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みんなのエマさん
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エマの突撃訪問から3日……
「ほーら!もっと腰を落としなさい」
慣れた手つきでロックオンしていた男性の腰へと手を伸ばす。
「うぅ……きつい……」
「頑張りなさい。そのくらい重心を落とすことで途中でぶれてしまう太刀筋の悩みが解決するはずよ」
腰(若干お尻より)をさわさわしながら、真面目な顔で指摘する。
「え!確かに太刀筋がぶれて剣の切れ味を活かしきれていないことで悩んでいましたが、話していないのになぜわかるのですか?」
お尻を触られていることを気にした様子はなく驚きの顔でエマに聞く若い隊士。
「うふふ♡それはね……私がいい女だからよ」
今度は胸筋を弄りながら耳元に顔を近づける。
「ええ!いい女とはそう言う条件を必要になってくるのですか!……女性とはお化粧などの美容の努力だけじゃなくてそんなことまで……僕も負けていられません!1!2!」
隊士が指摘通りに重心をさらに落とし込んだ素振りを始めたのでエマの手はお尻へと移動し、触り続ける。
「うん……いいわ!筋肉の動きも申し分ない。そのまま続けて500!」
「はい!10!11!」
隊士のお尻から手を離し、訓練する者たち全てに再び視線を向ける。
(最初は全身タイツなんてって思っていたけど……)
限界まで追い込まれた筋肉がピクピク動き、血管が浮き上がる。
(はぁ♡若くて発達した筋肉が強調されて素晴らしい服だわ!…着るのは嫌だけどね)
若い筋肉にうっとりしながら訓練を見守る。
なぜエマが訓練の指導をしているのかと言うと……
「トルクス。聖国の時みたいにうちの隊のやつらを鍛え直してやって欲しいんじゃが?」
ドスン!ドスン!ドスン!……
日向の右腕に抱きついたまま岩の巨人の手に運ばれるエマにチェンがお願いしたことが始まりだった。
「ええー……あんたの面倒を見るのだけはごめんだからね……」
「わしもごめんじゃ!」
日向の右腕に抱きついたままのエマとチェンは仲良く口喧嘩。
「で、いつ?」
「王都に帰ってすぐ頼む」
「わかったわ」
それから王都に入り、王城敷地内にある、サッカーグラウンドほどの広さの訓練場にて、「骨砕き(ボーン・クラッシャー)」の隊士達の訓練を指導した。
「動きを見ただけで一人一人の課題を見抜き、適切なアドバイスで訓練前よりも確実に成長したのがわかる!」
と、好評で魔王との決戦も近いこともあり、次の日から隊士達の指導を任されるようになった。
「エマさん。声とたまにお尻を触られてゾッとするけど、可愛いからチェン隊長と訓練するより全然いいな」
男性陣から意外にも好評……しかし、
「お肌のお手入れはどうやってるんですか?」
「スタイルの維持は?」
「その髪型マネをしてもいいですか?」
美容を気にする女性隊士……
「あの……同じ隊に好きな人がいまして……」
「どうやったらエマさんみたいにアグレッシブになれますか?」
恋する乙女達……
「エマさんって女性は恋愛対象なんですか?」
女の子の日で辛い日などは休ませてくれたり、親身になって愚痴を聞いてくれたりと「女」と言うものを熟知しているエマからのさりげない優しい行動とイケメンボイスでエマの虜となってしまう女性が多発している程、あっという間に人気者になっていた。
「はーい!ラストスパートよ!気張りなさい!」
木刀を素振りする紅蓮の前線部隊に発破をかける。
ゴオオン!ゴオオン!
