ハーレムヴァンパイア〜すべてのヒロインたちに花束を〜

LABYRINTH

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30話

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 杏がバイトしている惣菜屋の向かいの八百屋にトリエステがいた。

 制服姿のままでカゴいっぱいに盛られた野菜を両腕に抱えている。


「トリエステ? こんなとこで何やってんだ?」

「おぉ、主水。暇だから商店街をぶらぶらしておったらの。八百屋のおじさんと話が盛り上がって、こんなに野菜を貰ったんじゃ」

「そんなに気に入られたのか。ちゃんと礼は言ったか?」

「ほんとは肉が良かったんじゃがの」

「本人の前でそんなこと言うなよ」


 俺はトリエステの頭を押さえつけ、一緒に八百屋のおじさんに頭を下げた。


「ときに主水よ。なんだか顔つきが変わったな」

「えっ、うそ⁉ また太りはじめたか?」

「なんか吹っ切れたような表情じゃな。憑き物がとれたというか」

「憑き物って、俺ってそんな酷い顔してたのか?」

「その様子だと何かあったようじゃの」


 俺はエコバッグに貰った野菜を移しながら、


「あったもなにも。日々いろんなことがありすぎる。頭の中がぐるぐるだ」

「ほほ~ん、さては由奈氏になにか言われたな?」

「なんだよ、くそっ。なんでお前がそんなこと知ってるんだよ⁉」

「おぉ、カマをかけただけじゃが、まさか図星だったとはの~」


 両手があいたトリエステは、ほほほと笑いながらパタパタ扇子を仰いだ。

 俺は頭をかきむしる。


「俺を玩具にしやがって」

「オールハズレ穴の黒ひげほど遊び甲斐のない玩具のくせに」

「売り言葉に買い言葉だな。まぁ、お前がなにを企んでいるかは知らないが……」

「ほう、どうするつもりじゃ? なにか奥の手でも見つけたのか」

「なにも。自然にやるだけさ。由奈氏の言葉でわかったんだ。今までの俺は……って話を聞け!」


 よほど俺の長話が聞きたくないのか、トリエステはしゃがんで道行く猫に喋りかけていた。


「もういいよ」俺はエコバッグを肩にかけ直し、向かいの惣菜屋に視線を移した。「それより何かあったのか?」

「にゃあ?」

「あの惣菜屋、もうシャッター閉めて店じまいなんて」


 普段ならまだ営業している時間のはずだ。

 閉めた店の前で、店主のおじいちゃんがホウキで掃き掃除をしていた。

 見たところ杏の姿も見えない。


「トリエステ。にゃあにゃあ言ってないで、何か知ってるなら教えてくれ」

「しまった。大事なことを話すの忘れとった」

「な、なんだよ」

「杏氏は病院に運ばれたらしいの」

「はっ? なんだって? なんでそれを早く言わないんだよ!」


 血の気が引いていくのがわかった。

 気がつくと、トリエステの両肩を強く掴んでいた。

 トリエステは魔的な笑みを浮かべて、俺を見返している。


「噂によると彼女、ばったり倒れて救急車で運ばれたとか」

「どこだ? どこの病院だよ⁉」


 トリエステの返答が耳に飛び込むなり、俺の脚は駆け出していた。
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