【R-18】3月9日

3月4日、やっぱり好き。

翌日。

テレワークの私は、家でパソコンに向かっていた。
だらしないことに下半身はパジャマ。
寝不足の目は涙で腫れていて、今日が在宅勤務でちょうどよかった。
リモート会議もない。

お気に入りのマグカップいっぱいにコーヒーを淹れ、少し牛乳を足した。
キッチンの引き出しからプロテインバーを取り、一口かじる。


昨日の笹倉さんの返事は、笑いながら
「ありがとな！」と言うだけだった。


あんなに勇気出したのに。
伝わらなかったのかな。
それとも、はぐらかされたのかな。

迷惑だったかな。

嫌われてはいないと思っていたけど、女としては見られてなかったのだろうか。

はっきりと「好き」って言えばよかった。
どうせならきれいにフラれたかった。
ひとりでいると次々と後悔が押し寄せてくる。


じわりと目頭が熱くなって、キーボードを打つ指先が止まった。

迷惑は掛けたくないとは思ってる。
でも、往生際が悪いかもしれないけど、私だって後悔はしたくない……。

涙を拭い、カフェオレに口をつけた。
甘くて優しい味にほっと心が落ち着いた。


すると、社用携帯が鳴り出した。
笹倉さんだ。
慌てて出た。

「は、はい。もしもし、お疲れ様です。久住です」
『お疲れ様です。笹倉です。あのさ、ちょっとデータほしいのあるんだけど出せる？』
「はい、大丈夫です」

詳細を聞きながらキーボードを打つ。
長年笹倉さんと組んで仕事してきた分、心地よく捌けて気持ちがいい。
この感覚がもう味わえないのも寂しく思った。

「送りました。大丈夫ですか？」
『あーありがと。これで行けそう』

よかった。

「よかったです。では、失礼します」
『うん。あ、昨日のひなあられうまかったよ。ありがとう』

ひなあられ……！
突如昨日の告白未遂を思い出す。

「そうなんですね。まだ私食べてなくて。もったいなくて……」
『湿気るぞー。早く食わないと』

確かに……。
というか、なんだかいつもよりさらに優しい声。
昨日ははぐらかしたくせにずるい。
諦められなくなっちゃうよ。

「笹倉さん、ずるいです」
『え？　何が？』

今日は電話越しだからはっきり言える。

もう、フラれてもかまわない。
ちゃんと気持ちを伝えたい。
はぐらかされないように、ちゃんと。

「……そんなに優しいと、私もっと好きになっちゃいますよ」