転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

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第五十一話 山越え

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「いってぇー!だめだ、もう四日目だっていうのに、全然尻の皮が厚くならないよ」

 ガイウスたち一行が港町アッバスを発ち、一路東へ進み続けること三昼夜、燦々さんさんと照らす陽光の元、彼ら一行は早四日目の朝を迎えていた。

「今しばらくのご辛抱です。いずれは尻の皮も、股の皮も厚くなりますので」

 そんなロデムルの気遣いの言葉に、カルラが軽い突込みを入れた。

「ふん!面の皮はすでに人一倍厚いがね!」

 だがガイウスは、そんなカルラの軽口にも乗れないほど弱りきっていた。

「無理だって。皮が厚くなる気配なんかないよ。その内きっと、尻も股もえぐれてなくなっちゃうんだ」

「坊ちゃま、そのようなことには決してなりません。どうかお気を強く持たれますよう」

「ふん!甘やかすんじゃないよ!さあ、とっとと行くよ!今日はこれまでと違い、街道を外れて山越えをするんだからね!」

 ガイウスは、カルラの言葉を聞いて反射的に彼らの左前方にそびえ立つ、高く連なる山々を見て、思わず大慌てで叫んだ。

「や、山越え!?そ、そんなの無理に決まってるじゃないですか!」

「なにを言ってんだい!街道沿いにいったら、十日は余計にかかっちまうよ!そんなに悠長に旅する気はあたしゃないんだからね。山を越えて、とっととテーベを目指すんだよ!」

 カルラは言うなり、すぐさま馬に鞭を入れ、高く聳える山々を目指して速歩はやあしで駆けていった。

 ロデムルもまた、ガイウスに心配そうな視線を送りつつも、心を鬼にして馬腹を蹴り、速歩でカルラの後を追っていった。

 残されたガイウスは天を見上げ、呆けたような顔付きとなった。

 そしてそのまましばしの時が流れ、はるか上空を飛び交う猛禽類がガイウスを死肉かと見紛って虎視眈々と円を描くように舞い始めた頃、ぼそっと静かにかすれ声で呟いた。

「この尻で山越えって、出血多量で死んじゃうよう……」


 2

 
「ぐぅっ……ぎいっ……がぁっ……」

 馬の上下動にあわせてガイウスがうめき声を上げる中、一行はすでに山の中腹へと差し掛かっていた。

 すると一行が登る険しい山道の先に、休息に使えそうな広場があるのをロデムルが見つけた。

「カルラ様、前方に少しひらけた場所がございます。どうでしょう、あそこで小休止いたしませんか?」

 ロデムルの進言に、カルラがあっさりと同意した。

「そうだね。馬にも休息が必要だしね。あそこで少し休むとしようかね」

 それを聞いたガイウスが、息も絶え絶えとなりながら呟いた。

「た、たすかった。とりあえずだけど……」


 一行はひらけた場所に到着するとすぐさま馬を降り、まずはその馬をロープで木々にくくりつけてから餌と水をやった。

 次いで三人は広場中央に車座に座り、宿屋で作って貰っていた弁当をそれぞれ膝の上に広げた。

「ふう、あぐらをかくのも一苦労だよ。まったく冗談じゃない」

 ガイウスはぶつくさと文句を言いながらも、顔には休憩や食事ができることへのうれしさからか、ほのかな笑みが浮かび上がっていた。

「気持ち悪いガキだね。文句を言うのか、笑うのかどっちかにしな!」

「すこしくらい気持ち悪くたっていいじゃないですか」

「なにいってんだい。お前さんは少しじゃなく、物凄く気持ちの悪いガキなんだよ!まずはそれを自覚しな!」

 ガイウスは口の端をピクピクと引きつらせながら、心中で「それはお互い様じゃないか」と呟きつつ、弁当の包みをゆっくりとほどいた。

 その瞬間、馬をくくりつけている木々の辺りを睨みつけてカルラが叫んだ。

「誰だい!そこにいるのは?」

 ガイウスがその声に慌てて周囲を見渡すと、ぽつぽつと黒い人影がいくつも現れた。

 ガイウスはその人影を見て本当に嫌そうな顔となり、ぼそっと呟いた。

「もうちょっと休ませてよ~」

 ガイウスの深い嘆息が、山の木々に静かに染み入った。
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