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野営
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「うん、ここら辺でいいかな」
夕日がほとんど沈み虫達が泣き出し始めた頃、あたしは依頼書にある洞穴をギリギリ気配探知で補足できる位置で止まる。
「あれ?このまま討伐されにいくのではないのですか?」
てっきりこのまま洞穴に突っ込んで討伐するものだと思っていたエーさんはあたしに尋ねる。
「よく考えたらあたし達ってカーティスの街から走り通しで村にきてそのままヘルハウンドの群れと戦ったでしょ。だから、少し休んだほうがいいかなと思って」
「でも急がないと村の人達に大きな被害が出るかもしれ」
「大丈夫。エーさんが村の人達を治療してる間に村の周囲にヘルハウンドの死体をばら撒いておいたから。少なくとも警戒心が強くて頭のいい魔獣どもは逃げていくよ」
「そんな方法があるのですね」
「うん。確か5年くらい前だったかな。バジリスクの討伐に行った先の村の村長が『倒した魔物の死体を置いておけば臆病な魔物はそれを見た瞬間に逃げ出す』って言っていて本当かどうか何度か試したんだけど毎回本当に逃げ出すんだよね」
「なるほど。でも、休むにしてももう少し洞穴の近くの方がいいのではないですか?その方がもしバジリスクが出てきたとしてもすぐに対応できると思うのですが?」
小腹が空いたあたしのためにおやつ用のチーズを出してくれるエーさん。
「うまうま……それも大丈夫。ギルドの人達は信用してくれなかったけど5年前の依頼の時にバジリスクをストーキングしてわかったんだけど、バジリスクってどうも3日に一度、深夜に外へ出て来るんだよね」
「そうなんですか。ギルドの冊子には何も」
「まあね。ギルドにその事を伝えたんだけど当時は今のギルマスじゃなかったから相手にされなかったんだよね。それにバジリスクはどうも小動物を好んで食べるらしくて私たちが今いる場所のようにリスやうさぎが生息している所にやってくるんだ」
「あ、だからここで休むわけですね。待ち伏せも兼ねて」
「そう言う事。今が大体夕方の6時くらいだから後5時間もすれば出て来ると思う。今日出てこなかったら一度村に戻って休んで洞穴を襲撃するって感じでいいかな?」
「はい。私には魔物の知識がありませんのでアイリス様に従います」
「ありがと。それから様はいらないよ。アイリスって呼び捨てかアーちゃんって呼んで。それに従わなくていいから。エーさんにはエーさんの気持ちがあるんだから異論があるなら気にせず言うこと。OK?」
あたしの言葉にきょとんとするエーさん。
「あれ?なんかまずいこと言った?」
「いえ。これまで『お前は従っていればいいだよ』としか言われたことがないのでいざ自分の気持ちと言われるとよくわからなくて」
下を向くエーさん。
「そっか……ま、少しずつ慣れてけばいいんじゃない?」
「……あ、アイリス様!またチーズの端っこだけ食べ残して!もったいないので食べちゃってください」
「えー、チーズの端っこって味が濃くてなんか嫌なんだよね……て早くも自己主張できてる!」
「いいから早く食べてください!」
「あ、すみません」
あたしはエーさんに見張られながらちびちびチーズを食した。
それからエーさんと2人でテントを設営し、エリアハイヒールに補助魔法と魔力の使いすぎで疲れた様子のエーさんを寝かせた。
その間あたしは焚き火の番をしながらエーさんからもらったオーク肉で1人バーベキューをして時間を潰した……うまうま!