「そこまで!お疲れ様!」
素振り1,000回を終えて座り込む隊士1人1人にタオルとそれから…
「疲れた時には生姜入りの紅茶を飲むと美容にいいし、冷え性から来る肩こり、疲れも取れるから欲しい人は飲んでね!」
特製のはちみつ生姜紅茶をコップに入れて配る。
「あなた達にはこれ……」
訓練後しばらくしてから体調を悪そうにしている女性隊士達には、特製の「マカ茶」を渡す。
「あれ?香りが違う……」
「エマさん。なんですかこのお茶?」
見た目から紅茶だと思った女性隊士達は口を近づけた瞬間に香る風味が紅茶と違うことに気づきエマに聞く。
「それはね。「マカ茶」って言ってね。生姜のような見た目の野菜を刻んで乾燥させて作ったお茶なの。特に女性が体調を崩した時に飲むと気休め程度だけど少しは気分が楽になるのよ。これを飲んだら午後の訓練は休みなさい。リナさんには伝えておいたから」
女性隊士達に説明する。
ゴオオン!ゴオオン!
10時を知らせる鐘の音が鳴る。
「あ!ごめんなさい!王妃様にお茶会に呼ばれてるから行くわね!ちゃんと休みなさいよ!いい!無理するのは良くないんだからね!男達!あんた達はお昼までにもう1セットやっておきなさい!いいわね!……20分の1」
エマは姿を消す。
「はい!姐さん!」
男達は敬礼し、訓練を開始する。
「ありがとうございます!エマお姉様!」
嬉しそうに女性達はお茶を飲みながら、男達の訓練を見守る。
******************
「遅くなり申し訳ありません。王妃様」
王城4階にある王妃の私室へ夏をイメージしたメイク、軽すぎず決めすぎない季節感のドレス、髪は綺麗にストレートにして、毛先を内巻きにした完全に見た目はご令嬢と言っても差し支えないエマが、メイドに案内され入室する。
「いえいえ。気にしていませんよ。兵士たちの指導お疲れ様です。遠慮なさらずにこちらへどうぞ」
8畳の広さの石造りのテラスへと招かれる。
「失礼致します」
招かれるままにテラスへと行き、王妃と隣り合わせに腰掛ける。今回のお茶会は王妃様たっての希望もあり、一対一でのお茶会。
「綺麗でしょう。王都が一望できるの」
道を行き交う人々、立ち並ぶ赤い瓦屋根の建物、時計塔……
「美しい街並み、それに住民達の活気のある声、暖かな自然……気持ち良くてうとうとしてしまいそうです」
「ふふふ…気に入っていただけたようで何よりです」
「それはもう何度でも訪れたいほどです」
にこやかに紅茶を飲む。
「それで例の物は……」
キラン!……と王妃の目が光る。
「ここに……」
エマは懐から1枚のハンカチを取り出す。
「こ、これが……」
王妃は手袋をはめ、エマが取り出したハンカチを数100億円はする絵画のように恐る恐る手に取る。
「ふっふっふっ……そうです。日向殿が1日使ったハンカチになります」
「これが!……あなた!額縁を持ってきて!」
メイドに命じて事前に用意していた2メートルの額縁を持って来させ、ハンカチを額縁の中に丁寧に入れ、空気が入らないように慎重に閉じる。
「ありがとう…ありがとう!エマさん!」
王妃は涙ぐみながらエマの両手を握り、感情のままに激しく上下に動かす。
「これくらい……私も一つもらいましたから気にしないでください」
それから2人+メイドは日向について熱く語る。
*******************
王妃とのお茶会を終えたエマは……
「5番テーブル!パイナップルのあはん♡今夜は生クリームでできました!配膳お願い!」
