いじめられっ子の僕が

さくしゃ

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忘れなくていい

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 あれから3日……

 東門と西門は、圧倒的力でゴブリンを蹂躙、1匹の漏れもなく駆逐し尽くした。南門は、10数名の死者を出したが、「紅蓮」と勇者「日向」の活躍によりオーガ1,000体を相手に侵入を許さず、殲滅した。街への被害はなく。住人の中にも怪我人はいなかった。

 倒れた王女と勇者は城で治療中。フレバンス遠征に出た「紅蓮」も誰1人かけることなく帰還し、フレバンスを魔王の手から取り戻す。王都守護戦で負傷者含め、全員順調に回復中。殉職した者の遺体は無事に家族の元で火葬された。

 ****************

 ー王女の自室ー

 「……」

 エミはキングサイズのベットに寝転がり、じっと天井を眺めていた。特に魔力欠乏以外では、大きな怪我なく擦り傷を負ったくらいで無事だった。意識を取り戻したのは、戦いの翌日夕方。

 「……」

 それからじっと眠らず、部屋から出ず、食事にも手をつけず、ずっと天井を眺めている。女性の憧れだったサラツヤの髪はボサボサ、目の周りは腫れ、充血、寝不足によるクマ、手のひらには爪が食い込んだ跡。

 ーー副隊長!

 ぎゅうぅぅ……  

 手のひらから血が滴り、真っ白なシーツが赤色に染まる。

 隊士達が次々に殺されていく。魔力欠乏症で倒れた私はそれを眺めているだけ……

 目を覚ましてからずっと頭の中で殺されていく隊士達の記憶が再生され続ける。その度に手を強く握り、歯を食いしばり、立ち上がり、王族専用の鍛錬場へと行き、魔法を放ち、2本のダガーを倒れるまで振るい、目を覚ますとベッドの上にいる。その繰り返し。

 ーー大好きなこの国を、その民の笑顔を守りたい。私にはその力がある……信じていた。でも、守れなかった。1人では何もできなかった……

 「っ!」

 エミはベッドから立ち上がり、2本のダガーを手にして、部屋を飛び出す。


 ****************

 ー勇者sideー

 「シ!シ!……シ!」

 日向は、王族専用の鍛錬場で汗を流していた。

 (縮地……シ!)

 高速で移動しながら的を狙って矢を放つ。

 「ふぅ……」

 いつもの1,000本ノック(1,000本の矢を投じる)メニューをこなした日向は鍛錬場の石壁に背を預けて座り込み、タオルで滝のように流れる汗を拭う。

 (時々狙った方向へ飛んでいかない時があった……やっぱり3日も経つと感覚が少し鈍る)

 コツン……頭を壁に当てて、天井を眺める。

 (あれから3日経つのか……)

 日向の脳裏には魔物の襲撃によって亡くなった隊士達の顔が浮かぶ。

 「……」

 日向は、今朝、目を覚ましてからいつものように街の中心にある献花台へと花を持って行った時、亡くなった隊士の家族に出会った。

 日向は、その家族に守れなかったことを謝った。そしたら、

 「人が本当の意味で死ぬ時は忘れられた時です。勇者様はこうして息子のことを覚えてくれている。あの子は覚えてくれている人の中で生きています。それに勇者様はあの子の意思を守ってくれた。あの子の意思は生きています。だから、守れなかったことなんてありません。ありがとうございます」

 家族からは、お礼を言われた。

 「……」

 それから、ボーッと天井を眺めて過ごす。普段は色んなことが自然と頭の中を駆け巡るのに、たまに、急に思考が止まり抜け殻のようにボーッと何かを眺める時がある。日向は、今、その状態。ただただ、天井を眺める。

 すると、バァン!

 鍛錬場の扉が壊れるんじゃないかと言う勢いで開かれる。


 *****************

 
 自分に腹が立つ。部屋を出てから、沸々と煮えたがった油が爆発するように扉を蹴り飛ばして開く。

 およそ王女と呼ばれる人達がしないような肩で風を切るような歩き方で、ズカズカ鍛錬場へと入り、的に向かって水魔法を飛ばす。

 「水弾(ウォーターバレット)!」

 3cm程の水の玉が30m先の的へと飛んでいく。

 (右!…上!……下!)

 障害物を想定して、上下左右に操作しながら的の真ん中に命中させる。

 ーーおお!さすが副隊長!

 私が遅くまで残って訓練していると決まって一緒になる隊士達が褒めてくれた。

 「こんな事ができても!…守れないんじゃ意味がないじゃない……」

 枯れ果てて出なくなったはずの涙が瞳から溢れて、頬をつたい、床に落ちる。

 「何が私にはみんなを守る力があるよ!ふざけんじゃないわよ!全然じゃない!」
 
 感情のままに水魔法を発動させる。

 「どんなに頑張って強くなっても肝心な物を守られなきゃ意味ないじゃない!……くそ!くそ!くそ!」

 1人だと思い込んで胸の内をさらけ出す私に、声が返ってくる。

 「守れなかったなんてことは無いですよ」

 聞き覚えのある声だった。

 「……勇者」

 私が冷たく接していた風の勇者だった。思えば、最初から気に食わなかった。いつもいつもヘラヘラしていてどこか逃げ腰。見ているだけでイライラした。

 「何の用!」

 でも、本当は誰よりも真剣で、

 「笑いにでも来たの!」

 誰よりもみんなのことを思って、

 「何とか言いなさいよ!」

 この世界を本気で救おうとしている。

 「バカ!」

 本当はわかってる。バカなのは私自身だと。

 勇者は私の暴言に答えず、座っていた床から立ち上がる。

 「時間は戻らない。どんなに後悔したって進んでいく。だから、前を向いて生きていこう。周りの人たちはそう言って過去は過去のことだからと言うけど……」

 勇者は、話し出した。その顔はこれまでのヘラヘラした顔、真剣に鍛錬する時の顔、どれとも違っていて思わず聞き入った。

 「とても忘れることなんてできない……大切な人たちとの記憶……」

 勇者は私を見ているようで見ておらず、遠い過去を思い出すように語る。

 「忘れなくていい!大切な人たちのことを忘れてしまったら本当の意味でその人達が死んでしまう。亡くなって行った人達の意思は、今、この瞬間にも生きている!だから、忘れなくていい!その人達の意思と共に生きていく!その人達の守りたかったものは今も残っているのだから!」

 それだけを言うと、風船の中の空気が抜けて萎んでいくように、「ふしゅううう」と言いながら倒れていく。

 だけど、勇者のことはすでに意識の外に行っていて、私は、その言葉が胸に刺さっていた。

 それから気がついたら、部屋のベッドで横になっていた。

 また同じように天井を眺める。だけど、隊士達の死んでいく時の姿ではなく、一緒に訓練していた時の笑った顔が浮かんできた。

 「その人達の守りたかったものは残っている」

 そう言った勇者の言葉。

 そして、エミはベッド脇の2本のダガーを見る。

 私が副隊長に就任したとき、いつも一緒に訓練する隊士達が、就任祝いに買ってくれたダガー。

 「いいですか!副隊長は全てを1人で完璧にやろうとしすぎです!1人でやれることには限界があります!だから、私達「仲間」がいるんですからもっと頼ってください!」
 「そうですよ!私たちだってこう見えてオーガ一体なら1人でも倒せるんですからね!」

 隊士達に詰め寄られて言われた。
 
 その時の私は、それでも死んでほしくなくて1人で全てをやろうとする考えを変えようとしなかった。

 「……」

 私は、部屋を飛び出し、献花台へと向かった。
 
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