お前はいらないと捨てられた聖剣エクスカリバー、実は捨てられた本人ですらその凄さを知らずに新たな所有者と無双する……かも!

さくしゃ

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エーさん 対 通常種、アイリス 対 特殊個体

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「シャアア!」

 私ではなくエーさんを威嚇する特殊個体……よく見ると通常種の青い皮膚とは違って燃え上がるような赤い色をしているから……

「よし!赤!と呼ぼう。おーい、お前の相手はこっちだぞー。赤」

 声をかけてもチラ見してエーさんの方へ向かおうとする赤。
 しょうがないな。あれやるか……
 あたしは気配遮断をかけたまま音を立てずに足の親指だけで移動。
 深夜の風に揺れる枝の音に紛れ赤の背後へ行き、地上から四メートルの高さにある後頭部目掛けて飛ぶ。

「ダブルスラッシュ」

 目標到達後、エクスカリバーとエイミちゃんを同時に振るう。
 ここまで接近すれば気配探知ならあたしの存在に気がついているはずだけど一向に振り向かない。
 その間にエクスカリバーとエイミちゃんは赤の後頭部を捉え十字に交差、一瞬、鉄のように硬い外皮に阻まれたがそんなもの関係なくスパンと切り裂く。

「き、シャアア!」

 バジリスクの血が辺りに飛び散る。
 思ったよりも深手という傷ではなくグリンと首を回し、血走った目であたしを睨む赤。

「バーカ。よそ見して油断してるお前が悪んだからなぁ。悔しかったらここまでおいでーマヌケー!おしーりぺんぺん!」

 あたしが知っている唯一の挑発方法。
 頼むから乗ってきてくれ!25にもなって人前でお尻を叩くなんて恥ずかしい!

「……き、シャアアアア!!!」

「よっしゃ!釣れたぁ!こっちだよ!ばーかばーか!」

 あたしの後を追って来るバジリスク。

「エーさん!多分大丈夫だろうけど気をつけてねー!こっちのことは心配しなくていいから。多分すぐ終わるー!」

「わかりました!アイリス様お気をつけて!」

 まだお互いに連携なんかに関しては確認しあってないので返って2人で戦うよりも二手に分かれた方がハンデにならずに済む。と村に向かう途中の街道で話し合っていたので予定通り二手に別れる。


◇◇◇


「すごい。野営準備をしている時にアイリス様が話されていた通りだ。特殊個体に通常種……」

 大雑把に見えていろんな可能性を考え対策を練るアイリス様に脱帽すると共に新しい主の優しさに感動する。
 今まで気をつけてなんて言われることなんてなかった。
 率先して前に出ろ、敵の気を引きつけて隙を作れ、俺たちへの支援魔法も手を抜くな。
 やるのが当たり前。やらなければ罵られる。
 それに比べてアイリス様はオーク……は自分で倒したけど、オーガの森から出る時に遭遇したゴブリンも昼間のヘルハウンドも今対峙しているバジリスクも私が強い方と戦うと言ってもそれを静止して前に出ていかれる。

