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1部 中学生時代
冗談
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女という生き物は理解するのが難しい。
それは瑞希も例外ではなかったという事を知った愁也だった。
瑞希はあれから何事もなかったように、普段通り生活している。
愁也にもいつも通り接してくる。
こっちは未だにちゃんと瑞希の目を見れないというのに・・・・・・。
瑞希はこっちの反応を見て、楽しんでいるような気さえする。
女という生き物は恐ろしい。
いったいどんなつもりでキスなんかしたんだろうか?
悪戯?
冗談?
新手のイジメ?
それとも本気・・・・・・?
何にしたって悩みが更に増えた訳で、透への秘密と裏切りのおまけ付きだ。
こういうのも抜け駆けって言うのかどうかも分からない。
それとも自分が知らないだけで、透と瑞希もキスをした事はあるのだろうか?
駄目だ。頭が混乱する。意外に自分が思っている以上に自分の心は繊細なのかもしれない。
でも瑞希もキスの話題には触れてこないので、そのままお流れになる見込みが高そうだった。
愁也はこのまま何もなかった事にする方が一番安全な策だと思った。
愁也にとって一番の恐怖は関係が変化する事だから。
☆
ある日の放課後、愁也はエロの伝導師こと山本君の家にいた。
中学生になってからは、山本君と遊ぶ事が多くなった。
それはクラスメイトであり、共に部活をやっていないで遊んでばかりいる不良学生だからだ。
いわゆる悪友という奴。
単純に山本君とは気が合うのだ。
透とは全く違うタイプの友人である。
透と山本君どっちが真の親友かと聞かれると答えられない。
友情という物はそんなに簡単に比べられる物じゃないから。
愁也は、どちらも大切な友人だと思っていた。
「お前最近、なんとなく元気なくね?」
愁也が山本君の持っているエロ本を漁っていると、山本君が珍しく真面目に聞いてきた。
「そうか? 別に普通だぞ」
愁也は平静を装って誤魔化す。
「嘘つけよ。最近のお前はぼーっとし過ぎなんだよ! それにお前、瑞希ちゃんの事避けているだろ」
「だから、俺にも悩みの一つや二つぐらいあるって」
「瑞希ちゃん絡みか?」
「なんでいつもそこで瑞希の名前が出てくるんだ?」
愁也はそこが不思議で堪らない。瑞希とは確かに毎日会ってるけど、クラスではいっぱい喋ってるわけではない。
愁也は男子同士で話すし、瑞希も女子同士で話す。
瑞希と学校で喋る時は、むしろ少ないと言ってもいい。
「だってお前が悩むとしたら、瑞希ちゃん以外考えられないじゃん」
「失礼な。他にもあるわい」
「じゃあ言ってみろよ」
「えー・・・・・・と」
「はい時間切れ。ていうか『えーと』と言った時点で駄目。よってお前は瑞希ちゃんの事で悩んでいる」
山本君は強引に愁也の悩みを確定した。
まっ当たってるけど・・・・・・。
「隠すなよ。俺がからかったりすると思うか?」
「思う。お前は間違いなく明日のクラスのネタにする」
「そんな事しねぇよ。ガキじゃあるまいし」
「いやお前はガキだ。ただのエロガキだ」
愁也は頑に話す事を拒む。
「信用されてねぇな・・・・・・」
山本君が少し哀しそうな顔をした。
愁也は少し罪悪感を覚える。
