さんかくの僕達

三つ葉

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1部 中学生時代

夏祭り

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透は近くのコンビニで待ってるらしい。


愁也は瑞希とそのコンビニに向かった。



透はコンビニで雑誌を読んで待っていた。


瑞希が透に声をかける。


透は雑誌から目を離し、こっちを見た。


瑞希の隣に愁也がいる事を確認すると一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻し、


「やっぱり今年もこのメンバーか」


と言って笑った。


愁也も頑張って笑おうと試みたが、苦笑いになってしまった。



愁也は透の顔をちゃんと見れなかった。



そんな愁也を透は何も聞かないで、迎えてくれた。


透は優しい奴だ。


その上かっこいい。


なんで瑞希は透ではなく自分を選ぼうとするのだろうか?


俺が母性本能をくすぐるらせるような男だからだろうか?


つまり瑞希はだらしない男が好きなのだろうか?


そんな理由で透が振られるなんて可哀想じゃないか・・・・・・。



透には、どこにも欠点がない。


自分には欠点だらけだ。


透に勝てる事と言えば、瑞希と一緒にいる時間が少しだけ長い事ぐらいだろう。


でも、近すぎて瑞希の事をどう思っているのか分からないわけで、決してそれもアドバンテージとは言えないだろう。


人は近すぎると気持ちが分からないものだ。


いったい瑞希はいつから自分の事を好きなのだろうか?


どうやって好きだと気付いたのだろうか?


その気持ちは本当に合っているのだろうか?


やっぱり自分には瑞希の気持ちが理解できなかった。


そんな事を考えながら愁也達は祭が行われている神社に向かった。



祭は凄い人だかりで賑わっていた。


たくさんの屋台も並んでいる。


美味しそうな匂いがしてきて、つい財布の紐が緩んでしまいそうだった。


こんな平凡だけが取り柄の町に、こんなに人がいたんだと思う程、人口密度が高かった。


瑞希ははぐれないようにするためなのか、愁也の服の袖をちょこんと掴んで歩いていた。


去年なら別にそんな事いちいち気にしなかったけど、瑞希と透の気持ちを知った今、その愁也の服を掴んでいる瑞希の小さな手が気になって仕方がなかった。


でも、「離してくれ」とは言えるわけもなく、透には悪いとは思いつつも必死で気にしないふりをして歩いていた。


愁也は、とりあえず今日は何も考えないで祭を楽しもうと思った。


かき氷やたこ焼きなど定番の物を物色する。


祭で食べると、おいしさが二倍になるはずだ。


たこ焼きを食べた。たこが入ってなかったけど、祭だから気にしない。気にしない。



ポップコーンを食べた。味がしなかったけど、祭りだから気にしない。気にしない。



気をとり直してくじを引いた。当然のように外れたけど、祭りだから気にしない。気にしない。



今日の瑞希がやけにしおらしくて女っぽく見えた。


きっと祭りのせいだ。


だから気にしない。気にしない。



今日は何も考えない。


そうは思っても、やっぱり人間の心は正直だ。


どこか心の底から楽しめない。



瑞希は相変わらず愁也の服を握ってる。



横に透がいるというのに・・・・・・。



透は愁也が祭についてきた事を正直どう思っているだろう?