王都の老舗お菓子屋さんの厨房でお菓子作り。
「やったー!新作のお菓子だあ!美味しそう!」
エマ店長の日替わり新作お菓子ウィークの効果は絶大で毎日500人の女性が食べにやってくる。
「店長!お客様達が店長のサインを欲しいそうです!」
ウェイトレスの男性(男は少し根暗そうなイケメンの方が誠実なのよ!)が厨房に入ってきて、ケーキを盛り付けるエマに伝える。
「あいよー!……やだわ!私ったらつい……はーい♡今行くわね♡」
男性オペラ歌手のような低く良く通る「漢」らしい声で答えてしまい、慌てて訂正する。
(ふふふ!楽しいわぁ!1週間前までは湿気臭いところで1人でお菓子を作ったり、たまにストレスが溜まると魔王の首を狙いに行ったりする生活を送っていたのが夢のようね……)
ーー大丈夫よ。時間はかかるかもしれないけど、あなたを必要とする人達が絶対にいるから。
(ミラ……あなたの言っていたことは本当だったわ……)
*********************
「お疲れ様ー!あとはよろしくね!また明日」
16時に閉店すると後の片付けは店員達に任せて、再び訓練場へと向かう。
「少し遅れてしまってごめんなさい」
訓練場で先に汗を流していた日向達に謝る。
「休みもなく大丈夫なのか?」
剣を鞘に収めたリナがエマに心配そうに話しかける。
「大丈夫よ。オネエさん。体力だけには自信があるから!心配ありがとう。リナさんも訓練のしすぎには気をつけなさいね。太刀筋がいつもより詰まっている感じがしたわよ」
エマの指摘に、
「ははは!エマ殿にはバレバレか……うん。気をつけるよ」
と、リナは笑う。
「はい」
そんな2人に日向は水の入った水筒を渡す。
「30分ほど休憩にしましょう」
日向の提案で訓練場の芝生へと移動して、みんなで腰掛ける。
「エマさんほどおいしくはないのですが、久しぶりにパウンドケーキを作ってみたのでよかったら」
みんな日向の手作りと聞いて一斉に口へと運ぶ。
(美味しい……それにほっこりする。私たち全員があまり甘い物は苦手な事に配慮して、卵と小麦粉、バターの甘みを活かしてあっさりとした口どけの良いケーキ……)
日向を見る。
日向はパウンドケーキを食べた全員の反応を伺うようにみていた。
(そうよね。自分が作った料理が出した人の口に合うか喜んでくれるまで安心できないものね……)
「大丈夫よ。とってもおいしくできてる」
エマが笑顔で感想を伝えると
「よかったぁ」
日向は胸を撫で下ろすように安心した表情を浮かべる。
(ああ……もう!その反応はわかっていたけど反則でしょ!)
エマは抱きつきたくなる衝動を必死に抑える。
初めて抱きついた時に腕を粉砕骨折させてしまってからというもの日向は誰かが脇に立つとビクビク怖がるようになってしまった。なので本当は抱きつきたいが、日向が恐怖心を克服するのを待つということでパーティーの女性陣で話し合った。
それから、休憩の間はたわいのない話をして、訓練再開。
「ふ!」「は!」
1時間ほどコンビネーションや模擬戦を行なってその日の訓練は終わった。
訓練後……
「ねぇ。少しだけ魔人同士で話さない?」
ミカを呼び止める。
しかし、エマに苦手意識を持っているミカは、行ってもいいし、行きたくもないと言った気持ちの問答で葛藤して、なかなか答えない。
「……新作のケーキいっぱいあるけどどうかしら?」
日向から支給されたマジックバックの中からたくさんのケーキの乗ったお皿を取り出す。