「・・・・・・別に信用してないわけじゃねぇよ。ただ・・・・・・俺にも今自分が何を悩んでいるか整理できていないだけなんだ」
愁也は目を伏せる。
「まぁ無理矢理聞こうとした俺も悪かったよ」
山本君は意外にも素直に頭を下げたので驚いた。
「お前って意外といい奴だよな」
愁也は今さらだけど山本君に向かってそんな事を言う。
山本君は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつものふざけ顔になって、
「気付くの遅すぎ」
と生意気な事を言ってきた。
愁也と山本君はニヤニヤ男同士気持ち悪く笑い合った。
「この前、お前が『失った時に瑞希の可愛いさに気付く』と言ったよな」
「そんな事言ったか?」
山本君は回想するように顔を上に向ける。思い出さないみたいだ。
「本当に気付けるものなのかなぁ?」
愁也はボソリと呟いた。
すると、山本君は同情した目をした。
「お前もよく考えたら損してる男だよな」
「俺が損してる?」
愁也は首をかしげる。
「だってお前、瑞希ちゃんが女としての基準だろ。そしたら、大抵の女はボーダーラインを越えられねぇよ」
「そんな事はないだろう」
「じゃあ、内のクラスで可愛いと思う奴いるか?」
山本君は試すように聞いてきた。
「いない。お前もそう思うだろう?」
「やっぱりそう言うと思ったよ」
山本君は一人で納得していた。
「なんだよその反応」
「あのな愁也・・・・・・。内のクラスの女子は可愛くてレベル高いって評判なんだぞ」
「またまたそんな事を言って。俺は騙されないぞ」
愁也は笑いながら言う。
だが山本君は何も言ってくれない。
「もしかして本気で言ってる?」
「当たり前だ」
山本君は真面目顔で言った。
愁也の背筋が冷たくなった気がした。
「愁也はもっと周りの女子と瑞希ちゃんをしっかり見比べて、自分の感覚を一般人に合わせる所から始めないと一生女と付き合えないぞ」
山本君は愁也に言い聞かせるように言った。
☆
暗くなったので山本君の家を去り、自分の家に帰ろうと歩いていた。
すると、またしても偶然に部活帰りの透を発見してしまう。
愁也は声をかけようか迷った。
今、透とちゃんと話せる自信がなかったからだ。
自分は透の気持ちを知っていて瑞希とキスをしてしまった。
応援すると言った癖に、瑞希とキスをしてしまった。
後ろめたい事この上ない。
愁也が今日は透と会うのをよそうと歩調を緩めた瞬間、透がいきなり愁也の方を振り向き、見事に見つかってしまった。
愁也は思わず体がビクッと震えてしまった。
「よう愁也。今帰りか?」
「おっおう」
「なんで挙動不審なんだよ・・・・・・? さてはまたなんか悪さしてきたのか?」
愁也は首を横に振るだけじゃなく全身で否定した。
その仕草がツボにハマったのか透は男前の顔で笑った。
「まぁ何をしたのか聞かないよ。それより一緒に帰ろうぜ」
「おう」
愁也は短く返事して、透の隣に並んだ。
透と話していても、どこか今日は会話が弾まないような気がした。
喋っても、喋っても空回りしているような気がする。
それでも笑ってくれる透は優しい。
もし自分が女だったら、抱かれてもいいと思った。
神社の前を通ると、夏祭りの飾り付けを自治体の人がやっていた。
「そういえば、もうすぐ夏祭りか・・・・・・」
透が感慨深げに呟いた。
その顔を見て愁也はある事を思いついた。
「今年は透と瑞希二人っきりで行けよ」
