美少女おじさん ~ちやほやされたいので異世界転移でカワイイ美少女になることにした~

Ell

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第二十五話 酒神の悪戯

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 宿『羊の角曲がり』でのどんちゃん騒ぎから一夜明けて……朝。
 私は割とスッキリと目覚めた。あぁ……二日酔いが無いって素晴らしい……。
 そして周りはと言えば……可愛い子猫ちゃんが二匹。
 一匹はまるまって「おねぇさまぁ」なんて寝ぼけながら私へのひっつき虫となっている。
 そしてもう一匹は……「うぅ……うぅぅ……」とうなされている。そりゃあな……あんな酔い方したらな……今日は大変だぞぉ……おまけに船の上だからな……。
 とかなんとか思っていると二人も起き出してきた。
「おねぇさまぁ……おはようございますぅ……」
「おはよう、ミレイ」
「おねぇさまぁ……あったかいですぅ……」
 寝坊助ねぼすけさんである。まあかわいいのでよし。
「おはよぅ……あいたたたた……あれ……わたし……」
「おはよう、ギンシュちゃん」
「お前達……いつ戻ってきたのだ……おかげで私は……いたたたたっ! なんだこれは!?」
「もしかして、お酒初めて飲んだの?」
「当たり前だ! くぅ……大きな声を出させるな……頭に響く……」
「出さなきゃいいじゃん……それはね、二日酔いっていうんだよ」
「なんだそれは?」
「お酒を飲みすぎた人が翌日なる頭痛のこと。お父さんとかなってなかった?」
「んん? ……あぁ、もしかして『酒神しゅしん悪戯いたずら』のことか? そうか、これが噂の……いたたたっ!」
 この世界だと二日酔いのこと『酒神の悪戯』っていうんだ。へーっ。
「お酒の神様が、飲みすぎた人に対して戒めるものだと言われているですぅ。次は飲みすぎないようにねって。お酒で楽しい気持ちになるのもほどほどに、っていう悪戯だとか」
 ミレイの解説。なるほどなぁ。
「でも、お姉さまのいう『二日酔い』ってのも面白い言葉ですぅ。一日目の酔いは気持ちいいけれども、二日目の酔いは気持ち悪い酔いなんですねぇ。なるほどなるほどぉ」
「確かにそうだね。そうだ。ギンシュちゃんは水出せる?」
「みずぅ?」
「二日酔いは水分とって大人しくしてるくらいしかないから」
「そうなのか? っつっぅ……父は昔、魔法使いになんとかして貰えれば、とか言っていたのだが」
 え? 魔法使いが二日酔い治せるの?
 うーん……ちょっと考えてみよう。
 二日酔いとはどうして起きるのか。簡単に言うと、肝臓がアルコールを分解する速度よりも大量のアルコールが体内に溜まってしまったことで発生する。例えて言うと、電車に大勢の人が詰めかけて、駅が混雑した状態ってことだよね。
 つまり解決方法としては、駅のキャパシティを増やすか電車の本数を増やすか。例えの駅が肝臓で、電車が血管だから……肝臓の活動を活発化するか、血管の流れをどうこう、ってこれ後者が水分を多めに摂取したりってことなのかな?
 じゃあ肝臓の活動を活発化は……うーん……あ!
「ミレイ、確か闇魔法に【ポイズン】ってのがあるんだよね?」
「え? ええそうですぅ。【闇魔法】は【ダーク】もそうですけど、状態異常とか混乱とか、目に見えない作用を相手に引き起こすのが得意な系統の魔法だと教わったですぅ」
「ってことは、対称的であるはずの【光魔法】は、そういった状態異常とかを回復するのが得意ってことじゃないかな?」
「確かに……そうかもしれないですぅ!」
「ってことは、【光魔法】で肝臓の活動を活発化させれば……いけるかも!」
「そういえばお姉さまが言う『カンゾウ』ってなんです?」
「後で説明するよ。ところでギンシュちゃん、ちょっとその『酒神の悪戯』を治す実験台になって貰ってもいいかな?」
「この頭痛と気持ち悪さが何とかなるなら、どうにでもしてくれ……私はもう無理だ……動ける気がしないぞ……」
 なんとまあ騎士様ともあろうものが情けない。
 でも人生初のお酒体験なら……仕方ないのかも。
「じゃあ……いくよ。えいやっと」
 私は心臓の鼓動を早くさせるように、肝臓に血の巡りを少し強めて、また魔力を送り込んで、肝臓を元気にした。
 でもあんまりやりすぎても怖いので、少しずつ力を強めていく感じで、またその力を保つようにして、私はかなり精密にコントロールしてみた。
「おぉ……おぉっ!?」
 ギンシュちゃんの雰囲気がちょっとずつ変わってきた。
 ……ふぅ。三十秒も魔力放出をしただろうか。集中したのでかなりへろへろだ。
「どう……かな?」
「んっ、これは凄いな。全然違うぞ。見違えるようだ! はっはっは! いやぁ健康というのはいいものだな! 早速顔でも洗ってくるか! いやぁエリィ殿、感謝する!」
 そういって頭を下げて、さっさと扉を開けて鼻歌交じりに階下へと向かっていった。
 なんだあれ。
「ま、まあ元気になってよかったですぅ」
「そだね」
 調子のいいこって。

