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15話
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「あぁ、くそっ。やっちまった!」
高校に編入してまだ初日だというのに、あろうことか午前の授業をすべて居眠りで乗り切ってしまった。
どうも俺は、机の上でのお勉強というものが苦手らしい。
たしかに昔からそういう一面はあった。
とはいえ、昔と違うところもあるのだ。
今回こそはと、やる気そのものはある。せっかく若返ったのだから今度こそ真っ当な人生を歩もうと、いや、せめて授業ぐらいは聞いてもいいだろうと思ってはいたのだ。
それなのに授業開始のチャイムが耳に入って来た瞬間、スイッチを切られたように視界が闇に包まれてしまった。
机を真ん中から叩き割るかのような激しい頭突きをした記憶を最後に、次のチャイムが鳴るまで完全に意識を失ってしまう。
これはまずいと思ったが、俺以上に俺のことをまずいと思ってくれた女がいた。
学級委員長だ。
彼女は、昼休みのチャイムが鳴るのと同時に、まるでその瞬間を待ちかねていたように激しく机を叩きつけて立ち上がった。
「古路里くん、ちょっといい⁉」
顔を引きつらせる彼女。言葉の端々に怒りを滲ませていた。なんなら古路里の一文字一文字の間に『~』、伸ばし棒が添えられていた。義憤を禁じ得ない学級委員長のお手本のような発音だ。
「なんでしょうか、如月委員長」
直立して委員長を見返すと、彼女は俺と目を合わさんとしているのか、拳を固め、懸命に斜め下の床を睨んでいた。
「どうしてあんたって人は、返事だけ真面目なの!」
「世は不条理に満ちている」
「はいっ⁉ 初日から居眠りし続けるのが不条理だって言うの?」
「こうありたいと願っても、思い通りにならないことはあるのです」
「ちょ、ちょっと。なんでそんなセンチメンタルな顔してんの!」
返り討ちにあったかのように、委員長は困惑の表情を浮かべ、たじろいでいた。
如月委員長は人と比べても一際長いスカートをしていた。丈に関しては長さが校則で決まっているようだが、遵守している者はぱっと見渡してもそう見当たらない。必ずしも身体が小柄だからというわけでもなさそうだ。
白のソックスはぴっちりと伸ばされ、少しだけ見える白い脚は細い。肩も腰も薄く、華奢だった。
髪は肩よりもかなり短いが、頭の後ろで二つ結びにされていた。ちょこんと後ろに飛び出した髪をまとめる小さな髪留めの碧い石だけが唯一のおしゃれと言った具合で、化粧気はまるでない。
もちろんトリエステのような派手さはないが、それでも顔立ちは良かった。目が丸く大きい。他のパーツ、例えば唇も鼻も顔そのものも小さいので、仔犬のような目の大きさだけが印象的だった。
俺はひとしきり観察した後、うつむき気味でいる委員長を下から覗き込んだ。
背後から「その調子だ。もっと追い込め」とトリエステの悪魔の囁きが聞こえた気がした。
いや、実際にトリエステは筒状に丸めた教科書の先っぽを俺の耳に当てて、音声を流し込んで来ているではないか。
俺はひじでそれを振り払いながら、
「そ、それで用はなんでしょう」
「だ、だから! 今言ったでしょ。授業は真面目に……」
委員長が言い終える前だった。
ぞろぞろと俺のまわりに女子たちが集まってきたのだ。取り囲むように群がって来て、俺の服を引っ張るような者さえいた。
「「ねえねえ、古路里くん」」
俺の名を呼ぶきゃぴきゃぴと若々しい声が口々に発せられ、委員長の声は掻き消されていた。
俺は助けを求めようと、トリエステに視線を送ったが、なんと変わり身のはやいこと。彼女は既に教室から立ち去ろうとしていた。
頭がくらくらとした。数人の女が、競うように半径三十センチ以内に接近してきたのだ。当然生まれてはじめての経験だ。
間違いない。この女たちは男を狂わせる成分を身体から分泌している。
「なあ、古路里くん。うちらと昼食べにいこうや!」
細かいところはよくわからないが、金髪で関西弁の女の言葉は辛うじて聞き取れた。
「じぶん学校のこと、まだようわかっとらんやろ。うちが案内したるから安心してな」
女はにかっと笑って、ギャル風メイクで飾った顔を近づけてきた。委員長と違い、甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。
訳もわからぬうちに、日焼けした彼女の手に腕を取られた。そのままぐっと強引に引き寄せられる。
俺は言葉を失っていた。
刺激が強すぎる。
頭が真っ白だ。
「ちょ、ちょっとまだ話が!」
委員長の最後の呼びかけも虚しく、俺の身体は無理やり教室の外へ運び出されていた。
まるで神輿そのものだ。
これがモテるということか?