「チッチッ!」
「お、君たちリスが帰っていくと言うことは出てきたかな……気配探知」
自身の魔力を周囲へ気付かれないようにうっすらと放出、標的の気配を探る。
「あ、出てきた出てきた。反応から言って2体、こっちへきてるね。エーさん起きてー、バジリスクが来るよー」
テントを揺らす。
「……もう朝ですか?」
目をこすりながらテントから出て来るエーさん。
ははーん。
夜更かしとかあまりできないタイプだな。
これはいい発見をした。
「違うよ、バジリスクがこっちに来るから証拠隠滅するよー」
「んー……あ!そうでした!すぐにテントを片付けます!」
「わかった。あたしは土魔法で地中深くに焚き火を埋めちゃうねー」
気配探知でバジリスクの位置を確かめながら「はあ!落とし穴に泥沼!」と焚き火を処理しつつトラップ魔法を仕掛ける。
さらにバジリスクも気配探知が使える為、自分とエーさんに気配遮断をかけて茂みに隠れる。
「あと三十秒もすればここに来る。手筈通りあたしが気を引きつけるからフィニッシュはエーさんね」
「はい」
「じゃあいく……あれ?」
さっきまで気配探知には2体のバジリスクの反応があったのにいきなり消えた。
あたしは気配探知の範囲を狭めて探知の精度を上げる。
「アイリス様どうしました?」
おちゃらけたいつもの様子から一転して急に真剣な表情となったあたしを見て怪訝な表情のエーさん。
「……エーさん!下からバジリスクが来る!上に飛んで!」
突然の私の指示に疑問符を浮かべながらも素直に上に飛ぶエーさん。
あたし達が上に飛んだ直後、数瞬前まであたし達が居た地面が隆起し赤いバジリスクが現れた。
「でか!」
地中から勢いよく姿を現したバジリスクを見てそのあまりの大きさに驚愕する。
「シャアアア!!」
ギルドで確認された最大個体は十メートルと記録されているが私たちの目の前にいる個体は有にそれを超える大きさ。
推定で十五メートルはある。
それに……
「シャアア!」
毒ではなく火を吐く。
「やっぱり居たか特殊個体……形状変化、モードショートソード、とエイミちゃん」
エクスカリバーとエイミちゃん(ミスリルダガー)を両手に持ち構える。
「シャアア!」
そこにもう一体のバジリスクが姿を現す。
「エーさん。本体と人化で負担がかかるけどもう一体の方お願い」
「すぐに終わらせて合流します……剣召喚」
エーさんはおそらく聖剣?と思われるロングソードを構える。
て言うか、剣まで召喚できるんだ。
ここまで来ると人化したエーさんが本体を持って戦った方が強いんじゃ……
「ま、そんなこと気にしてもしゃーない。村の人達のためにもさっさと倒しちゃいますか」
夕日がほとんど沈み虫達が泣き出し始めた頃、あたしは依頼書にある洞穴をギリギリ気配探知で補足できる位置で止まる。
「あれ?このまま討伐されにいくのではないのですか?」
てっきりこのまま洞穴に突っ込んで討伐するものだと思っていたエーさんはあたしに尋ねる。
「よく考えたらあたし達ってカーティスの街から走り通しで村にきてそのままヘルハウンドの群れと戦ったでしょ。だから、少し休んだほうがいいかなと思って」
「でも急がないと村の人達に大きな被害が出るかもしれ」
「大丈夫。エーさんが村の人達を治療してる間に村の周囲にヘルハウンドの死体をばら撒いておいたから。少なくとも警戒心が強くて頭のいい魔獣どもは逃げていくよ」
「そんな方法があるのですね」
「うん。確か5年くらい前だったかな。バジリスクの討伐に行った先の村の村長が『倒した魔物の死体を置いておけば臆病な魔物はそれを見た瞬間に逃げ出す』って言っていて本当かどうか何度か試したんだけど毎回本当に逃げ出すんだよね」
「なるほど。でも、休むにしてももう少し洞穴の近くの方がいいのではないですか?その方がもしバジリスクが出てきたとしてもすぐに対応できると思うのですが?」
小腹が空いたあたしのためにおやつ用のチーズを出してくれるエーさん。
「うまうま……それも大丈夫。ギルドの人達は信用してくれなかったけど5年前の依頼の時にバジリスクをストーキングしてわかったんだけど、バジリスクってどうも3日に一度、深夜に外へ出て来るんだよね」
「そうなんですか。ギルドの冊子には何も」
「まあね。ギルドにその事を伝えたんだけど当時は今のギルマスじゃなかったから相手にされなかったんだよね。それにバジリスクはどうも小動物を好んで食べるらしくて私たちが今いる場所のようにリスやうさぎが生息している所にやってくるんだ」
