【第一部完結】無能呼ばわりされてパーティーを追放された俺だが、《神の力》解放により、《無敵の大魔導師》になっちゃいました。

マツヤマユタカ

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37 安宿にて

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 参ったなあ。

 これで怒られるの確定だよ。

 いや、だいぶ長時間抜け出ていたから、とっくに確定していたとは思うけど。

 俺はそんなことを思いながら、リリーサの後についてホテルの階段を昇っていった。

 ギィギィと音が鳴る。

 お世辞にも上等とは言い難い宿だ。だがそれでもこの町では一番いいところらしい。

 階段を昇りきり、二階へと到着した。

 二階は今日、他に客がいないらしい。

 まあだからどうだという話だ。

 リリーサは角部屋が良かろうと思い、階段上がって一番奥の部屋にした。

 俺はその隣の部屋。

 まあ、もしも侵入者が現れたとしてもこれなら大丈夫だろう。

 いや、ちょっと待て。

 本当に大丈夫か?

 二ヶ月前に暗殺未遂事件があったばかりだぞ?

 俺は途端に不安がよぎった。

 急激に背筋が寒くなる。

 俺は前を行くリリーサを呼び止めた。

「リリーサ、ちょっと待ってくれ。やっぱり宮殿に帰ろう」

 リリーサは予想通りに眉根を寄せて振り向いた。

「何を言っているのよ今更!」

「いや、やっぱりまずい。帰ろう」

「いやよ。帰らないわ」

「リリーサ、また暗殺者が襲ってきたらどうするんだ?」

 するとリリーサが愉快そうに笑い出した。

「大丈夫よ。だってここには剣豪と大魔導師がいるのよ?問題ないわ」

 自分のことを剣豪だってさ。

 ま、レイナに気を遣ってか、剣聖と言い出さないだけましか。

「いや、あの時はレイナとネルヴァが敵の数を減らしてくれていた。そうでなければ勝てたかどうかわからないよ」

「何言っているのよ。数が多くたって勝っていたわよ」

「あのさあ、あの時リリーサは剣を落として絶体絶命だったじゃないか」

 俺があの時を思い出し、責め立てた。
 
 だがリリーサは、臆面もなく言い放ったのだった。

「そうだったかしら?よく覚えていないわ」

「いやいやいやいや、絶対覚えているはずだよ」

「そうだったかなあ~?まあでもそうだとしても、貴方がいれば問題ないじゃない。あの時だって助けてくれたし」

 ほら、覚えてるじゃん。

 俺に助けられたこと覚えているじゃん。

 まったく。

「だから今日も問題ないわよ。何かあったらよろしくね!」

 リリーサは満面の笑みでそう言うと、俺に背を向け、一番奥の部屋へと入っていった。

 俺はまあ仕方ないというかなんというか。

 ちょっと嬉しい気持を胸に、その隣の部屋へと入っていくのであった。



 夜も深まり、俺はベッドに横たわって、天井を仰ぎ見ながら考え込んでいた。

 二ヶ月前の暗殺未遂事件。

 ネルヴァたちが調べてくれているものの、いまだ首謀者は誰か判っていない。

 ただメリッサ王国は現在、諸外国とは対外的にかなり上手くいっているらしい。

 だから今、外国勢がリリーサを暗殺する可能性は薄いとのことだった。

 それ故、敵は身内の可能性が高いということらしいが……。

 それと、この敵が慌てて攻めて来ているところが気になる。

 何か切迫している事情があるはずだ。

 ネルヴァたちもその辺の事情から調べているらしいが……。

 俺はそこでのどが渇いていることに気付いた。

 俺は面倒だなと思いつつも、身体を起こした。

 そしてゆっくりと洗面所へ向かって歩いた。
 
 洗面所は入り口の所にあった。

 俺は静かに水差しを手にして、コップに水を注いだ。
 
 そしてゆっくりと水を口の中に流して、一口ゴクリと飲み込んだ。

 その時、目の前に鏡があることに気付いた。

 夜も更けているとはいえ、今宵は満月のため、月明かりが煌々と俺の顔を照らしていた。

 どうも顔が疲れているような気がする。

 俺はコップを置いて、マジマジと自分の顔をのぞき込んだ。

 やっぱり疲れているな。まあ、今日一日走り回ったせいだろう。

 落ち窪んだ目がそれを物語っている。

 そう思ったその時、扉の外から微かに音が聞こえた。

 それは……ギィ……という床を踏みしめるときに出る音だった。

 俺は一瞬でギョッとした。

 ゆっくりと音を立てずにドアに耳をそばだてる。

 すると、ほどなくしてまた……ギィ……という音が聞こえた。

 俺は念のため、待った。

 するとやはり……ギィ……という音が。

 確定だ。

 かえって安宿でよかった。いい宿だったら足音は聞こえなかったろう。

 俺はそこで一旦気持を落ち着けた。

 音は一人分しか聞こえない。

 二ヶ月前は百人だった。

 今回は数を絞ってきた。

 となれば相当な手練れのはずだ。

 俺は気持を引き締めた。

 そして俺の部屋の前を通り過ぎるのを待った。

 横から攻めるより、後ろからの方がいい。

 俺は高鳴る胸の鼓動を聞きながら、その時が来るのを刻一刻と待ったのだった。
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