いや、なんか違う気がするぞ……。
高校に編入してまだ初日だというのに、あろうことか午前の授業をすべて居眠りで乗り切ってしまった。
どうも俺は、机の上でのお勉強というものが苦手らしい。
たしかに昔からそういう一面はあった。
とはいえ、昔と違うところもあるのだ。
今回こそはと、やる気そのものはある。せっかく若返ったのだから今度こそ真っ当な人生を歩もうと、いや、せめて授業ぐらいは聞いてもいいだろうと思ってはいたのだ。
それなのに授業開始のチャイムが耳に入って来た瞬間、スイッチを切られたように視界が闇に包まれてしまった。
机を真ん中から叩き割るかのような激しい頭突きをした記憶を最後に、次のチャイムが鳴るまで完全に意識を失ってしまう。
これはまずいと思ったが、俺以上に俺のことをまずいと思ってくれた女がいた。
学級委員長だ。
彼女は、昼休みのチャイムが鳴るのと同時に、まるでその瞬間を待ちかねていたように激しく机を叩きつけて立ち上がった。
「古路里くん、ちょっといい⁉」
顔を引きつらせる彼女。言葉の端々に怒りを滲ませていた。なんなら古路里の一文字一文字の間に『~』、伸ばし棒が添えられていた。義憤を禁じ得ない学級委員長のお手本のような発音だ。
「なんでしょうか、如月委員長」
直立して委員長を見返すと、彼女は俺と目を合わさんとしているのか、拳を固め、懸命に斜め下の床を睨んでいた。
「どうしてあんたって人は、返事だけ真面目なの!」
「世は不条理に満ちている」
「はいっ⁉ 初日から居眠りし続けるのが不条理だって言うの?」
「こうありたいと願っても、思い通りにならないことはあるのです」
「ちょ、ちょっと。なんでそんなセンチメンタルな顔してんの!」
返り討ちにあったかのように、委員長は困惑の表情を浮かべ、たじろいでいた。
如月委員長は人と比べても一際長いスカートをしていた。丈に関しては長さが校則で決まっているようだが、遵守している者はぱっと見渡してもそう見当たらない。必ずしも身体が小柄だからというわけでもなさそうだ。
白のソックスはぴっちりと伸ばされ、少しだけ見える白い脚は細い。肩も腰も薄く、華奢だった。
髪は肩よりもかなり短いが、頭の後ろで二つ結びにされていた。ちょこんと後ろに飛び出した髪をまとめる小さな髪留めの碧い石だけが唯一のおしゃれと言った具合で、化粧気はまるでない。
もちろんトリエステのような派手さはないが、それでも顔立ちは良かった。目が丸く大きい。他のパーツ、例えば唇も鼻も顔そのものも小さいので、仔犬のような目の大きさだけが印象的だった。
俺はひとしきり観察した後、うつむき気味でいる委員長を下から覗き込んだ。
背後から「その調子だ。もっと追い込め」とトリエステの悪魔の囁きが聞こえた気がした。
いや、実際にトリエステは筒状に丸めた教科書の先っぽを俺の耳に当てて、音声を流し込んで来ているではないか。
俺はひじでそれを振り払いながら、
「そ、それで用はなんでしょう」
「だ、だから! 今言ったでしょ。授業は真面目に……」
委員長が言い終える前だった。
ぞろぞろと俺のまわりに女子たちが集まってきたのだ。取り囲むように群がって来て、俺の服を引っ張るような者さえいた。
「「ねえねえ、古路里くん」」
俺の名を呼ぶきゃぴきゃぴと若々しい声が口々に発せられ、委員長の声は掻き消されていた。
俺は助けを求めようと、トリエステに視線を送ったが、なんと変わり身のはやいこと。彼女は既に教室から立ち去ろうとしていた。
頭がくらくらとした。数人の女が、競うように半径三十センチ以内に接近してきたのだ。当然生まれてはじめての経験だ。
間違いない。この女たちは男を狂わせる成分を身体から分泌している。
「なあ、古路里くん。うちらと昼食べにいこうや!」
細かいところはよくわからないが、金髪で関西弁の女の言葉は辛うじて聞き取れた。
「じぶん学校のこと、まだようわかっとらんやろ。うちが案内したるから安心してな」
女はにかっと笑って、ギャル風メイクで飾った顔を近づけてきた。委員長と違い、甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。
訳もわからぬうちに、日焼けした彼女の手に腕を取られた。そのままぐっと強引に引き寄せられる。
俺は言葉を失っていた。
刺激が強すぎる。
頭が真っ白だ。
「ちょ、ちょっとまだ話が!」
委員長の最後の呼びかけも虚しく、俺の身体は無理やり教室の外へ運び出されていた。
まるで神輿そのものだ。
これがモテるということか?
いや、なんか違う気がするぞ……。
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