ぐぅぅぅぅぅ……
「食べます!(行きます!)」
ケーキにつられたミカはエマと先ほど休憩した訓練場の芝生へと行く。
「ん!美味しいです!」
ミカはチョコレートケーキをパクパク口の中へと運ぶ。
「慌てなくてもまだあるからゆっくり食べなさいな」
誰かに追われているように慌てて食べるミカにエマは紅茶をいれて渡す。
「ありがとうございます……ゴクン!ゴクン!……ふぅ」
一息ついたミカは鈴虫の鳴き声を聞きながら、沈んでいく太陽が照らすレッドオレンジの空を眺める。
「……」
今の自分に必要な物が他にもあるのではないか?でも、このまま自分の長所を伸ばして行ったほうがいい気もする……と言った迷いに苛まれているような感じに見えた。
(リナさん達が新しい技を身につけていく姿を羨望のような眼差しで見ていたものね……)
エマは紅茶を一口飲む。
「シンプルイズベストって言葉を聞いたことある?」
紅茶のカップを左手に持つお皿に置く。
「初めて聞きました」
ショートケーキをホールのまま食べながら答える。
「意味はね。単純が1番!チラッとだけあなたの話を聞いたんだけどね。あなたは聖国で1人で5年も修行してリーパーと戦っていたって……」
「はい」
もぐもぐ口で短く答える。
「その時って自分の足りない点を補うために鍛えた?それとも長所を伸ばすように鍛えたの?」
パイナップルあはん♡今夜は生クリームよ♡を食べながらエマは話す。
「そうですね。私は盾による防御は得意でしたが、1人で戦うとなると攻撃が全くできなかったので、剣を握って素振りから始めました」
紅茶でケーキを流し込む。
「そして最終的にはどうだったの?」
「ゴクン……ふぅ……最終的には剣による攻撃がうさぎ相手でも全く当たらなかったので、短槍、バトルアックスなど他にいろんなものを試して結局、盾を相手に思いっきりぶつけて失神させる戦い方に落ち着きました……あ……」
3つ目のケーキのお皿を手に取った所でミカは声を上げる。
「そっか!新しいことを覚える必要なんてないんだ!色んなことを試した中で私は盾が1番得意だったんだから、それを伸ばしていけばいいんだ!」
長年苦しめられていた悩みから解放されたように晴れやかな顔でエマの方を見る。
「ふふふ♡……世の中で起こっていることは全てが単純。複雑にしているのは人の「心」と「感情」。だから、嫌いなら嫌い、好きなら好きっていう感じで単純でいいのよ」
エマは笑って答える。
「はい!もう少しだけ鍛錬してきます!」
ミカは盾を持ち走り去る。
「若いっていいわねぇ~」
1の魔人「グラビティ」こと現在名「エマ」年齢5歳は、魔人プロトタイプこと現在名「ミカ」年齢7歳の背中を見つめる。
「ほーら!もっと腰を落としなさい」
慣れた手つきでロックオンしていた男性の腰へと手を伸ばす。
「うぅ……きつい……」
「頑張りなさい。そのくらい重心を落とすことで途中でぶれてしまう太刀筋の悩みが解決するはずよ」
腰(若干お尻より)をさわさわしながら、真面目な顔で指摘する。
「え!確かに太刀筋がぶれて剣の切れ味を活かしきれていないことで悩んでいましたが、話していないのになぜわかるのですか?」
お尻を触られていることを気にした様子はなく驚きの顔でエマに聞く若い隊士。
「うふふ♡それはね……私がいい女だからよ」
今度は胸筋を弄りながら耳元に顔を近づける。
「ええ!いい女とはそう言う条件を必要になってくるのですか!……女性とはお化粧などの美容の努力だけじゃなくてそんなことまで……僕も負けていられません!1!2!」