「・・・・・・なんでだよ愁也も一緒に行こうぜ」
透は愁也の提案に一瞬驚いたが、すぐに反論した。
「瑞希と二人っきりになれるチャンスだぞ」
「どうしたんだ? 愁也らしくないなぁ。そんなに気を遣う事ないだろう」
「だって、透が応援してくれって言ったんじゃん」
「言ったけど、そんな事をして貰っても俺は嬉しくないぞ。それに三人で行くから面白いんじゃないか」
透は愁也の提案をことごとく断る。
でも、愁也は透にこの提案を受け入れて貰いたかった。
だって、今年は三人で行っても楽しめそうじゃないし、自分はすでに透を裏切ってるから、その償いをしたかった。
「俺さぁ、実はもう他の人と行くって約束しちゃったんだ」
「えっ本当か?」
透は驚き、少し考え込む。
「もしかして女?」
「えっ!? まぁそんな所だ」
愁也は咄嗟に嘘をついた。
「なんだよ。そういう事かよ」
透はニヤニヤ笑う。
透は上手い具合に勘違いをしてくれたようだ。
「まぁそういう事だ。だから、思う存分透は瑞希と夏祭りを楽しんで来いよ」
「お前もな」
透は嬉しそうに笑う。
愁也は自分がどんどん嘘つきになっていく気がした。
☆
そして夏祭り当日を迎えた。
心なしか町の人達の顔が楽しそうだった。
祭の前という物は不思議と胸が騒ぐ物だろう。
でも、今年の夏祭りは憂鬱だった。
透にはああ言ったけど、実際に愁也と夏祭りに一緒に行ってくれる瑞希以外の女の子なんていなかった。
手当たり次第に誘えば一人くらいOKしてくれそうだが、そんなみっともない真似はしたくなかったし、そもそも好きではない女の子と夏祭りに行っても面白くなく、その女の子にも失礼である。
だからと言って、男友達同士で行って、透達と遭遇するのも気まずい。
今年の夏祭りは行かない方が一番安全な道だと思った。
よって愁也は家でごろごろする事に決めた。
なんとも虚しい。
来年は絶対にまだ見ぬ可愛い彼女と行ってやると心の中で誓った。
愁也は部屋の時計を見る。
時計の針が夕方の五時を指していた。
夏祭りは六時からだ。
まだ始まっていない。
なんだかやたらと時間を気にしてしまう。
今年は誰とも待ち合わせしてない癖に。
愁也はベットに横になり、目を閉じた。
今夜は眠れそうじゃなかった。
すると、ドアが開かれる音が聞こえ、誰かが愁也の部屋に侵入してきた。
愁也は目を開け、気配がする方へ目を向けると、そこには、怒った顔の瑞希がいた。
「瑞希?どうした? 透と夏祭り行くんじゃないのか?」
愁也は何故か怒っている瑞希に戸惑いながらも言う。
「誰と夏祭り行くの?」
瑞希は愁也を睨みながら聞いてくる。
「別にいいだろ今年くらい。毎年毎年同じメンバーで行っても飽きるだろう」
「私は飽きないよ。愁ちゃんが一緒なら」
瑞希は少し泣きそうだった。
愁也は瑞希から顔をそらす。
「とりあえず瑞希は透の所へ行けよ」
突き放すように言った。
「愁ちゃんも一緒に行こうよ」
「だから俺は他の人と行くって」
「それ嘘でしょ。愁ちゃん私以外の女の子と喋らないじゃん」
「自惚れるな。お前以外の女子と喋る事ぐらいあるっつうの」
ほんのたまにだけど・・・・・・。
「愁ちゃんがいないと寂しいよ」
「透がいるだろ」
「いつも三人一緒だったじゃん。一人だけ勝手にいなくならないでよ」
「バランス崩すような事したのはそっちだろ!!」
愁也は思わず怒鳴ってしまった。