もしかすると、心の中では愁也の事を邪魔と思ってるかもしれない。


今日だって瑞希と二人っきりで夏祭りに行く事を楽しみにしてたはずだ。


透は瑞希の事が好きなのだから……。


それを愁也が突然割り込んできたのだ。



いくら優しい透でも楽しみにしてた事をいきなり潰されたら怒るだろう。


透はかき氷を食べながら普段と変わらない男前の笑顔で笑ってるが、心の奥は笑ってないかもしれない。



愁也は透の本心が知りたいような、知りたくないような複雑な気分だった。


愁也達のお金がどんどん少なくなってきた。


でも、まだ帰る気配はなかった。


去年は9時前ぐらいまで粘ってたから、今年もそれぐらいまでいるのだろう。



愁也は何も問題が起こらない内に早く帰りたいと思ってた。



別にビクビク怯える事は何一つしてないはずなのに・・・・・・。


そもそも落ち着かない原因の一つにあたる愁也の服の袖を握ってる瑞希の手を、まず、どうにかしたかった。



愁也はどうやってさりげなく、あたかも自然に瑞希の手を外すか考えていた。



すると、前方にクラスメイトのムッツリスケベこと山田君を偶然発見した。


愁也はこれはチャンスだと思った。



「ちょっとごめん。山田見つけたから、ちょっと話しかけてくるわ」


愁也は瑞希と透に向かって言う。


これで瑞希は掴んでる手を離すだろうし、透と瑞希を二人っきりにさせてやれるチャンスだ。


我ながら完璧な作戦だと思った。


「分かった。じゃあ、俺達は、ここで射的やりながら待ってるよ」


透が言った。



「了解。すぐ戻ってくる」


愁也はそう言ったが、しばらく二人っきりにしてやろうと心の中で考えていた。



愁也は透の了解を得た事で、山田君の所へ向かおうとする。




しかし、できなかった。



瑞希が愁也の服を強く握りしめていた。



「あの、瑞希・・・・・・いい加減手を離して欲しいのだけど・・・・・・」


恐る恐る愁也は瑞希に聞いてみる。


「はぐれちゃうよ・・・・・・」


瑞希は不安そうな顔で言った。


「大丈夫だって。ここで待ってるんだろ。はぐれるわけないじゃん」


愁也はそう言う。でも、瑞希は納得してない様子だった。


「だって愁ちゃん・・・・・・そのまま帰っちゃいそうだもん」


愁也はその言葉を聞いて驚いた。


もしかすると瑞希には愁也の心が見えてるんじゃないかと思ってしまった。


「ここまで来て、今さら帰らねぇよ」


愁也は瑞希を安心させるように笑顔で言った。


「本当?」


瑞希は愁也の心を覗いてるかのように見つめてくる。


「だから本当だって」


愁也は瑞希に向かって微笑んだ。


すると、瑞希はやっと信じてくれたのか、掴んでいた手を離してくれた。





「絶対に戻ってきてよ」


瑞希は念を押す。


「大袈裟だなぁ。ちょっと話してくるだけじゃん」


「だって・・・・・・」


「分かった。五分で戻ってくる。戻って来れなかったらジュース奢ってやるよ」


愁也はそう言って瑞希の髪をクシャクシャにして撫でる。


「もうやめてよ。せっかく髪整えてきたのに」


瑞希は愁也の手から逃げ回る。


やっと笑顔になってくれた。



それを確認すると、愁也は瑞希に背を向けて、山田君がいる方向へ走っていった。



走ってる途中、「一秒でも間に合わなかったら、絶対に奢りだよ」という瑞希の声が後ろから聞こえた。


山田君は挙動不審だった。


視線がキョロキョロしてる。


しかも、なぜ彼は一人でいるのだろうか?



