いじめられっ子の僕が

さくしゃ

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 エマが王都に来て1週間……

 ー王都訓練場ー

 「重力操作……20分の1」

 エマの重力操作により、エマが対象指定した日向達の体重が20分の1まで減少する。

 「身体強化「Ⅴ」……瞬動」
 「〈限界突破〉……縮地」

 前衛組の日向とリナが互いに高速移動スキルで50m先の木人(木刀の打ち込みの際に使っている物)まで一瞬で移動する。

 「一閃」

 日向は槍に風を纏わせて突きを放ち、木人を消し飛ばす。

 「火天!」

 3秒ほど遅れて、2,000度(ガスバーナーの炎相当)の熱を帯びた剣で木人の喉元を貫く。

 「ふぅ……」

 チャキン……と剣を鞘に収める。

 一息つき、剣を収める間に木人に火が付く。

 ボオオオオ……

 一気に燃え上がり、灰と化す。

 「どうでした?」

 日向はリナに聞く。

 「やはり軽くなりすぎるのもダメですね。胸を狙ったつもりでしたが、喉元までずれました」

 想定していたよりも一歩の踏み込みで普段の20倍は進むのでどうしてもタイミングなどが僅かではあるがずれてしまう。

 「僕も同じでした……1番しっくり来たのは6分の1くらいですかね?」

 日向は今日の連携訓練「重力操作による移動速度の強化」を試す中で6分の1(普段の移動速度が6倍速くなる)時の感覚を思い出す。

 「そうですね…敵の動きも見ながら攻撃の変更もでき、剣の威力も軽すぎず、鋭さが増していましたので、6分の1がベストだと思います」

 体に残った感覚から日向の質問に答える。

 「私もそれがいいと思うわ。遠くから見ていても、体の連動、軸、見ながらの行動の変更など全てがベストだったのは6分の1だったわ……ミカはどう?」

 「扉(ゲート)」からミカが姿を表す。
 
 「私も6分の1でいいと思います。ただ、真正面から攻撃を受けなくてはならない時は、体重が6倍になっている時の方が耐えられました」

 日向の風の槍による攻撃「投擲(ランサー)」を受けた時、通常よりも体が軽くなっていたこともあり、まともに受け流すこともできずに終わった。

 「そっかぁ…うーん…私も戦いながらだと対象者全員の重さをその都度適したタイミングで操作するのまではできないしなぁ…それに私を起点に30mのまでしか使えないから…」

 うーん……どうしたら良いかみんなで頭を悩ませる。

 「エマって前衛で戦うわよね?」

 みんなで頭を悩ませる中、エミがエマに聞く。

 「そうね。ムカつくやつは自分で殺っちゃいたいから」

 エマは肩に携えている巨斧を構えて笑う。

 「特にこいつでドチャ……って」

 そんなエマにドン引きしつつも

 「なら、高速移動スキルのないミカとエマが常に一緒に行動して、ミカは受け流しと空間操作によるカウンター、敵味方の移動場所変更の時のサポートに注力すればどう?これなら、日向とリナは攻撃に専念すればいいんじゃない。敵は必ず2人の攻撃の対応で手一杯になるはずだから」

 と、答える。

 「……それだ!それなら……」
 「はい!不器用な私でも戦いやすくなります!」

 頷きあう。

 「一通りコンビネーションの確認はできましたし、この後は各個人の訓練に別れますか?」

 日向はマジックバックに槍をしまい、人数分の水筒を取り出す。
 
「ありがとうございます。私はもう少しだけ実戦に近い形で練度を上げていきたいですね…ん!甘くて美味しい!…」

 今日の水筒の中身はチョコレートモカ

口の中に広がる香ばしいカカオの香りとココアのような甘味…

 そして、後からコーヒー豆による苦味により甘すぎず、すっきりとした味になる…

 しかし、甘みと苦味だけでは味がケンカをしてしまい数口で飽きてしまう。そこで、ミルク(牛乳)を入れることで味同士がまとまり、嗜好(しこう)の一品へと押し上げる。

「この前エマが作ってくれた「ビターチョコケーキ」にすごく合いそう」
「私は「ショートケーキ」がいいですね」
「ええ。甘くなりすぎて気持ち悪くならない?」
「エミさんも分かっていませんね。甘いものに甘いもの!これに勝るものはないですね」
「ミカってたまに味音痴だから信用出来ないわ……でも、料理の幅が広がりそうね……今度試してみよう」