「お前はどういうつもりでキスなんかしたのか分かんねぇけど、あんな事したら、もう三人じゃいられねぇよ」
愁也は冷たく言う。
瑞希は愁也の事を見つめたまま黙りこんでしまった。
長い沈黙が流れる。
お互いこんな空気には慣れてないので、次の言葉が出てこない。
ただ時間だけが過ぎて行った。
「そろそろ行けよ。透が待ってるだろ」
「愁ちゃんこそ行かないの?」
「お前の察する通り、今年は誰とも行かねぇよ」
もう隠しても無駄だと思い、愁也は正直に話した。
「じゃあ私も今年は行かない」
「お前は行けって! 透がかわいそうだろ」
「嫌!」
「お前なぁ、ちょっとは透の気持ちを考えろよ!」
「愁ちゃんこそ、私の気持ちをちゃんと考えてよ!!」
瑞希の甲高い声が鼓膜が破れそうなくらい響いた。
「なんで分かってくれないの・・・・・・冗談でキスなんかするわけないじゃん」
瑞希が泣きながら言う。
瑞希を泣かせてしまったのは小学校以来だった。
愁也は動揺を隠せない。
瑞希とはいえ女の子だ。女の子に泣かれてしまうと、男は慌てふためいてしまう。
「泣くなよ……。どうしたらいいか分からなくなるだろ」
一応言ってみる。これで泣き止んだら奇跡だ。
瑞希の顔をチラリと伺う。
案の定、全然泣き止む気配はなかった。
「分かった。俺も夏祭りに行くよ。だから泣かないでくれ」
愁也が折れる。女の涙には勝てない。
「いいよ。そんなに無理しなくても」
「じゃあどうしたらいいんだよ?」
愁也はお手上げである。
すると、瑞希は泣きながら聞いてきた。
「そんなに私からキスされるの嫌だったの?」
「嫌ってわけじゃないけど・・・・・・でも、キスは恋人同士がやるもんだろ」
「私じゃ恋人にはなれない?」
「そんな事考えた事ないから分かんない」
「じゃあ考えてよ」
瑞希は泣き顔で見つめてくる。
なぜか愁也はこの時初めて瑞希を可愛いと感じた。
「分かった。瑞希がそこまで言うならちゃんとお前の事考えてみるよ」
愁也は瑞希を真っ直ぐ見つめながら言った。
瑞希は驚いた様子で顔を上げる。
「でも、そんなに早くは答えを出せないと思う。付き合いが長い分、それだけ簡単に答えを出していい問題じゃないと思うから。だからもう少しだけ時間をくれないか?」
愁也は真剣な顔で言う。
「分かった。待ってる」
瑞希はひとまず納得してくれたようだ。
「ほら、洗面所で顔洗って来いよ。そんな顔じゃ祭に行けないだろ」
「愁ちゃんはどうするの?」
「俺も一緒に行くから」
愁也は瑞希を安心させるように、できるだけ優しく言った。
すると、瑞希は明らかに元気な顔になって、急いで洗面所に向かって行った。
そんな嬉しそうな瑞希の顔を見ると、透への罪悪感が更に増えていく気がした。
それは瑞希も例外ではなかったという事を知った愁也だった。
瑞希はあれから何事もなかったように、普段通り生活している。
愁也にもいつも通り接してくる。
こっちは未だにちゃんと瑞希の目を見れないというのに・・・・・・。
瑞希はこっちの反応を見て、楽しんでいるような気さえする。
女という生き物は恐ろしい。
いったいどんなつもりでキスなんかしたんだろうか?
悪戯?
冗談?
新手のイジメ?
それとも本気・・・・・・?
何にしたって悩みが更に増えた訳で、透への秘密と裏切りのおまけ付きだ。
こういうのも抜け駆けって言うのかどうかも分からない。
それとも自分が知らないだけで、透と瑞希もキスをした事はあるのだろうか?
