異世界に二人召喚されましたが、私は無能認定されて辺境送り。……え、なんかすごい力が目覚めたんですけど?

天使の羽衣

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盗賊

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 昔は村を守っていた騎士だった。
 騎士はみんなのあこがれであり、村の象徴であったはずだった。

 だが、それがすべて崩れたのはほんの少しの怠惰だった。
 その日のことは明確に思い出すことができる。

 それは――そう。騎士の信頼がなくなった日のこと。


 それは、いつも通り交代で騎士の任務をこなしているときのことだった。
 同僚と二人で村の門番をしていたため退屈ではなかった。

 いつも真面目な同僚がこの日だけはおかしかった。

「なぁ、どうだ一杯やらないか?」

 同僚は酒瓶を隠し持っていた。
 だが、俺はお酒がものすごく弱わかった。少し飲んだだけでも俺はよってしまうほどに。
 当然俺は断った。

「無理だよ。俺はお酒弱いし今は村の門番をやっているんだぞ。酔ってる間に敵の襲来が来たらどうする?」

「そんな堅苦しく言うなよ。せっかく、俺が誘ってやってるんだからさ」

 同僚は酒瓶を持ってぐいぐいと押し付けてくる。

 俺は、長い年月の絆があったため同僚の誘いを断ることができなかった。
 そして、少し飲んだだけで案の定酔っ払い眠ってしまった。

 ー数時間後ー

 目が覚めると、目の前には同僚が眠っていた。

「おいおい!お前起きろよ」

 同僚を揺さぶるが全く起きる気配はない。
 ゆっくりと仰向けにすると――

 ッ!?

 俺はその光景に理解が追いつかなかった。
 腹部から血を流して死んでいる同僚の姿だった。
 慌てて立ち上がり村の方を見るとそこは地獄だった。

 寝ている間に、魔物が村に侵入し村を破壊し尽くしていた。
 俺は助けようと頭で思っていても体が言うことを聞いてくれなかった。

 村人の泣く声、叫び声、炎によって焼かれる人の声。

 全て聞きたくない声がそこにはあった。

 その日、騎士は死んだ。生き残ったのは、名もない盗賊だけだった。
 俺は少しの怠惰で多くの命を奪った――

 ***
 それから数年後――
 今、遠く離れた辺境の地にて。

 「ありさー!」
 窓の外から元気か声が響く。
 まだ、朝は早いというのに……こんな朝早くから何のようだろうと体を起こすと……
 そこにいたのは薔薇だった。

「どうしたの?」

「今夜、盗賊がここを襲いに来るよ」


 「盗賊?なんでこんな辺境に……」

「なんか、王都で噂になっているみたいだよ。ありさのこと」

「まじ!?なんで追放された私の情報が……」

 私は誰にも見送られずに見向きもされずに王都を出たはずなのに……なぜ?
 様々な憶測を考えていると不安が募ってくる。

「ありさ?大丈夫?」

 薔薇の言葉に私は正気を取り戻した。
 
「どうすれば……いいの?」

 顔を窓の外に向けながら薔薇に言った。
 薔薇は少しの間を開けて言葉を放った。

「簡単だよ。ありさが退治すればいい」
「私が!?嫌だよ。そんなの。私人なんか殺したくないよ」
「そんなこと言わないで。この世界は死ぬか生きるかしかないんだよ」
 いつも優しい薔薇の声を荒げていった。
 私のことを心の底から心配しているからなのだろう。
 手で握り拳を作り意思を固めた。
「で、私はどうすればいいの?」
「おっ!いいね。まずはね……」

 そして、私は薔薇から様々な魔法を教わった。
 それを練習する時間はあまりなかった。実質、ぶっつけ本番だ。


 ー夜ー

「もうそろそろ来るはずだよ」
「なんでわかるの?」
「精霊の感さ」
「何それ」
 私は先程の緊張がほどけるようにクスッと笑って薔薇に言った。
 ここは、私の居場所だから……
 そして、私は扉の前に立つ。
 震え得る手を握りしめ、初めての戦いに向かって歩き出した。
 その向こうに、何が待っているかも知らずに――

 
 
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