顎に手を当てて考えるエミ

(味見役として好きなだけケーキが食べられる)

と、したり顔のミカ。

「新しいお菓子のアイデアが浮かんで来そうだわぁ……あっ…実践訓練がしたいなら私の管理している魔物を生み出す魔法陣が残ってるからそれを活用しましょう……新しいお菓子の名前は……」

ぼんやりだが、次の新作お菓子フェアに向けて準備をしているエマの頭の中に早くも次のお菓子の完成像が浮かび上がりつつあった。

「エマさんの新しいお菓子!」
「楽しみね!」
「次はどんなお菓子なんだろう」

ミカ、エミ、リナの順で女性陣が即座に反応。

(実践形式…どんなのが良いんだ?…)

チョコレートモカで糖分を摂取しながら、次の訓練について頭を悩ませる日向。

「「「……え?」」」

しばらくして日向、リナ、エミがエマの方を見る。

「「「今、魔法陣って……」」」

綺麗にハモる3人の声。

「言ったわよね?」
「言ったよな?」
「言いましたよね?」

あまりにもさらっと言われたので、自身が耳にしたことが信じられない3人は互いに顔を見合わせて確認し合う。

「……ああ!」

風に揺れる枝を見ていたエマが急に叫びながら立ち上がる。

「「「……ええ!」」」

3人とも聞き間違いではなかったことに驚き、エマと同じタイミングで声を上げる。

「え?」
「「「へ?」」」

今度は4人で顔を見つめる。

「3人で叫んだりして何かあったの?」

エマは3人を見て心配顔で尋ねる。

「エマこそ声をあげてどうしたのよ?」

3人を代表してエミが聞く。

「ふふふふ……」

エミが質問するとエマはしばらくして急に嬉しそうに笑い出す。

「新作お菓子の名前が決まったのよ!……訓練が終わったらキッチンを借りて…食材の買い出し…食材は……」

ポケットからペンとメモ帳を取り出して勢いよく食材や組んだ予定を殴り書いていく。

「……あら?そういえば3人はなんで叫んでいたの?」

書き終わったエマは、ペンとメモ帳をしまう。

「やっと終わった……」

自分の世界に入ってしまった時のエマに話しかけても返事が来ないことは分かりきっている日向達は書き終わるのを待っていた。

「新作お菓子の後に自分が管理している魔法陣でコンビネーションを試せばいいって言いませんでした?」

エマは考えすぎてズキズキするこめかみを抑える。

「ああ……うん。言ってるわね。それがどうかしたの?」

チョコレートモカを飲む。

「魔物を生み出す魔法陣って魔王だけが弄れるんじゃないんですか?」

黒く光る魔法陣が頭に浮かぶ。

「ええ。その通りよ。でも、魔王は常にいるわけじゃないから管理は魔人に任せられているの。だから生み出す魔物の数、種類、強さくらいは魔人でも操作できるの」

凄いでしょう!とウインクする。

「……ははっ!これならレベルもさらに上げられるわね!」

嬉しそうにエミが笑う。

「日向殿」

リナは日向を見る。

「……エマさん。よろしくお願いします」

日向はエマに頭を下げる。

「うふふ♡ご褒美はデート5回でいいわよ?」

ちゃっかり褒美をねだる。

「……善処します」

あまり乗り気でない時に使われる言葉で返事をしておく。

「ふふふ……その言葉って乗り気でない時に使われるわよね……まあ、いいわ。デートは10回にまけてあげる。移動はどうするの?普通に歩いていくなら1週間くらいだけど……」

さらっとデートの回数を増やす。

「僕に任せてください。風で空を飛んでいけばかなり短縮できます」

日向はデートの回数が増えたことに気づかない。

「分かったわ。道案内は任せて……それから。疲れた時は言いなさいね。遠慮する必要はないから」

誰かのためとなると平気で倒れるまで動く日向……ビクッと反応する。

「ははは……善処します」

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