駄目だ。頭が混乱する。意外に自分が思っている以上に自分の心は繊細なのかもしれない。
でも瑞希もキスの話題には触れてこないので、そのままお流れになる見込みが高そうだった。
愁也はこのまま何もなかった事にする方が一番安全な策だと思った。
愁也にとって一番の恐怖は関係が変化する事だから。
☆
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中学生になってからは、山本君と遊ぶ事が多くなった。
それはクラスメイトであり、共に部活をやっていないで遊んでばかりいる不良学生だからだ。
いわゆる悪友という奴。
単純に山本君とは気が合うのだ。
透とは全く違うタイプの友人である。
透と山本君どっちが真の親友かと聞かれると答えられない。
友情という物はそんなに簡単に比べられる物じゃないから。
愁也は、どちらも大切な友人だと思っていた。
「お前最近、なんとなく元気なくね?」
愁也が山本君の持っているエロ本を漁っていると、山本君が珍しく真面目に聞いてきた。
「そうか? 別に普通だぞ」
愁也は平静を装って誤魔化す。
「嘘つけよ。最近のお前はぼーっとし過ぎなんだよ! それにお前、瑞希ちゃんの事避けているだろ」
「だから、俺にも悩みの一つや二つぐらいあるって」
「瑞希ちゃん絡みか?」
「なんでいつもそこで瑞希の名前が出てくるんだ?」
愁也はそこが不思議で堪らない。瑞希とは確かに毎日会ってるけど、クラスではいっぱい喋ってるわけではない。
愁也は男子同士で話すし、瑞希も女子同士で話す。
瑞希と学校で喋る時は、むしろ少ないと言ってもいい。
「だってお前が悩むとしたら、瑞希ちゃん以外考えられないじゃん」
「失礼な。他にもあるわい」
「じゃあ言ってみろよ」
「えー・・・・・・と」
「はい時間切れ。ていうか『えーと』と言った時点で駄目。よってお前は瑞希ちゃんの事で悩んでいる」
山本君は強引に愁也の悩みを確定した。
まっ当たってるけど・・・・・・。
「隠すなよ。俺がからかったりすると思うか?」
「思う。お前は間違いなく明日のクラスのネタにする」
「そんな事しねぇよ。ガキじゃあるまいし」
「いやお前はガキだ。ただのエロガキだ」
愁也は頑に話す事を拒む。
「信用されてねぇな・・・・・・」
山本君が少し哀しそうな顔をした。
愁也は少し罪悪感を覚える。
「・・・・・・別に信用してないわけじゃねぇよ。ただ・・・・・・俺にも今自分が何を悩んでいるか整理できていないだけなんだ」
愁也は目を伏せる。
「まぁ無理矢理聞こうとした俺も悪かったよ」
山本君は意外にも素直に頭を下げたので驚いた。
「お前って意外といい奴だよな」
愁也は今さらだけど山本君に向かってそんな事を言う。
山本君は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつものふざけ顔になって、
「気付くの遅すぎ」
と生意気な事を言ってきた。
愁也と山本君はニヤニヤ男同士気持ち悪く笑い合った。
「この前、お前が『失った時に瑞希の可愛いさに気付く』と言ったよな」
「そんな事言ったか?」
山本君は回想するように顔を上に向ける。思い出さないみたいだ。
「本当に気付けるものなのかなぁ?」
愁也はボソリと呟いた。
すると、山本君は同情した目をした。
「お前もよく考えたら損してる男だよな」
「俺が損してる?」
愁也は首をかしげる。
「だってお前、瑞希ちゃんが女としての基準だろ。そしたら、大抵の女はボーダーラインを越えられねぇよ」
「そんな事はないだろう」
「じゃあ、内のクラスで可愛いと思う奴いるか?」
山本君は試すように聞いてきた。
「いない。お前もそう思うだろう?」
「やっぱりそう言うと思ったよ」
山本君は一人で納得していた。
「なんだよその反応」
「あのな愁也・・・・・・。内のクラスの女子は可愛くてレベル高いって評判なんだぞ」
「またまたそんな事を言って。俺は騙されないぞ」
愁也は笑いながら言う。
だが山本君は何も言ってくれない。
「もしかして本気で言ってる?」
「当たり前だ」