隊士が指摘通りに重心をさらに落とし込んだ素振りを始めたのでエマの手はお尻へと移動し、触り続ける。
「うん……いいわ!筋肉の動きも申し分ない。そのまま続けて500!」
「はい!10!11!」
隊士のお尻から手を離し、訓練する者たち全てに再び視線を向ける。
(最初は全身タイツなんてって思っていたけど……)
限界まで追い込まれた筋肉がピクピク動き、血管が浮き上がる。
(はぁ♡若くて発達した筋肉が強調されて素晴らしい服だわ!…着るのは嫌だけどね)
若い筋肉にうっとりしながら訓練を見守る。
なぜエマが訓練の指導をしているのかと言うと……
「トルクス。聖国の時みたいにうちの隊のやつらを鍛え直してやって欲しいんじゃが?」
ドスン!ドスン!ドスン!……
日向の右腕に抱きついたまま岩の巨人の手に運ばれるエマにチェンがお願いしたことが始まりだった。
「ええー……あんたの面倒を見るのだけはごめんだからね……」
「わしもごめんじゃ!」
日向の右腕に抱きついたままのエマとチェンは仲良く口喧嘩。
「で、いつ?」
「王都に帰ってすぐ頼む」
「わかったわ」
それから王都に入り、王城敷地内にある、サッカーグラウンドほどの広さの訓練場にて、「骨砕き(ボーン・クラッシャー)」の隊士達の訓練を指導した。
「動きを見ただけで一人一人の課題を見抜き、適切なアドバイスで訓練前よりも確実に成長したのがわかる!」
と、好評で魔王との決戦も近いこともあり、次の日から隊士達の指導を任されるようになった。
「エマさん。声とたまにお尻を触られてゾッとするけど、可愛いからチェン隊長と訓練するより全然いいな」
男性陣から意外にも好評……しかし、
「お肌のお手入れはどうやってるんですか?」
「スタイルの維持は?」
「その髪型マネをしてもいいですか?」
美容を気にする女性隊士……
「あの……同じ隊に好きな人がいまして……」
「どうやったらエマさんみたいにアグレッシブになれますか?」
恋する乙女達……
「エマさんって女性は恋愛対象なんですか?」
女の子の日で辛い日などは休ませてくれたり、親身になって愚痴を聞いてくれたりと「女」と言うものを熟知しているエマからのさりげない優しい行動とイケメンボイスでエマの虜となってしまう女性が多発している程、あっという間に人気者になっていた。
「はーい!ラストスパートよ!気張りなさい!」
木刀を素振りする紅蓮の前線部隊に発破をかける。
ゴオオン!ゴオオン!
「そこまで!お疲れ様!」
素振り1,000回を終えて座り込む隊士1人1人にタオルとそれから…
「疲れた時には生姜入りの紅茶を飲むと美容にいいし、冷え性から来る肩こり、疲れも取れるから欲しい人は飲んでね!」
特製のはちみつ生姜紅茶をコップに入れて配る。
「あなた達にはこれ……」
訓練後しばらくしてから体調を悪そうにしている女性隊士達には、特製の「マカ茶」を渡す。
「あれ?香りが違う……」
「エマさん。なんですかこのお茶?」
見た目から紅茶だと思った女性隊士達は口を近づけた瞬間に香る風味が紅茶と違うことに気づきエマに聞く。
「それはね。「マカ茶」って言ってね。生姜のような見た目の野菜を刻んで乾燥させて作ったお茶なの。特に女性が体調を崩した時に飲むと気休め程度だけど少しは気分が楽になるのよ。これを飲んだら午後の訓練は休みなさい。リナさんには伝えておいたから」
女性隊士達に説明する。
ゴオオン!ゴオオン!
