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11.騎士団
しおりを挟む体調が戻った俺は、グラディウス様と騎士団への初顔合わせにむかっていた。
「ここの奴らは、魔力持ちがほとんどだし、黒に近い色の髪を持っているやつもいる。お前のその黒も魔力も目立ちはしないだろう。」
「それは助かる。」
公爵家の騎士団は通称グアルディアンと呼ばれている。王国一のグラディウスが率いる騎士団には、王国中の曲者達が集まってくる。剣はもちろんのこと、魔法も凄腕達ばかりだろう。
そんな中に俺みたいなひ弱がポンと投げ入れられれば、俺の体は蜂の巣のようになって帰ってくるだろうな。自分から騎士団に入りたいと言っておきながら、ビビりまくってんな俺。
公爵家の敷地内ではあるが、屋敷から少し離れたところに訓練場があり、そのすぐ横には団員達の寮が建てられていた。
屋敷の中にいても、団員達と会ったことなかったのは、生活範囲がここだけで完結するからか。
訓練場に近付くと、剣と剣が激しくぶつかり合う音や、何かが爆発するような音まで聞こえてきた。
訓練じゃなくて実際に戦が起こってるんじゃないかと疑ってしまう。
俺は、反射的にグラディウス様の後に隠れた。
俺の頭上でフッと鼻で笑う声が聞こえ見上げるとグラディウス様が口を押さえて笑っている。
なんだよ!いいだろうが、ちょっと怖かったんだから!でも、笑ってるグラディウス様最高…。
「騎士団の奴らは皆、根はいいやつばっかりだからそんなに怯えなくても大丈夫だ。」
グラディウス様はそう言って、俺の背中をポンッと押した。
知ってる。ゲームの中で何度も出てきた。
グラディウス様は団員達から慕われているし、グラディウス様も団員達のこと信頼している。
グラディウス様は戦いの場で信頼できる人じゃないと一緒に戦わない。そう簡単に背中を預けないのだ。
そんなグラディウス様が選んだ団員達だからこそ、俺は怖い。選ばれた人達の中にポンコツな俺が入ってその絆を壊してしまいそうで。
まぁ、単純に強い人達ばかりだから怖いってのもあるけど。
俺たちは訓練場に足を踏み入れた。
団員達は予想通り激しく訓練…なのか?していた。
めちゃめちゃ戦ってる…。これ一歩間違えれば死ぬだろ。
見てるだけで、お互い本気でやり合っているのがわかる。
「あ!団長じゃん!」
「え!?珍しいー!」
「団長、どうしたんすか?何か用事が?」
団員達は俺たちに気付いたのか、駆け寄ってきては皆同時に話しかけている。
あんなに真剣なムードだった訓練場が一気に動物園と化した。
「あれ?誰っすか?こいつ。」
グラディウス様の後に隠れていた俺に気付いた団員の1人が声をかけた。
「今日から騎士団の一員になる、レイだ。よろしく頼む。」
団員全員の目線が俺に集中する。
さっきまで騒がしかった団員達は、俺を品定めするかのように見る。
「団長が人連れてくるの初めてじゃね!?」
「どんなゴリラかと思ったらこんな可愛いのアリなわけ?」
「いや、でもこの魔力量すごくね?めちゃ漏れてるけど。」
「しかもこいつ黒じゃん!すご、初めて見た。」
1人が話し出すと皆が話し出す。
本当に動物園だ。
てか、誰だ、漏れてるとか言ったやつ。もっと他の言い方あんだろ。
「団長ー。そいつそんな細いのにちゃんと戦えんの?」
奥の方で俺を見ていた1人が声をあげる。
茶色でフワフワした髪をしている。
あれだな、モフりたくなる髪の毛してるな。
「レイの強さは俺が保証する。疑うなら確かめてみればいい。」
そう言って、グラディウス様は俺に木刀を渡した。
「え?」
なにしてんの、この人。
確かめてみればいいってどういうこと!?
「なにしてんの?はやくやろうよ。」
茶髪のフワフワが俺を急かす。
俺は、グラディウス様に訴えるように目を向ける。
グラディウス様は、微笑んだ後耳元で囁いた。
「あいつはフィジー。俺を除く騎士団の中で2番目に強い。頑張れよ。」
はぁぁぁあ!?まじでか!
2番目ってめちゃくちゃ強いじゃん!
なんでいきなりそんなやつと戦わせんの!?
これは負け確じゃん。
俺は、内心ビビリながらフィジーの元へ歩みを進めた。
「じゃあ、私が審判しよっかなー。」
今度は、赤髪でオネェ口調の人が楽しそうにしている。
「レオ、気が利くな。頼む。」
新人の俺のこと、そんなに見たいのかな。
団員達の目線が俺に刺さる。
俺とフィジーは、木刀を構えて向き合う。
目の前のフィジーの瞳にはもう俺しか入っていない。猛獣の前に立たされた草食動物の気分だ。
俺は、獲物か。
「じゃあ、準備はいーい?はじめ!」
レオの合図で、フィジーは俺に向かって斬り込んできた。
はやい…。
俺は、木刀が当たる既のところで横に避ける。
あー。やばいな、やっぱり強い。2番目っていうのは伊達じゃないな。
これは攻撃を食らったら無事では済まないだろうな。
フィジーは素早く切り替えして、今度は体勢を低くして向かってくる。しかも、さっきよりスピードはやい!
