【第一部完結】無能呼ばわりされてパーティーを追放された俺だが、《神の力》解放により、《無敵の大魔導師》になっちゃいました。

マツヤマユタカ

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82 メリット

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「リリーサ、やっぱりメラルダ侯爵夫人だってさ」


 俺はスッと顔を上げ、先程からドアに寄りかかって腕組みをしているリリーサに対し、すかさず告げた。


 するとリリーサは組んでいた腕をほどいて身体を起こすと、ゆっくりと俺に近付きながら言ったのだった。


「そう。やっぱりね」


 するとその時、俺の目の前に横たわるメイデンが、身体をよじって後ろから聞こえる声の主を見ようと必死になりながら言った。


「な、リリーサだと!?だ、だましたのか、貴様!?」


 だがメイデンは横向きに俺に向かって寝かせられているため、いくら首を巡らしても見られず、四苦八苦している。


 俺はゆっくりと視線を下ろし、表情を変えずに言ったのだった。


「だましただなんて、人聞きが悪いな。実際あんたが吐かなければ、リリーサが拷問したであろうことは間違いないんだからさ」


「む、ぐう」


 メイデンは黙りこくった。


 そんなメイデンに、リリーサの冷厳な声が降り注がれた。


「で、メラルダ夫人に、なんて言われたのよ?」


 メイデンは腹立たしげに首を振って、下を向いた。


 リリーサのこめかみに、ビキリと怒りマークが浮き上がる。


 俺は仕方なしにメイデンに語りかけた。


「もう今更反抗しても遅いよ。さっさと言っちゃった方が身のためだよ。ねえ、なんて言われたのさ?」


 するとメイデンは、リリーサには言いたくないが、俺にならいいという態を取って言ったのだった。


「細かいことは覚えていない。今思えば、ずっと少しずつ吹き込まれていた。リリーサが居なくなれば、リリーサが居なくなればとな。ふん、あの女に関わったのが、俺の運の尽きだったということだろうな」


「メラルダ夫人は、リリーサが居なくなれば、あんたがアルト公に返り咲けると言ったの?」


「いや、言っていない。肝心なことはあの女は言わなかったからな」


 メイデンが忌々しそうに顔を背ける。


 するとリリーサが、憤怒の表情で怒鳴りつけた。


「じゃあほとんどあんたの独断じゃないの!」


 リリーサが大股で近付いてくる。


 俺はそれを右手を上げて制止した。


「ちょっと待って。冷静になってくれリリーサ。メラルダ夫人は狡猾なんだよ。決して言質を取られないよう、気を遣って誘導していたんだと思うよ。だから、メイデン王子の独断ってわけじゃない。やっぱりメラルダ夫人がリリーサ暗殺に導いたんだ」


 俺は、メイデンの味方をするように振る舞った。


 そうすることによって、メイデンがさらに俺に気を許して口を割ると踏んだからだ。


 リリーサは、俺のその心算を正確に理解した。


 メイデンに見えないところで、俺に対して大きくうなずいたからだ。


 俺は、普段だったらうなずき返すところを、メイデンに見られているためうなずかず、優しげな眼差しを向けて問い掛けた。


「他には何か言っていなかった?例えば、こうすればいいとかさ」


「いや、あの女はただ、リリーサが邪魔だと言い続けていただけだった」


「じゃあ、暗殺すべきだとかも言っていない?」


「ハッキリとは言ってないな。あの女はそういう奴だ」


 メイデンが吐き捨てるように言った。


「なるほどね。ただ居なくなればとだけ言い続けたんだ?でもそうなると、ちょっと不思議だな」


 メイデンがいぶかしげに、俺に問い掛ける。


「何がだ?」


 俺はすかさず答えた。


「それだとメラルダ夫人にメリットがない。あんたにはリリーサを殺せばアルト公に返り咲けるという算段があった。じゃあ、メラルダ夫人は?リリーサが居なくなるとどういうメリットがあるんだ?」


 するとメイデンが押し黙った。


 その顔は、何かを隠しているように俺には見えた。


「ねえ、おかしいよね?仮にあんたが思惑通りにアルト公になったとして、メラルダ夫人はどうなるっていうのさ?あんたは今、何の役職もない人間だろう?だったらあんたの後釜にキーファー侯爵が座るってこともないわけじゃないか。だったらキーファー侯爵夫人のメラルダには、何一つメリットなんてない。にもかかわらず、何であんたにリリーサ暗殺を吹き込んだりしたんだ?」


 メイデンは下を向き、額に脂汗を浮き立たせている。


 俺はその顔を見て、ある一つの仮説にたどり着いた。


「ねえ、あんたとメラルダ夫人って、そういう関係なんじゃない?」


 メイデンはキッと口を固く結んだ。


 どうやら喋りたくないらしい。


 ということは当たりだな。


 俺がそう独りごちていると、リリーサが眉根を寄せて問い掛けてきた。


「何よ?それどういう意味?説明してよ」


 俺は少し困った顔をして、肩をすぼめた。


 だがリリーサがそれで引き下がるわけもない。


 さらに眉根を寄せて一歩近付いてきた。


 俺は慌てて右手を上げてリリーサを制すると、言ったのだった。


「つまりさ、メイデン王子とメラルダ夫人は不倫関係だってことだよ」
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