10時を知らせる鐘の音が鳴る。
「あ!ごめんなさい!王妃様にお茶会に呼ばれてるから行くわね!ちゃんと休みなさいよ!いい!無理するのは良くないんだからね!男達!あんた達はお昼までにもう1セットやっておきなさい!いいわね!……20分の1」
エマは姿を消す。
「はい!姐さん!」
男達は敬礼し、訓練を開始する。
「ありがとうございます!エマお姉様!」
嬉しそうに女性達はお茶を飲みながら、男達の訓練を見守る。
******************
「遅くなり申し訳ありません。王妃様」
王城4階にある王妃の私室へ夏をイメージしたメイク、軽すぎず決めすぎない季節感のドレス、髪は綺麗にストレートにして、毛先を内巻きにした完全に見た目はご令嬢と言っても差し支えないエマが、メイドに案内され入室する。
「いえいえ。気にしていませんよ。兵士たちの指導お疲れ様です。遠慮なさらずにこちらへどうぞ」
8畳の広さの石造りのテラスへと招かれる。
「失礼致します」
招かれるままにテラスへと行き、王妃と隣り合わせに腰掛ける。今回のお茶会は王妃様たっての希望もあり、一対一でのお茶会。
「綺麗でしょう。王都が一望できるの」
道を行き交う人々、立ち並ぶ赤い瓦屋根の建物、時計塔……
「美しい街並み、それに住民達の活気のある声、暖かな自然……気持ち良くてうとうとしてしまいそうです」
「ふふふ…気に入っていただけたようで何よりです」
「それはもう何度でも訪れたいほどです」
にこやかに紅茶を飲む。
「それで例の物は……」
キラン!……と王妃の目が光る。
「ここに……」
エマは懐から1枚のハンカチを取り出す。
「こ、これが……」
王妃は手袋をはめ、エマが取り出したハンカチを数100億円はする絵画のように恐る恐る手に取る。
「ふっふっふっ……そうです。日向殿が1日使ったハンカチになります」
「これが!……あなた!額縁を持ってきて!」
メイドに命じて事前に用意していた2メートルの額縁を持って来させ、ハンカチを額縁の中に丁寧に入れ、空気が入らないように慎重に閉じる。
「ありがとう…ありがとう!エマさん!」
王妃は涙ぐみながらエマの両手を握り、感情のままに激しく上下に動かす。
「これくらい……私も一つもらいましたから気にしないでください」
それから2人+メイドは日向について熱く語る。
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王妃とのお茶会を終えたエマは……
「5番テーブル!パイナップルのあはん♡今夜は生クリームでできました!配膳お願い!」
王都の老舗お菓子屋さんの厨房でお菓子作り。
「やったー!新作のお菓子だあ!美味しそう!」
エマ店長の日替わり新作お菓子ウィークの効果は絶大で毎日500人の女性が食べにやってくる。
「店長!お客様達が店長のサインを欲しいそうです!」
ウェイトレスの男性(男は少し根暗そうなイケメンの方が誠実なのよ!)が厨房に入ってきて、ケーキを盛り付けるエマに伝える。
「あいよー!……やだわ!私ったらつい……はーい♡今行くわね♡」
男性オペラ歌手のような低く良く通る「漢」らしい声で答えてしまい、慌てて訂正する。
(ふふふ!楽しいわぁ!1週間前までは湿気臭いところで1人でお菓子を作ったり、たまにストレスが溜まると魔王の首を狙いに行ったりする生活を送っていたのが夢のようね……)
ーー大丈夫よ。時間はかかるかもしれないけど、あなたを必要とする人達が絶対にいるから。
(ミラ……あなたの言っていたことは本当だったわ……)
*********************
「お疲れ様ー!あとはよろしくね!また明日」
16時に閉店すると後の片付けは店員達に任せて、再び訓練場へと向かう。
「少し遅れてしまってごめんなさい」
訓練場で先に汗を流していた日向達に謝る。
「休みもなく大丈夫なのか?」
剣を鞘に収めたリナがエマに心配そうに話しかける。
「大丈夫よ。オネエさん。体力だけには自信があるから!心配ありがとう。リナさんも訓練のしすぎには気をつけなさいね。太刀筋がいつもより詰まっている感じがしたわよ」
エマの指摘に、
「ははは!エマ殿にはバレバレか……うん。気をつけるよ」
と、リナは笑う。
「はい」
そんな2人に日向は水の入った水筒を渡す。
「30分ほど休憩にしましょう」
日向の提案で訓練場の芝生へと移動して、みんなで腰掛ける。
「エマさんほどおいしくはないのですが、久しぶりにパウンドケーキを作ってみたのでよかったら」
みんな日向の手作りと聞いて一斉に口へと運ぶ。
(美味しい……それにほっこりする。私たち全員があまり甘い物は苦手な事に配慮して、卵と小麦粉、バターの甘みを活かしてあっさりとした口どけの良いケーキ……)
日向を見る。
日向はパウンドケーキを食べた全員の反応を伺うようにみていた。
(そうよね。自分が作った料理が出した人の口に合うか喜んでくれるまで安心できないものね……)
「大丈夫よ。とってもおいしくできてる」
エマが笑顔で感想を伝えると
「よかったぁ」
日向は胸を撫で下ろすように安心した表情を浮かべる。
(ああ……もう!その反応はわかっていたけど反則でしょ!)