「すみませんが私の新たな主がここで戻ってきますので速やかに倒させていただきます!」

 私と対峙するバジリスクは私に位置を覚らせないように素早い動きで森の中を縦横無尽に動き回り隙を窺う。
 
「視覚強化(強)、スキル『夜目』、ステータス強化(極)、クイック……ここは昼間に拝見したアイリス様の斬撃を真似させていただきましょう」

 スキル「夜目」と視覚強化(極)により深夜の暗い森の中も昼間のように見える。
 そしてクイックにより動体視力も強化され素早く動き回るバジリスクも難なく補足。

「シャアア!」

 バジリスクが吐きかけて来る毒を宙に飛び避ける。

「シャア!シャアアア!」

 宙に飛んだ私に青色の強酸性の毒を飛ばすと間を置いて鋭い尻尾を突き出してきた。

「月に照らされる青ですか。綺麗ですね。機会があればアイリス様にもお見せしたいものですーーーー『斬空』」

 剣を一閃。
 アイリス様が放った斬空とは違うスキルを使用せず底上げしたステータスのみで放った斬撃。
 
「やはり私はまだまだです」

 トン……と動物達の眠りを妨げないように静かに着地。
 
「バジリスクだけを斬るつもりが地面を深く抉ってしまいました」

 エーさんの視線の先には縦に真っ二つに割れたバジリスクが横たわる地面。
 おそらく太陽に照らされても底がはっきりと見えない斬撃の跡を見てため息をこぼす。

「アイリス様ならば弱点である眉間だけを貫くはず……もっと精進しないと。次は強化魔法なしで斬撃を放てるように」

 月を眺めて硬く誓うエーさん。

「さて、解体を済ませてしまいますか」


◇◇◇


 エーさんがバジリスクを倒す少し前……

「この辺までくればいいかな」

 障害物となる木がない開けた場所に出たので追いかけっこを止めるあたし。

「うん、木もないし火事になることはないかな。あまり大きい被害を出すと後でギルドに怒られるからなぁ……っと、来たな」

 私の足元が盛り上がり赤が姿を現す。とすかさず上空へと飛んだあたしへ火を吐く。

「地中を移動するとかモグラかよ。これは逃したら面倒だな!っと!」

 身を翻しギリギリで避け華麗に着地。
 フッ……今の身のこなしは観客がいたら金が取れるなーー

「……って、あっち!うおおお!避けきれなくて髪が!私の自慢の髪に引火したぁぁ!」

 ま、まずい!この歳で禿げるのだけはまずい!

 仕方なく苦渋の決断でベリーショートの長さで綺麗に切りそろえる。

「シャアア!キシャアア!」

 血走った目で私に毒を吐きかけて来る赤の攻撃を避けながら。

「ふむ。ベリーショートのあたしも悪くないな」

「シャアア!」

 手鏡でちゃんと切り揃っているか確認。次いでに鏡の中の自分に酔いしれ、背後から迫る赤のブレスを上に飛んで避ける。

「よし。反撃開始」

 手鏡をしまいつつ武器を構える。
 
「シャアア!シャア!」

 尻尾による刺突の連打。
 
「よ、はっ、ほー」

 左に移動しつつ、パリィ(受け流し)で全ての攻撃を交わす。
 しかし……

「ぬあああ!まずい!森の一部が!」

 高さ十メートルの木を一撃毎に10本、避けた回数が10回だから合計100本近く薙ぎ倒された。

「シャ……シャア」

 薙ぎ倒された木を見て慌てるあたしを見てニヤリと笑う赤。

「シャアア!」

 森を背にするあたしに向かってブレス。
 その炎からは鼻をつく嫌な臭い。

「げ!炎に毒が混じってんじゃん!」

 まじかよ……

「よかったぁ。毒消し草300本用意しておいて。そしてこんなこともあろうかと……発動!」

 パァァン……と指を鳴らす。
 尻尾攻撃を避けつつ地面に仕掛けたトラップ魔法「ロックドーム」を発動。

「シャ!シャアア!」

 突然周囲を岩に囲まれた赤は戸惑いの声を上げる。
 その声は真ん中だけぽっかりと空いた天井から外へ反響。
 そして……

「ムハハ!さらに発動!ロックスピア!」

 と、赤が地中へ逃げないように数百の岩の槍を地面から発動し空へ突き上げる。

「シャッ!シャアーアー!」

 今まではもがけばなんとかなった地面と違い、今はもがいてもどうにもならない空中。
 どうしたらいいか分からずにパニくる赤。

「わかるよ。私も初めて空へ投げ飛ばされた時はどうしたらいいか分からなかったよ。本当なら助けてあげたいけ……ふぁぁ、眠くて頭が回らなくなってきたからこれでおしまいね」

 この眠気の強さはそろそろ日付が変わる頃かな。
 
 あたしは眠い目をこすりながらエクスカリバーを一閃。

「シャア!シャアアア!!」

 ええ!もっと真面目にやって!!とでも言いたげな赤を私の斬撃が真っ二つに切り裂く。

「ちょうどさっきまで食べていた肉が消化されたかな……眠気覚ましにバジリスク肉って確か口の中が痙攣する程変わった味がして美味しいってギルマスが言ってたっけ……」
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