 私達も着替えて顔を洗って朝食にでも! という流れで階下の食堂へ向かう。
 そこで見たものは……いやまあ想像はついていたけどね。
「痛ぇ……」
「あぁぁぁ……」
「もうダメだ……俺ぁおいてってくれ……」
 船員さん達は死屍累々。そりゃあ昨日あんだけ騒げばこうなるでしょーよ。
 床で寝てたりはいつくばってたり突っ伏してたりテーブルの上だったり。
「おう起きたか。おはようさん」
 宿の主人のお爺さんは当然ながらしっかりしてる。
「おはようございます。朝食ってあります?」
「そうだな。こいつらは要らんだろうがあんたらには出すか。全くこいつらは……もう少し加減というもんを覚えにゃいかんな」
「あはは……」
 そして船組でしっかりしているのは一人だけ。
「くそうどいつもこいつも酒に溺れやがって! おまえらこれから出航だぞ!」
 アシン船長である。流石責任感ぱっちしである。
 でも頼みの船員がこれでは……うーん。
「今日どうします?」
「出航したいんだが……これじゃあな……申し訳ない。本当に」
「ちなみに、皆さんの『酒神の悪戯』、治せるって言ったらどうします?」
「はっはっ、何を馬鹿なことを。これは神様が調子に乗った酒飲みに与える罰だぞ。エルフの嬢ちゃんなんかに……」
 私はにっこりスマイルで表情を変えないままでいる。
 私の言葉が冗談ではないと気付いたらしい船長。
「おい……本当に……治せるの……か?」
「皆さんの信仰をぶち壊してしまうようで申し訳ないのですが、これは神様の悪戯ではなく、れっきとした肉体の反応です。転んだらすりむいて血が出るくらい当たり前のことなんです。だから治し方もちゃんとあるんです」
「はぁ……エルフってぇのは物知りなんだの」
「こいつぁ面白ぇや。ぜひお願いしたいが……金はちょっと……」
「いいですって。ここで一日待つよりも、さっさと船進めて王都に行きましょうよ」
「っ……助かる」
 がばりと頭を下げるアシン船長。やっぱこの人しっかりしてるよね。
「でも……ちょっとくらい私もいたずらしちゃいますかね」
「おい……何をするんだ」
 どきどきしている船長。私はすぅっと息を吸い込んで。
「みなぁあーん! おはようございまぁーあす!」
 大きな声でご挨拶。
 勿論、酒神の悪戯で倒れている船員達には何よりのダメージだ。
「あぁあああ!!」
「やめてくれぇええ!!」
「あぁ……あぁ……」
「わたしわぁああ! 『酒神の悪戯』をぉ! なおせまぁああす!! でもぉ! もう二度とぉ! お酒を飲みすぎないとぉ! 誓える人だけぇ! 治してあげまぁあす! どうしますかぁああ!!」
「わかったぁ! 分かったからぁ!」
「おれたちがわるかった! だからやめてぇ!」
「たのむ……なおしてくれ……」
「もういっそころして……」
 ぐったりとしている船員を、更にぐったりとさせて、ふぅっと一息。
「じゃ、はじめますかね」
 そんな私に、船長は一言。
「お前さん……ホント、えげつねぇな」
 そんな船長の反応に、ミレイも付け加える。
「お姉さま、やるときは本当に容赦ないんですぅ。私も非道い目にあったですぅ」
「そ、そうなのか……こんなに綺麗なミレイちゃんを……なんてヤローだ! 許せん!」
「お姉さまを悪く言ったら私が許さないですぅ!」
「ええっ!? そんな……ど、どうすりゃいいんだよ……」
 私はそんな二人をにこやかに見守りながら(ミレイは今度また夜におしおきしたろ)とか思ったり思ってなかったりする。