だが、突進してくるフィジーに向き直ろうとして、俺は足を滑らせてしまった。前のめりになる俺の体なんてお構いなしに向かってくるフィジー。
やばい、これはやられる…。
痛みを覚悟した。
しかし、俺は体勢が低くなっているフィジーの背中に片手を乗せ倒立、気づくとフィジーの後ろに立っていた。
それからの俺の頭は不思議とスッキリ、よりも無心、そして冴えていく。
体が軽く感じるし、相手の動きもよく見える。
フィジーが右上から斬りかかるが、俺は木刀を下から当て上へ弾く。弾かれたことにより空いた懐へ入りフィジーの腹部に足裏で蹴りをいれた。
フィジーが後ろへ蹌踉めいたところに、再び距離を詰め剣先をフィジーへ向ける。しかし、フィジーは既に俺へ向けて剣を突いていた。回避するには一歩遅く刃は俺の頬を掠る。
いてぇ。
でも、フィジーの剣が俺に当たるということは、フィジーは俺の間合いの中にいるということだ。俺は、左下から脇腹へ木刀で斬りつける。フィジーが少しウッと呻く。その一瞬を見逃さず、俺はすかさず後ろへ回り込み斬りかかる。だが、フィジーもまた振り向きながら振りかぶっていた。俺の剣先はフィジーの首、フィジーの剣先もまた俺の首を狙っていた。
「そこまで!」
レオの声で俺たちはピタリと止まる。あと少しで互いの剣先が首に触れるところだった。
張り詰めていた緊張の糸が切れたように、俺の呼吸は今になって乱れていた。
前を見るとフィジーもまた呼吸を乱していた。
フィジーは木刀を降ろし右手を前に差し出す。
一瞬どういうことか分からなかったが、フィジーが求めたそれは戦い後の握手であった。
理解した俺は、右手を差し出し握手をした。
周りの団員達から、ワァッと歓声があがる。
「やればできるじゃん。」
「あ、ありがとう。」
「まぁ、団長が連れてきた時点で出来るやつなのは分かりきってたけど。」
「え?」
じゃあ、この戦いやらなくてよかったんじゃね!?
俺の表情で何を言いたいのか分かったのか、フィジーが口を開く。
「だって、強そうなやつとは戦ってみたいじゃん?」
なんてやつだ。
俺はひとまず、終わったことにひと息ついた。
「これからよろしくな!レイ?だっけ。俺実はこの中で2番目に強いんだぜ。そんな俺に引き分けたんだ、自信もてよ!」
知ってるけども。
騎士団No.2の人と引き分けなんて…。本当に俺が?
途中から俺が戦ってる感じしなかったんだよなぁ。
「良くやったな、まさかフィジー相手に引き分けるとは。最近は、剣も持ってなかったんだろ?」
グラディウス様が話しに割り込んできた。
「うん、なんか体が覚えてたみたい。」
ん?俺、グラディウス様に剣道やってたこと言ったことないよな。あっちの世界のこと話したことないし。
考えすぎか?
グラッ
突然、目の前が回った。
体に力が入らずふらつく。強い眠気と脱力感に襲われる。え?なんで、絵描いてないのに。
しかも、なんかいつもと違う。身体が熱い…。内側から燃えるみたいだ。
「おい、大丈夫か?」
グラディウス様が俺の脇と腕を掴み身体を支えてくれている。
「ごめん、なんか身体が熱い…。」
俺、知らないうちに魔力使っちゃたのかな。
グラディウス様は、俺の頬の傷を見つけ指でなぞる。そして、何かに気づいたようだ。
「大丈夫だ、俺に掴まれ。」
俺の手を自分の首に誘導したかと思えば、俺の体を両手で抱えた。言わずもがな、お姫様抱っこだ。
恥ずかしいけど、今で良かった。こんな状態じゃなければ、興奮しすぎて鼻血垂らしながら卒倒するところだった。
グラディウス様は俺を寮の空き部屋へ運び、ベッドに寝かせてくれた。
まだ意識は保っていられる。
だが、身体が熱すぎる。頭が溶けそうだ。
「お前はさっきフィジーの剣を頬で受けたとき、魔力も一緒に受けたんだ。その影響で、体の中で拒否反応を起こし熱をだしている。それに、戦いの中で無意識に身体操作を使っていただろう。魔力の使い過ぎだ。」
「全然気付かなかった。魔法、使ってたんだ…。」
「今から魔力を馴染ませながら、魔力の補給をする。辛いだろうが、体内の魔力の動きをしっかり感じ取れ。」
「わ、分かった…。」
俺は何でもいいからこの体をどうにかしてほしかった。
俺が頷いたのを確認すると、グラディウス様は俺に顔を近付けてきた。そのまま俺の唇に何か触れた。
え"!?
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