30歳の聖女は、精神年齢が「8歳」です。

さくしゃ

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大脱出!①

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 「ぐあああ!もうこんな時間ではないか!」
 
 私、「クミ・スグロ」は、教会本部3階にある自身の執務室の壁時計を見て、慌てて椅子から立ち上がる。

 「っと!あまり大きな声を出すと部屋のすぐ外にいる聖騎士どもに見つかってしまうな」

 私は、始末書の山から、ひょっこりと顔だけ出して、5m先のドアを見る。

 「……」

 ドアは開けられておらず、部屋の外で話す聖騎士達の声が聞こえてくる。

 「セーフ!まだ、バレてない!」

 ホッと一息つく。

 「ふぅ……なら、作戦開始!」

 私は、懐から取り出した「早退届」を始末書で埋め尽くされた机の上に投げつける。

 「これでよし!……では、お疲れ様でした!」

 これでも社会人として8歳から働いてきたので最低限の礼節は知っている。
 そんな私は、部屋の外に立つ聖騎士達に挨拶する。
 それから、私専用の出入口となっている窓に向かってダッシュ!

 「オラァァ!」

 窓ガラスに向かって飛び蹴りを放つ。

 パリィン……と綺麗に外へと向かって割れる窓ガラス。

 「ふ……長年の途中退社による成果だな!初めの頃は、飛び蹴りをした瞬間に体中にガラスが突き刺さっていたけど今では……
ヒール!」

 私は、右腕を治療し、引き抜いたガラス片を「ふん!」と教会を覆う「城壁」へと突き刺す。

 昔は、木の柵で覆われていた教会……

 しかし、奴隷紋から解放された私が好き勝手に仕事を放棄して遊びに行くため、気がつけば、始末書と共に、教会の周りには石が積み上がり、今では15mの立派な城壁となった。

 だが、

「それだけでは、私の歩みは止められない!」

 と、全力で脱走し続けたら、さらに「水堀」ともう一つ、15mの城壁ができてしまった。

 そして、城壁の側面には、登って脱走できないように、廃棄予定の食用油を毎日流している。なので、登るのは不可能。

 「脱走する私に対して、この警備力……やりすぎじゃね?と言うか、私が調子に乗って脱走しすぎたのがいけないのか……」

 ズドォォン!とうまく、そして、静かに着地。

 「ふ……」

 かっこよく「二代目〇ジョ立ち」を決める……決まったぁ!
 私が着地と共にポーズが決まった喜びに浸っていると足に激しい電流が駆け巡る。

 「……ぐあああ!足が、ぐわぁぁ!」

 しばらく両足を胸に抱えて地面をのたうち回る。
 え?両足を胸に抱え……
 
 「げ!足首から先が綺麗にない!」

 両足を見ると、足首から先がレ〇人形のように綺麗にとれてなくなっていて、その足は私の胸に大事に抱えられていた。

 「レ、レ〇かよぉぉ!……いや!焦るな!こんな時のためのセ〇ダ〇ン!」

 両足が「パッカン」と取れてしまった時の対処法!

 その1、とにかく瞬間接着剤!
 その2、とにかく瞬間接着剤!!
 その3、とにかく「鬼ヒール」!!!

 「これで解決!特に最後の鬼ヒールができれば、その1と2はなくてよし!」

 私がドタバタしてる間に、頭上の執務室から、

 「おい!聖女様がいないぞ!」
 「何ぃ!3時間労働でもダメなのか!」

 聖騎士達の慌てる声。
 私が部屋を脱出して10分は経過してるのに

 「気づくのおっそ!」

 思わず、ツッコんでしまった。
 そんな聖騎士達によって、教会内に瞬く間に私が脱走したことが広まり、警報が鳴る。

 「聖女は、現在労働時間30分!始末書も3000枚残っている!今日こそは、あの始末書をなんとかしてもらうために、一刻も早く捕まえろ!他にも溜まりに溜まった始末書の山が保管できなくなってきている!」
 「はい!」