山本君は真面目顔で言った。
愁也の背筋が冷たくなった気がした。
「愁也はもっと周りの女子と瑞希ちゃんをしっかり見比べて、自分の感覚を一般人に合わせる所から始めないと一生女と付き合えないぞ」
山本君は愁也に言い聞かせるように言った。
☆
暗くなったので山本君の家を去り、自分の家に帰ろうと歩いていた。
すると、またしても偶然に部活帰りの透を発見してしまう。
愁也は声をかけようか迷った。
今、透とちゃんと話せる自信がなかったからだ。
自分は透の気持ちを知っていて瑞希とキスをしてしまった。
応援すると言った癖に、瑞希とキスをしてしまった。
後ろめたい事この上ない。
愁也が今日は透と会うのをよそうと歩調を緩めた瞬間、透がいきなり愁也の方を振り向き、見事に見つかってしまった。
愁也は思わず体がビクッと震えてしまった。
「よう愁也。今帰りか?」
「おっおう」
「なんで挙動不審なんだよ・・・・・・? さてはまたなんか悪さしてきたのか?」
愁也は首を横に振るだけじゃなく全身で否定した。
その仕草がツボにハマったのか透は男前の顔で笑った。
「まぁ何をしたのか聞かないよ。それより一緒に帰ろうぜ」
「おう」
愁也は短く返事して、透の隣に並んだ。
透と話していても、どこか今日は会話が弾まないような気がした。
喋っても、喋っても空回りしているような気がする。
それでも笑ってくれる透は優しい。
もし自分が女だったら、抱かれてもいいと思った。
神社の前を通ると、夏祭りの飾り付けを自治体の人がやっていた。
「そういえば、もうすぐ夏祭りか・・・・・・」
透が感慨深げに呟いた。
その顔を見て愁也はある事を思いついた。
「今年は透と瑞希二人っきりで行けよ」
「・・・・・・なんでだよ愁也も一緒に行こうぜ」
透は愁也の提案に一瞬驚いたが、すぐに反論した。
「瑞希と二人っきりになれるチャンスだぞ」
「どうしたんだ? 愁也らしくないなぁ。そんなに気を遣う事ないだろう」
「だって、透が応援してくれって言ったんじゃん」
「言ったけど、そんな事をして貰っても俺は嬉しくないぞ。それに三人で行くから面白いんじゃないか」
透は愁也の提案をことごとく断る。
でも、愁也は透にこの提案を受け入れて貰いたかった。
だって、今年は三人で行っても楽しめそうじゃないし、自分はすでに透を裏切ってるから、その償いをしたかった。
「俺さぁ、実はもう他の人と行くって約束しちゃったんだ」
「えっ本当か?」
透は驚き、少し考え込む。
「もしかして女?」
「えっ!? まぁそんな所だ」
愁也は咄嗟に嘘をついた。
「なんだよ。そういう事かよ」
透はニヤニヤ笑う。
透は上手い具合に勘違いをしてくれたようだ。
「まぁそういう事だ。だから、思う存分透は瑞希と夏祭りを楽しんで来いよ」
「お前もな」
透は嬉しそうに笑う。
愁也は自分がどんどん嘘つきになっていく気がした。
☆
そして夏祭り当日を迎えた。
心なしか町の人達の顔が楽しそうだった。
祭の前という物は不思議と胸が騒ぐ物だろう。
でも、今年の夏祭りは憂鬱だった。
透にはああ言ったけど、実際に愁也と夏祭りに一緒に行ってくれる瑞希以外の女の子なんていなかった。
手当たり次第に誘えば一人くらいOKしてくれそうだが、そんなみっともない真似はしたくなかったし、そもそも好きではない女の子と夏祭りに行っても面白くなく、その女の子にも失礼である。
だからと言って、男友達同士で行って、透達と遭遇するのも気まずい。
今年の夏祭りは行かない方が一番安全な道だと思った。
よって愁也は家でごろごろする事に決めた。
なんとも虚しい。
来年は絶対にまだ見ぬ可愛い彼女と行ってやると心の中で誓った。
愁也は部屋の時計を見る。
時計の針が夕方の五時を指していた。
夏祭りは六時からだ。
まだ始まっていない。
なんだかやたらと時間を気にしてしまう。
今年は誰とも待ち合わせしてない癖に。
愁也はベットに横になり、目を閉じた。
今夜は眠れそうじゃなかった。
すると、ドアが開かれる音が聞こえ、誰かが愁也の部屋に侵入してきた。
