【R-18】不埒なわたしでごめんなさい。

熊野

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先生のご褒美

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「これ……私の……」
「えっ?」

踵に小さく書いていた名前が誰かに黒ペンで塗りつぶされているが、よく見ると薄く写っている。

「……ありがとうございます、これ履きます。失礼しました」
「あ、樋口さん!」

走って逃げた。
吉村先生に知られたくない。
私が、上靴を捨てられたり、クラスの女子に無視されたり、あらぬ噂を立てられていること。


教室に着くと、私の席の近くで二人の女子がいた。

「……おはよう」

目が合ったから、一応挨拶はするが返っては来ない。
それどころか背を向けてクスクスと笑っているだけだ。
高校生にもなって、子供じみててバカみたい。

「キモ。おはようだって」
「桜月、行こっ」

女子二人のうちの一人は――昔、親友だと思っていた植田桜月。
私は桜月の好きだった相手に告白された。
もちろん断ったが、その瞬間、桜月は私を無視し始め、あることないこと吹聴して回り、見事に私を孤立させた。

生まれてこの方誰ともつきあったことのない私は、周りの話では経験豊富なゆるい女という人物になっているらしい。

行きたい大学があるから、高校は休めない。
卒業まであと少し。そう言い聞かせて過ごすしかなかった。



放課後は図書室で勉強する。
毎日、問題を解いてから帰るのが日課になっていた。

朝は早く来て、帰りは遅く帰る。
そんな毎日。

無事に置いてあったローファーに履き替え、校舎を出る。
すると、目の前に吉村先生がいた。
先生のその姿と表情が、朝と違うように映る。
私の心が変わっただけなのかもしれないが。

「ああ。樋口さん。今日はよく会うね」
「そうですね……先生は今、帰りですか?」
「そうだよ。暗くなってきたから気を付けて」
「はい。……先生、さようなら」
「さようなら」

特に深い意味もない、何てことのない挨拶だ。
しかし、誰とも会話をしない私にとっては、今日一日のご褒美をもらった気分だった。
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