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70 嫌な世界
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俺はジトー侯爵と別れ、マール邸へと戻った。
すると帰るなり、リリーサが待ちくたびれたように言った。
「どうだった?何かわかった?」
勢い込んで問い掛けてくるリリーサに、俺は少したじろぎつつ答えた。
「うん。まあ」
するとリリーサがかなり不満げな顔を見せて、俺を問い詰めた。
「何よ、その返事。はっきりしないわねえ」
「一日だけじゃあ、はっきりとはわからないよ。これからしだいさ」
「まあいいわ。どんな感じだったの?」
リリーサの問いに、俺は今日あったことを出来るだけつまびらかに説明した。
「とまあ、こういうことなんだよ」
俺は説明を終えると、疲れがどっと出て肩を落とした。
だがリリーサはそんな俺を全く見ずに、視線を下に落としてあれやこれやと考察していた。
「なるほどねえ。確かにメラルダ侯爵夫人が一番怪しいわね」
「そうだろう?俺たちもそう思うんだ」
するとそこで、リリーサがふと何かを思い出すように言った。
「ところでネルヴァたちは?」
そういえば今日、ネルヴァたちは俺とジトー侯爵の尾行をしていたはずだった。
俺はすっかりそのことを忘れていたが、帰ってきた以上姿を現わしてもいいようなものだが。
「確かに見えないね。ていうか途中でジトー侯爵とは別れたし、そこで声を掛けてくれてもいいのに」
俺はそう言って首を傾げた。
リリーサも同様に不思議がったが、姿を現わさない以上仕方がない。
話題は再びメラルダ侯爵夫人へと移った。
「それで、アリオンの心証はどうなの?」
リリーサの問いに、俺は考え込んだ。
そして思い出す。
あのメラルダ侯爵夫人の恐ろしい目つきを。
「たぶん彼女で間違いないと思うよ。あまりにも凄い目つきでジトー侯爵を睨んでいたし。というかリリーサはどうなの?メラルダ侯爵夫人とは面識あるんでしょ?」
するとリリーサが、両手を広げて肩をすぼめた。
「一応ね。でもほとんどないわよ。会ったのは三回くらいかしら」
俺は驚いた。
「そんだけ?今まで三回くらいしか会ってないの?」
「そうよ。だってわたしキーファーおじ様ともそんなに会ってないし」
「ああ、病弱だから」
「そうね。ほとんど公の場に出てきたことはないんじゃないかしら?それこそご自分の結婚式の時くらいなんじゃないかしら?」
リリーサが可愛らしく首を傾げる。
仕草といい、顔といい、非常に可愛らしい。
だが今はそんなことにかまけている場合ではない。
俺は気を引き締め、考えた。
「結婚式か。それっていつのこと?」
「五年前くらいだったかしら」
「五年前か。王弟の結婚式だし、さぞや盛大だったんだろうね?」
するとリリーサが渋い顔で首を横に振った。
「ううん。ちっとも盛大なんかじゃなかったわ」
「えっ、なんで?」
驚く俺に、リリーサが浮かぬ顔で言った。
「キーファーおじ様は、期待されてないのよ」
「期待?」
「そう。王家の者も、貴族も、周辺国の人たちも誰も、ね」
「それは、どういう意味?俺にはよくわかんないんだけど」
「そうね。そうだと思う。う~ん、説明するの難しいわね。つまりこのメリッサ王国にとって重要人物になると期待されていないってことなの」
「それは、キーファー侯爵と仲良くしても、その後の旨みがないとかそういうこと?」
リリーサは大きくうなずいた。
「そういうこと。だから結婚式は欠席だらけだったの」
「なるほど、そういうことか。出席してキーファー侯爵と近づきになったとしても、その後何かに発展することがない。だから、皆欠席したというわけか」
「そう。生まれつきの病弱だから、要職につけるわけでもないでしょ。となると権力が欲しい人たちからすると、いないも同然な人になっちゃうのよ」
「ひどい話しだね」
「そうね。でも王家なんてそんなものよ。わたしだって五体満足で元気で、アルト公なんて要職についているからチヤホヤされるけど、そうじゃなかったら同じよ。王家なんて、自分にとって利用できるかどうかだって考えている人は相当数いるもの」
「嫌な世界だなあ」
「そうね。それが普通の感覚よね。わたしもそう思うわ。だからアルト公になれたのは嬉しかったわ」
「そうなの?」
「ええ。だってそういう人たちで一杯の王宮から出られるじゃない。おかげでわたしはアルト州でのんびりやっていたのよ」
「そこへ降って湧いた暗殺未遂事件ってところか」
「そうね。思い出したらまた頭にきちゃうわ」
俺は慌ててリリーサをなだめようとした。
「まあまあ、色々俺たちで動いているからさ。マールたちとのんびりここで過ごしていてよ」
俺がそう言うと、リリーサは口を突き出し、拗ねたような仕草をした。