愁也は目を開け、気配がする方へ目を向けると、そこには、怒った顔の瑞希がいた。
「瑞希?どうした? 透と夏祭り行くんじゃないのか?」
愁也は何故か怒っている瑞希に戸惑いながらも言う。
「誰と夏祭り行くの?」
瑞希は愁也を睨みながら聞いてくる。
「別にいいだろ今年くらい。毎年毎年同じメンバーで行っても飽きるだろう」
「私は飽きないよ。愁ちゃんが一緒なら」
瑞希は少し泣きそうだった。
愁也は瑞希から顔をそらす。
「とりあえず瑞希は透の所へ行けよ」
突き放すように言った。
「愁ちゃんも一緒に行こうよ」
「だから俺は他の人と行くって」
「それ嘘でしょ。愁ちゃん私以外の女の子と喋らないじゃん」
「自惚れるな。お前以外の女子と喋る事ぐらいあるっつうの」
ほんのたまにだけど・・・・・・。
「愁ちゃんがいないと寂しいよ」
「透がいるだろ」
「いつも三人一緒だったじゃん。一人だけ勝手にいなくならないでよ」
「バランス崩すような事したのはそっちだろ!!」
愁也は思わず怒鳴ってしまった。
「お前はどういうつもりでキスなんかしたのか分かんねぇけど、あんな事したら、もう三人じゃいられねぇよ」
愁也は冷たく言う。
瑞希は愁也の事を見つめたまま黙りこんでしまった。
長い沈黙が流れる。
お互いこんな空気には慣れてないので、次の言葉が出てこない。
ただ時間だけが過ぎて行った。
「そろそろ行けよ。透が待ってるだろ」
「愁ちゃんこそ行かないの?」
「お前の察する通り、今年は誰とも行かねぇよ」
もう隠しても無駄だと思い、愁也は正直に話した。
「じゃあ私も今年は行かない」
「お前は行けって! 透がかわいそうだろ」
「嫌!」
「お前なぁ、ちょっとは透の気持ちを考えろよ!」
「愁ちゃんこそ、私の気持ちをちゃんと考えてよ!!」
瑞希の甲高い声が鼓膜が破れそうなくらい響いた。
「なんで分かってくれないの・・・・・・冗談でキスなんかするわけないじゃん」
瑞希が泣きながら言う。
瑞希を泣かせてしまったのは小学校以来だった。
愁也は動揺を隠せない。
瑞希とはいえ女の子だ。女の子に泣かれてしまうと、男は慌てふためいてしまう。
「泣くなよ……。どうしたらいいか分からなくなるだろ」
一応言ってみる。これで泣き止んだら奇跡だ。
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「分かった。俺も夏祭りに行くよ。だから泣かないでくれ」
愁也が折れる。女の涙には勝てない。
「いいよ。そんなに無理しなくても」
「じゃあどうしたらいいんだよ?」
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「そんなに私からキスされるの嫌だったの?」
「嫌ってわけじゃないけど・・・・・・でも、キスは恋人同士がやるもんだろ」
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「そんな事考えた事ないから分かんない」
「じゃあ考えてよ」
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「分かった。瑞希がそこまで言うならちゃんとお前の事考えてみるよ」
愁也は瑞希を真っ直ぐ見つめながら言った。
瑞希は驚いた様子で顔を上げる。
「でも、そんなに早くは答えを出せないと思う。付き合いが長い分、それだけ簡単に答えを出していい問題じゃないと思うから。だからもう少しだけ時間をくれないか?」
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「分かった。待ってる」
瑞希はひとまず納得してくれたようだ。
「ほら、洗面所で顔洗って来いよ。そんな顔じゃ祭に行けないだろ」
「愁ちゃんはどうするの?」
「俺も一緒に行くから」
愁也は瑞希を安心させるように、できるだけ優しく言った。
すると、瑞希は明らかに元気な顔になって、急いで洗面所に向かって行った。
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