山田君は謎の男だ。


愁也は山田君のケツに軽く蹴りを入れた。


すると、山田君は「ひゃっ!!」と奇声を上げて飛び上がった。



「よう山田。何してんの?」


「なんだ愁也かよ。まじビビったじゃん」


山田君は蹴った相手が愁也だと分かると落ち着いた。



「お前一人で何してんの? しかも挙動不審だし」


「えっ!? 別に普通‥」


「草むらでいちゃついてるカップルでも覗きにきたのか?」


「ちちち違うよ。そそそんな事するわけないだろう」


山田君は尋常じゃない程動揺した。


どうやら図星だったらしい。


愁也は正直少し引いてしまった。


もはや、ムッツリスケベじゃなく、ただの変態だと思った。


「いや本当に違うぞ。だから、そんなに引かないでくれ」


山田君は必死で否定した。逆にそれが怪しさを増す。


「山田・・・・・・正直俺は見損なったぞ。覗きなんてシャレにならないじゃん」


愁也は呆れながら言う。


「だから、違うって。一人で挙動不審だったのは、女の子をナンパしようかと思ってたからなんだ」


山田君は必死に弁解した。


ナンパもどうかと思ったが、覗きよりマシだった。



「ナンパなんか成功するわけないだろう」


「違うよ愁也、諦めたらそこで終わりなんだ」


山田君は真剣に言う。


ナンパごときにその台詞はおかしいと思った。



「男友達同士で行けばいいじゃん」


「嫌だ! 祭に男同士で行くのは負け組だ」


山田君にはよくわからない信念があるようだ。


愁也にはその気持ちが分からない。


「愁也もどうせ瑞希ちゃんと一緒に来てるのだろう?」


「ああ。透も一緒だけど」


「なんだよ!! 裏切り者!!」


山田君は急に怒りだした。


「裏切り者って・・・・・・瑞希は別に彼女じゃないぞ」


「分かってるよ! それでも羨ましいのだからしょうがないだろ! 俺も可愛い幼馴染みが欲しかったよ!」


「そんな事を言われても・・・・・・」


愁也は山田君の強烈な憎悪に思わずたじろいでしまった。



「悪い愁也。ちょっと取り乱してしまった」


「ああ、目に殺気があったから、少し驚いたよ」


「さっき山本が女連れて歩いてるの見たから、ちょっとイライラしていたんだ」


「山本がか?」


山田君は悔しそうに頷いた。


山本君はイケメンじゃない癖にちょっと不良っぽい所があって良く喋るから女にモテる。


エロの伝導師の異名を持つ山本君は実戦経験も豊富だった。


「まぁ別に無理に彼女を見つけなくてもいいんじゃないか?」


愁也は山田君を慰めるように言う。



「あっ可愛い子発見」


山田君は愁也の話を思いっきりスルーした。


ぶん殴ってやろうかと思った。



「愁也もどうだ? 一緒にナンパやろうぜ」


「いや俺はいいよ。瑞希達待ってるし」


「そっか。じゃあ俺はちょっと頑張ってくるよ」


そう言って山田君は爽やかな笑顔と供に女の子の元へ走っていった。




山田君。「鏡見て出直して来い」なんて台詞、現実で初めて聞いたよ。


それでもへこたれないで力強く生きている君を初めて漢だと思ったよ。


どうか幸せになってくれ。


愁也は山田君の健闘を祈りつつ、瑞希達が待ってる場所に戻る事にした。


あまりにも山田君が面白かったから、長居してしまった。


とっくに五分間なんて過ぎていた。



しょうがないので、瑞希に祭のぼったくりのジュースを買ってきてやろうと思った。



瑞希は確かオレンジジュースが好きなはずだ。


でも、素直にオレンジジュースを奢るのもシャクだった。


なので、コーラと烏龍茶を混ぜたスペシャルジュースを飲ませてやろうと小学生レベルの悪戯を試みる。



ぼったくりジュース二本は買うのは経済的にきつかったけど。





それにしても、山本君は女連れかよ。


山本君こそ彼女がいるなんて一言も愁也に言ってなかった。



自分だって隠してるじゃんと愁也は思った。


透は隠さず自分の気持ちを愁也に伝えた。


自分の気持ちを話すなんて意外に難しい物だ。


やっぱり透は凄い奴だ。



愁也がそう思って歩いてたら、中学生ぐらい女の子達の話し声が愁也の耳に入ってきた。


「あっちに透先輩いたよ」 「えっ本当に!見に行こうよ」



女の子のきゃぴきゃぴした声が聞こえる。


透の事を先輩と呼んでる所から推測すると、どうやら一年生のようだ。


愁也は気になったので、その子達に気付かれないように耳を清ませた。



「でも、瑞希先輩と一緒だったよ」 「えーやっぱりあの二人付き合ってるのかなー?ちょっとショック」



「でも、あれだけお似合いのカップル他にいないよね」



話していた女の子のその言葉が愁也の心に深く突き刺さる。


これ以上聞くのは、本能的にまずいと思ったけど愁也は何故か動けなかった。



「悔しいけど、瑞希先輩が一番透先輩に合ってるよねー。幼馴染みだし、可愛いし」 「やっぱり釣り合いは大事だよ」 「もうあの二人以外は認められないよねー」 「本当あの二人なら許せる。他の人と付き合うのは許せない」


話はまだ続いていたけど、愁也はそこまで聞くのが限界だった。


この場所から急いで離れたい衝動に駆られた。


愁也は人混みを掻き分けるように走り出す。


瑞希と透が待っている場所から逃げるように駆け出した。


気が付くと、愁也は神社から出ていた。



たくさんの人に肩がぶつかった気がする。


いつの間にか、瑞希のために作ってあげたスペシャルジュースもなくなっていた。


どこかに落としてしまったらしい。


別にもういらないけど。



「俺だって分かってるっつうの」


愁也は誰に言うわけではなく呟く。



「やっぱり瑞希は透と付き合うべきだよ」


こんなできそこのないの自分と付き合うよりは。


「それが自然なんだ」




愁也は神社の方を振り向く。


まだ夏祭りは終わる気配はなかった。



「だいたい俺は瑞希の事なんか好きじゃねぇし・・・・・・」


誰に言い訳言ってるのかも分からなかった。


でも、そう呟かないとやってられなかった。


愁也は神社に未練を断ち切るように背を向けて、一人自分の家に帰る事にした。
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