自分一人が我慢することなんて訳ないって、苦しんでいる他人を見るくらいなら自分を犠牲にしてしまう)

 誰よりも前世の俺が経験してわかっていたことだったのに……と悔しさに顔を歪めていたら、

「失礼します」

 と、専属の執事が部屋に入ってきて、

「こちらが届きました」

 一枚の紙をテーブルの上に置いた。

(父上に頼んだ調査結果か)

 何も言わず、部屋の隅で壁となっている執事を見ると頷いたため慌ててその中身を確認する。

(やはりジーニスト家が裏で手を回していたのか……ん?この紙、一度何かを書いてから消して上に調査結果が書かれているな)

 薄く書かれた調査結果の内容とは別に、強い筆圧で書かれて消された跡があり、光にかざすとうっすらと確認できた。

(こういう時はいつも重要な内容だ)

 調査結果を消して、鉛筆で紙全体を塗りつぶしていく。

「ヤツらの活動資金源ーー国庫の担当役人を派閥に抱き込んだ。今週中に第一王子派閥を叩く。レオザ・マーク……覚悟を決めておけ」

 と短く書かれていた。

(覚悟……か)
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