 さてさて治療の方はといえば、先ほどギンシュちゃんにやった要領で問題はないようだ。
 おかげで船員さんもどんどん元気に。お爺さんがなんだかんだ人数分作ってくれた朝食もモリモリも食べている様子。
 もっとも治して貰った私に対しては、治して貰った感謝と先ほどの大声の恨みと、でも今度何されるか分からない恐怖とがないまぜになった複雑な感情を持っているようだった。
 そんな私はと言えば、最初こそ魔力の放出の仕方に戸惑ってかなり消耗していたが、段々とコツが分かってきたみたいで、五人も治すとかなり楽に魔法をコントロールしながら回復させることが可能となった。
 最終的にはかなり魔力を消費したようだが、なんとか全員分の『酒神の悪戯』を回復させる事に成功した。
 そして【光魔法】は一気に9まで上がった。いや上がりすぎでしょ。こんだけ高かったらもう神の怒りとかハルマゲドンとか撃てそう。いや撃たないけど。ってかどこのカードゲームだよって。
「いやぁ、本当に助かった。改めて感謝する」
 船長さんは深々とお辞儀。私はミレイと一緒に遅くなった朝食を食べながら。
「いいですって。でもこれで出航は出来ますよね?」
「勿論だ! お前ら気合入れろよ!」
「ういっす!」
「今日も頑張るぜ!」
「そっちの嬢ちゃん達は……お手柔らかにお願いするっす!」
 船員さんたちも元気になって。よかったよかった。
「じゃあ俺達は準備してくるから、食べ終わったら荷物をまとめて船まで来てくれ」
「分かりました」
「ビン爺さんもありがとうな!」
「なあに、毎度のことよ」
「じゃあお前らは先に船に向かって準備しておけ!」
「了解です、船長」
 そういって船員さん達を宿から出して、船長はビン爺さんとお話の様子。
「ビン爺さん、改まって話があるんだ」
「おいどうしたんじゃ、お前さんがそんな真面目くさった顔になるなんぞ」
「実は俺ぁ、今回でこの船長の任を降りるつもりだ。だから爺さんのトコに来るのもこれが最後かもしれねぇ」
「なんと」
「まあ色々あってな、この嬢ちゃん達について旅をすることにしたんだ」
「そうかい。さびしくなるのぅ」
「大丈夫さ、爺さんならなんとかなるだろ。葬式に来れねぇのだけが残念だが」
「はっ、馬鹿言うでないぞ、儂がアシン坊より先に死ぬわけがなかろう」
「おい歳考えろって。まあそういう訳でな。船員達のことは、宜しく頼む」
「それは次の船長次第かのぅ」
「……まあ、そうだな。じゃあな、ビン爺さん。色々と世話になった」
「こっちもじゃ。昨晩も楽しませて貰ったぞい」
「またなんかあったら来るからよ。それまで生きてろよ」
「お前さんこそ、勇み足で死ぬんじゃないぞ」
「大丈夫さ、この嬢ちゃん達と一緒に魔法使いになって、海に出て、でっかい船の船長になるのさ! そうしたら爺さんも呼んでやるからよ、一緒に海で釣りでもしようぜ」
 そんな大きな夢を告げる船長の言葉に、きょとんとしたビン爺さんは、大声で笑い出した。
「フッ、フハハハハハッ! こいつは大きく出たもんだ! アシン坊が魔法使い!? 海で船長!? フハハハハ!!」
「おい笑うなよ! こちとら真剣なんだぞ!?」
「ハハハハッ! ……まあええわ。気長に待っとるぞい」
「ああ。待っててくれや」
 そう言ってアシン船長は宿を後にした。
 なんかいいなぁ。こういう男の友情……じゃないけど、信頼関係で結ばれてるの。
 そういや同級生とか向こうで何やってるかな……もうあんまり思い出せないけど。
 なんかまだこっちにきて一ヶ月くらいしか経ってないような気もするのに、もう随分とこっちの生活に慣れてきてしまった私がいた。
 私自身の肉体も、そりゃあ女の子だからどきどきはするけど……でもそのどきどきも、こっちにきた当初ほどではなくなってるのかもしれない。
 自分よりも周りの女の子の方が可愛いからねー。
 ミレイも、ギンシュちゃんも。
 さてさて朝ごはんも食べたし。荷物もまとめたし。
「お爺さん、ありがとうございました」
「おう、達者でな。あとアシン坊をよろしくな」
「はい」
「あいつも色々あったが……今どき性根の曲がってない珍しい男だ。どうか……頼む」
「大丈夫ですよ。私達、強いですから」
「ハハハッ、そいつは頼もしいな。じゃあ海に出るってぇのも」
「ええ、大丈夫です。船長さんと一緒に、必ず迎えに来ますよ」
「じゃあ儂はのんびり待つとするかの」
「楽しみにしてて下さいね。それでは……また」
「おう、また」
 私達も、ビン爺さんにお別れを告げる。
 だが私達のは、また会おう、という方のお別れだ。
 今度会える日が……楽しみだ。

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