転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

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第五十話 陸行十日

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 1


「お前たち!ずいぶんのそのそと歩いているねえ。もっとちゃっちゃと歩きな!」

 せっかちな性分なのか、だいぶ先を歩いていたカルラが、いらいらした様子で振り返って言った。

 それに対しガイウスが、不貞腐ふてくされたような返答をした。

「へ~い」

 するとその途端、カルラのこめかみにビキッと青筋が立った。

 カルラは憤怒の表情となると猛然と道を取って返し、ガイウスに迫った。

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!調子に乗りました!ごめんなさい!」

 ガイウスは迫り来るカルラに恐れをなし、速射砲のように良く回る舌で必死に謝り倒した。

 しかしカルラは、ガイウスの顔面スレスレの所まで顔を近づけるなり、口角沫こうかくあわを飛ばして怒鳴り散らした。

「今更謝ったってもう遅いんだよ!生意気な口を利きやがって!たった二ヶ月ぽっちでこのあたしに慣れたつもりかい!なめんじゃないよ、このクソガキがっ!」

 ガイウスはピンと背筋を伸ばした直立不動の姿勢で、カルラの飛ばすつばで顔面をびしょびしょに濡らしながらも、じっと只ひたすらに降りしきる激烈な罵倒に耐えた。

「どうなんだい!?わかったのかい!?」

「はい。もう生意気言いません……」

「本当だね!?」

「はい、本当です」

「ふん!なら今回ばかりはゆるしてやるよ!ただし!今度生意気な口を利いたら、ただじゃおかないよ!地獄の業火で骨まで焼き尽くしてやるからね!」

 カルラは言い終えると満足したのか、すたすたと歩き出し、あっというまに数十メルクル先へと行ってしまった。

 残されたガイウスは呆然と立ち尽くし、同じく傍らで固まって動けないでいるロデムルに向かって、小声でぼそっと呟いた。

「喰われるかと思った……」

「おいたわしや、坊ちゃま……」

 かくしてガイウスの、カルラに対しての思惑は、脆くも崩れ去った。


 2


「だいぶ高くつきましたね」

 ロデムルが相当に毛並みの良さそうな良馬にまたがり、その馬の首の辺りを優しくさすりながら呟いた。

 カルラはそれに、いつもの仏頂面でにべもなく返した。

「致し方なしってとこだろ。テーベまではまだここからだいぶあるんだ。いくら高くつこうが、良馬を買っておくに越したことはない」

 ガイウスは不安そうな面持ちで馬の背に跨りつつ、尋ねた。

「あの、師匠。テーベまでは、あとどれくらいかかるんですか?」

「そうさね、この馬たちなら、十日も走ればつくだろうね」

「と、十日!?まだそんなにかかるんですか!?」

「なにいってんのさ!たかが十日ぽっちで!これまで二ヶ月も散々波に揺られてきたんじゃないか!それに較べれば、今更十日位どうってことないだろ?」

「い、いや、僕は乗馬の練習は前々からしてはいますけど、まだ軽く速歩はやあしで走らせることが出来る程度でして、そんな長時間乗ったことなんかないんです。ですから――」

「ごちゃごちゃうるさい!乗馬なんてものはね、馬の背に揺られて尻の皮を何枚もすりむいて上達するもんだ!いい機会じゃないか!一日一枚!十日で十枚!尻の皮を破いて腕を上げな!」

「そ、そんな~」

「問答無用!行くよ!」

 カルラは言うなり、即座に馬に鞭を入れ、あっというまに駆け出した。

 ガイウスはそんなカルラを目で追いかけながら、傍らで控えるロデムルに向かって愚痴をこぼした。

「絶対これはいじめだよ。さっき生意気な口を利いたからって、酷いと思わない?」

「おいたわしや、坊ちゃま。されど乗馬につきましては、カルラ様の仰るとおりでございます。習うより馴れろ。実際に馬に揺られ、感覚を体得するのが、習得までのなによりの早道でございます。ですので坊ちゃま、いざ参りましょうぞ!はーっ!」

 言うや、ロデムルまでもが威勢よく掛け声を発して、駆け出していった。

 残されたガイウスは、またも呆然とした顔で馬に跨り、一言ポツリと呟いた。

「こんなの、絶対にいじめだってば……」
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