エマは抱きつきたくなる衝動を必死に抑える。
初めて抱きついた時に腕を粉砕骨折させてしまってからというもの日向は誰かが脇に立つとビクビク怖がるようになってしまった。なので本当は抱きつきたいが、日向が恐怖心を克服するのを待つということでパーティーの女性陣で話し合った。
それから、休憩の間はたわいのない話をして、訓練再開。
「ふ!」「は!」
1時間ほどコンビネーションや模擬戦を行なってその日の訓練は終わった。
訓練後……
「ねぇ。少しだけ魔人同士で話さない?」
ミカを呼び止める。
しかし、エマに苦手意識を持っているミカは、行ってもいいし、行きたくもないと言った気持ちの問答で葛藤して、なかなか答えない。
「……新作のケーキいっぱいあるけどどうかしら?」
日向から支給されたマジックバックの中からたくさんのケーキの乗ったお皿を取り出す。
ぐぅぅぅぅぅ……
「食べます!(行きます!)」
ケーキにつられたミカはエマと先ほど休憩した訓練場の芝生へと行く。
「ん!美味しいです!」
ミカはチョコレートケーキをパクパク口の中へと運ぶ。
「慌てなくてもまだあるからゆっくり食べなさいな」
誰かに追われているように慌てて食べるミカにエマは紅茶をいれて渡す。
「ありがとうございます……ゴクン!ゴクン!……ふぅ」
一息ついたミカは鈴虫の鳴き声を聞きながら、沈んでいく太陽が照らすレッドオレンジの空を眺める。
「……」
今の自分に必要な物が他にもあるのではないか?でも、このまま自分の長所を伸ばして行ったほうがいい気もする……と言った迷いに苛まれているような感じに見えた。
(リナさん達が新しい技を身につけていく姿を羨望のような眼差しで見ていたものね……)
エマは紅茶を一口飲む。
「シンプルイズベストって言葉を聞いたことある?」
紅茶のカップを左手に持つお皿に置く。
「初めて聞きました」
ショートケーキをホールのまま食べながら答える。
「意味はね。単純が1番!チラッとだけあなたの話を聞いたんだけどね。あなたは聖国で1人で5年も修行してリーパーと戦っていたって……」
「はい」
もぐもぐ口で短く答える。
「その時って自分の足りない点を補うために鍛えた?それとも長所を伸ばすように鍛えたの?」
パイナップルあはん♡今夜は生クリームよ♡を食べながらエマは話す。
「そうですね。私は盾による防御は得意でしたが、1人で戦うとなると攻撃が全くできなかったので、剣を握って素振りから始めました」
紅茶でケーキを流し込む。
「そして最終的にはどうだったの?」
「ゴクン……ふぅ……最終的には剣による攻撃がうさぎ相手でも全く当たらなかったので、短槍、バトルアックスなど他にいろんなものを試して結局、盾を相手に思いっきりぶつけて失神させる戦い方に落ち着きました……あ……」
3つ目のケーキのお皿を手に取った所でミカは声を上げる。
「そっか!新しいことを覚える必要なんてないんだ!色んなことを試した中で私は盾が1番得意だったんだから、それを伸ばしていけばいいんだ!」
長年苦しめられていた悩みから解放されたように晴れやかな顔でエマの方を見る。
「ふふふ♡……世の中で起こっていることは全てが単純。複雑にしているのは人の「心」と「感情」。だから、嫌いなら嫌い、好きなら好きっていう感じで単純でいいのよ」
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