「あ、だからここで休むわけですね。待ち伏せも兼ねて」
「そう言う事。今が大体夕方の6時くらいだから後5時間もすれば出て来ると思う。今日出てこなかったら一度村に戻って休んで洞穴を襲撃するって感じでいいかな?」
「はい。私には魔物の知識がありませんのでアイリス様に従います」
「ありがと。それから様はいらないよ。アイリスって呼び捨てかアーちゃんって呼んで。それに従わなくていいから。エーさんにはエーさんの気持ちがあるんだから異論があるなら気にせず言うこと。OK?」
あたしの言葉にきょとんとするエーさん。
「あれ?なんかまずいこと言った?」
「いえ。これまで『お前は従っていればいいだよ』としか言われたことがないのでいざ自分の気持ちと言われるとよくわからなくて」
下を向くエーさん。
「そっか……ま、少しずつ慣れてけばいいんじゃない?」
「……あ、アイリス様!またチーズの端っこだけ食べ残して!もったいないので食べちゃってください」
「えー、チーズの端っこって味が濃くてなんか嫌なんだよね……て早くも自己主張できてる!」
「いいから早く食べてください!」
「あ、すみません」
あたしはエーさんに見張られながらちびちびチーズを食した。
それからエーさんと2人でテントを設営し、エリアハイヒールに補助魔法と魔力の使いすぎで疲れた様子のエーさんを寝かせた。
その間あたしは焚き火の番をしながらエーさんからもらったオーク肉で1人バーベキューをして時間を潰した……うまうま!
「チッチッ!」
「お、君たちリスが帰っていくと言うことは出てきたかな……気配探知」
自身の魔力を周囲へ気付かれないようにうっすらと放出、標的の気配を探る。
「あ、出てきた出てきた。反応から言って2体、こっちへきてるね。エーさん起きてー、バジリスクが来るよー」
テントを揺らす。
「……もう朝ですか?」
目をこすりながらテントから出て来るエーさん。
ははーん。
夜更かしとかあまりできないタイプだな。
これはいい発見をした。
「違うよ、バジリスクがこっちに来るから証拠隠滅するよー」
「んー……あ!そうでした!すぐにテントを片付けます!」
「わかった。あたしは土魔法で地中深くに焚き火を埋めちゃうねー」
気配探知でバジリスクの位置を確かめながら「はあ!落とし穴に泥沼!」と焚き火を処理しつつトラップ魔法を仕掛ける。
さらにバジリスクも気配探知が使える為、自分とエーさんに気配遮断をかけて茂みに隠れる。
「あと三十秒もすればここに来る。手筈通りあたしが気を引きつけるからフィニッシュはエーさんね」
「はい」
「じゃあいく……あれ?」
さっきまで気配探知には2体のバジリスクの反応があったのにいきなり消えた。
あたしは気配探知の範囲を狭めて探知の精度を上げる。
「アイリス様どうしました?」
おちゃらけたいつもの様子から一転して急に真剣な表情となったあたしを見て怪訝な表情のエーさん。
「……エーさん!下からバジリスクが来る!上に飛んで!」
突然の私の指示に疑問符を浮かべながらも素直に上に飛ぶエーさん。
あたし達が上に飛んだ直後、数瞬前まであたし達が居た地面が隆起し赤いバジリスクが現れた。
「でか!」
地中から勢いよく姿を現したバジリスクを見てそのあまりの大きさに驚愕する。
「シャアアア!!」
ギルドで確認された最大個体は十メートルと記録されているが私たちの目の前にいる個体は有にそれを超える大きさ。
推定で十五メートルはある。
それに……
「シャアア!」
毒ではなく火を吐く。
「やっぱり居たか特殊個体……形状変化、モードショートソード、とエイミちゃん」
エクスカリバーとエイミちゃん(ミスリルダガー)を両手に持ち構える。
「シャアア!」
そこにもう一体のバジリスクが姿を現す。
「エーさん。本体と人化で負担がかかるけどもう一体の方お願い」
「すぐに終わらせて合流します……剣召喚」
エーさんはおそらく聖剣?と思われるロングソードを構える。
て言うか、剣まで召喚できるんだ。
ここまで来ると人化したエーさんが本体を持って戦った方が強いんじゃ……
「ま、そんなこと気にしてもしゃーない。村の人達のためにもさっさと倒しちゃいますか」
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