その様子が何やら凄く可愛らしく見えて、俺はあらためてリリーサのために犯人を捕まえてやろうと決意するのであった。
すると帰るなり、リリーサが待ちくたびれたように言った。
「どうだった?何かわかった?」
勢い込んで問い掛けてくるリリーサに、俺は少したじろぎつつ答えた。
「うん。まあ」
するとリリーサがかなり不満げな顔を見せて、俺を問い詰めた。
「何よ、その返事。はっきりしないわねえ」
「一日だけじゃあ、はっきりとはわからないよ。これからしだいさ」
「まあいいわ。どんな感じだったの?」
リリーサの問いに、俺は今日あったことを出来るだけつまびらかに説明した。
「とまあ、こういうことなんだよ」
俺は説明を終えると、疲れがどっと出て肩を落とした。
だがリリーサはそんな俺を全く見ずに、視線を下に落としてあれやこれやと考察していた。
「なるほどねえ。確かにメラルダ侯爵夫人が一番怪しいわね」
「そうだろう?俺たちもそう思うんだ」
するとそこで、リリーサがふと何かを思い出すように言った。
「ところでネルヴァたちは?」
そういえば今日、ネルヴァたちは俺とジトー侯爵の尾行をしていたはずだった。
俺はすっかりそのことを忘れていたが、帰ってきた以上姿を現わしてもいいようなものだが。
「確かに見えないね。ていうか途中でジトー侯爵とは別れたし、そこで声を掛けてくれてもいいのに」
俺はそう言って首を傾げた。
リリーサも同様に不思議がったが、姿を現わさない以上仕方がない。
話題は再びメラルダ侯爵夫人へと移った。
「それで、アリオンの心証はどうなの?」
リリーサの問いに、俺は考え込んだ。
そして思い出す。
あのメラルダ侯爵夫人の恐ろしい目つきを。
「たぶん彼女で間違いないと思うよ。あまりにも凄い目つきでジトー侯爵を睨んでいたし。というかリリーサはどうなの?メラルダ侯爵夫人とは面識あるんでしょ?」
するとリリーサが、両手を広げて肩をすぼめた。
「一応ね。でもほとんどないわよ。会ったのは三回くらいかしら」
俺は驚いた。
「そんだけ?今まで三回くらいしか会ってないの?」
「そうよ。だってわたしキーファーおじ様ともそんなに会ってないし」
「ああ、病弱だから」
「そうね。ほとんど公の場に出てきたことはないんじゃないかしら?それこそご自分の結婚式の時くらいなんじゃないかしら?」
リリーサが可愛らしく首を傾げる。
仕草といい、顔といい、非常に可愛らしい。
だが今はそんなことにかまけている場合ではない。
俺は気を引き締め、考えた。
「結婚式か。それっていつのこと?」
「五年前くらいだったかしら」
「五年前か。王弟の結婚式だし、さぞや盛大だったんだろうね?」
するとリリーサが渋い顔で首を横に振った。
「ううん。ちっとも盛大なんかじゃなかったわ」
「えっ、なんで?」
驚く俺に、リリーサが浮かぬ顔で言った。
「キーファーおじ様は、期待されてないのよ」
「期待?」
「そう。王家の者も、貴族も、周辺国の人たちも誰も、ね」
「それは、どういう意味?俺にはよくわかんないんだけど」
「そうね。そうだと思う。う~ん、説明するの難しいわね。つまりこのメリッサ王国にとって重要人物になると期待されていないってことなの」
「それは、キーファー侯爵と仲良くしても、その後の旨みがないとかそういうこと?」
リリーサは大きくうなずいた。
「そういうこと。だから結婚式は欠席だらけだったの」
「なるほど、そういうことか。出席してキーファー侯爵と近づきになったとしても、その後何かに発展することがない。だから、皆欠席したというわけか」
「そう。生まれつきの病弱だから、要職につけるわけでもないでしょ。となると権力が欲しい人たちからすると、いないも同然な人になっちゃうのよ」
「ひどい話しだね」
「そうね。でも王家なんてそんなものよ。わたしだって五体満足で元気で、アルト公なんて要職についているからチヤホヤされるけど、そうじゃなかったら同じよ。王家なんて、自分にとって利用できるかどうかだって考えている人は相当数いるもの」
「嫌な世界だなあ」
「そうね。それが普通の感覚よね。わたしもそう思うわ。だからアルト公になれたのは嬉しかったわ」
「そうなの?」
「ええ。だってそういう人たちで一杯の王宮から出られるじゃない。おかげでわたしはアルト州でのんびりやっていたのよ」
「そこへ降って湧いた暗殺未遂事件ってところか」
「そうね。思い出したらまた頭にきちゃうわ」
俺は慌ててリリーサをなだめようとした。
「まあまあ、色々俺たちで動いているからさ。マールたちとのんびりここで過ごしていてよ」
俺がそう言うと、リリーサは口を突き出し、拗ねたような仕草をした。
その様子が何やら凄く可愛らしく見えて、俺はあらためてリリーサのために犯人を捕まえてやろうと決意するのであった。
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