 警報を聞きつけた教皇「リサ」の指示の元、総勢300名の聖騎士が動き始める。

 「いいか!教会のいしんにかけても絶対に溜まった仕事を消化させるぞ!正義は我らにあり!」
 「おお!」
 
 300名の聖騎士は、この日のために練られた作戦通りの配置へと着く。

 当の本人である私は鬼ヒールで足をくっつけた後、近くの茂みに隠れていた。

 「くっそ!ここまでに調べ上げた聖騎士の新しい巡回パターンとそれから導き出した逃走経路が意味無くなってしまったじゃないか!」

 懐から取り出した手書きの脱走経路を記した地図を感情のままに握りつぶす。
 
 「しかし!私は諦めない!絶対に新作コマ「白龍モデル」を手に入れて、ガキどもに自慢しまくるんだ!」

 茂みの中で静かに意気込む。

  
 時は戻り、10分前の教皇室……

 「何!また逃げ出したのか!」

 教皇リサは、報告に受けて、椅子から立ち上がる。

 「それで!まだ敷地内にはいるんだな?」
 「はい!それは間違いなく!」

 聖騎士の答えに少しホッと一息吐くリサ。

 「わかった。今すぐ行く」

 リサは聖騎士達を引き連れ、教皇室を出ていく。ため息を吐きながら……

 「あのバカ聖女は……30にもなって」


 *****


 「くまなく探せ!まだ外には出ていないぞ!」
 「はい!」

 聖騎士達は、ゆっくりと敷地内を真っ直ぐではなくジグザグに進む先の地面を槍で突きながら歩く。

 「ちっ、落とし穴か……」

 聖騎士達の動きを見ていた観察していた私は、聖騎士達の動きから敷地内には無数の落とし穴が仕掛けられていることを確信する。

 「この用意周到さ……私の計画がバレている……くそ!遊ぶ約束を断って、ここ数日はしっかり働いたのに!」

 3日前のたっちゃん達との鬼ごっこの約束、2日前の川下りの約束、昨日は少年少女コマ大会すらも欠席したというのに!
 地面を殴りつける。
 いってえ!鬼ヒール!

 「クミ!お前の計画は全て把握している!お前が欲しがっている数量限定コマ「白龍モデル」が後30分で発売されることも知っているぞ!教皇の権力をフル活用して調べ上げたぞ!」

 教会内放送でリサの得意気な声が流れる。

 そんなことを調べるために権力をフル活用すんなよ!仮にも教会のトップだろ!お前!

 「さらにだ!お前が勝手に掘った下水への抜け穴は全て封鎖(ふうさ)した!」

 な!私が3年かけて開通させた穴を特定しただと!

 「バカな!真夜中の警備が手薄な時間に忍び込んで掘っていたんだぞ!……と思っているな?」

 こ、心の内を読まれたァァ!
 私の心の内を読んできたリサ。

 「まさか、エス」
 「私はエスパーではないからな」

 リサは、教会中央棟3階にある放送室からにいるはず。あそこからでは、私の隠れている場所は見えないし、私の声も聞こえない……なのに会話を成立させてくる。

 「やっぱりエス」
 「だから、エスパーではない」

 また、心の内を読んでくるリサ……さては、私のこと大好きだろ?

 「大嫌いだ!……と、そんなことはどうでもいい。教会の敷地内には、この日のために様々な罠を仕掛けさせてもらった!それに加えて休日を返上させて、300名の聖騎士に出勤してもらった!」

 と、話すリサ。
 うわぁ……部下に休日返上させるとか……

 「うわぁ……」

 茂みの外で必死に私を探す聖騎士達が可哀想になってきた。

 「逃げ場はないぞ!観念して出てこい!」

 教会内にリサの声が響き渡る。おそらく教会本部があるこの場所は王都の真ん中なので、町中にも。

 「捕獲網を構えろ!」
 「おお!」

 落とし穴と落とし穴の間に立っている聖騎士達は、私の弟で聖騎士長「セイン」の号令で王都に侵入してきた小型魔猪を捕獲する時に使う網を各個人で構える。

 私の体格は、140cm、40kgのナイスバディ!なので、充分に包み込める大きさ。

 「進め!」

 セインの号令で城壁から教会の建物に向かって網を構えた聖騎士達は少しずつ歩みを進める。

 「さあ!観念してください!姉さん!今日こそ溜まった始末書を片付けてもらいます!」

 独力で騎士学校を卒業し、聖騎士として教会に入ったセイン。

 就任早々に、私が起こすトラブルを謝って歩くうちに周りからの評価が上がり、気がついたら入団から10年経たずして聖騎士長にまで上り詰めた我が弟。

 亡き両親に似て高身長、高収入、イケメン……だけど、ストレスで薄くなってきた頭頂部。

 誰のせい?と聞けば、「姉さんのおかげです!」と答える本人。

 「さあ!観念しろ!」
 「さあ!さあ!」

 リサの放送に合わせて、私を煽り、慌てさせようとする聖騎士達。

 しかし、ここで慌てたらヤツらの思うつぼだ!ということを理解している私は動かない。

 「さあ!さあ!」

 と、迫ってくる聖騎士達。

 どうする!私!
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