上 下
18 / 32

17.街の散策④

しおりを挟む
「これ、うまいな」
 一口唐揚げを齧って目を見開いたアンドリューは一言呟くと、その後は黙々と唐揚げ定食を食べている。
「また食べに来たい味ですね」
 フェルナンドも頷き、そのまま一気に食べてしまった。
「そうだろ?久しぶりに来たけど、やっぱりうまいよな」
 ライハートは嬉しそうに食べている。

 他のお客さんもいなくなったので、護衛でついてくれている騎士たちにも中に入ってもらうと、やっぱり唐揚げ定食を黙々と食べている。

 騎士たちにも、もちろん大好評だ。

 そうでしょう。そうでしょう。
 マイルズ亭の看板商品だからね。
 おじさんに、唐揚げがどうしても食べたくなって、こんなのを作ってほしいと頼み込んで作ってもらった物だ。
 まだ、前世のことはしっかりと思い出してはいなかったけど、今思えば、断片的に思い出していたのかもしれない。

 ユアンも夢中で食べていて、あっという間に皿が空になっている。

 リーリエも久しぶりにマイルズ亭の唐揚げが食べられて大満足だ。


「おばさん、ユアンくんのお母さんが体調悪いの。持ち帰れるような物作ってもらってもいい?」
「いいよ。ちょっと待ってな」
 リーリエがお願いすると、二つ返事でオッケーしてくれた。
 以前もリーリエの母親が具合悪かった為、よく作ってくれていたのだ。

「しばらく、ユアンくんとユアンくんのお母さんのご飯をお願いしてもいい?お金はわたしが出すから」
「全く、あんたは相変わらず世話焼きだね」
 リーリエのお願いにおばさんは呆れたように言って、ユアンの方を見た。

「ユアン、あんた、皿洗いの手伝いできる?」
「できます」
 ユアンが大きく頷くと、おばさんは満足そうに笑った。
「じゃあ、お昼に手伝いにおいで。そうしたら、ユアンとユアンのお母さんのご飯はうちで用意してあげるから」
「ありがとうございます!」
 ユアンは嬉しそうに笑うと、元気よく頭を下げた。

「ありがとう。おばさん」
「リリーが辞めて、忙しかったから丁度よかったよ」
 お礼を言うリーリエにカラカラと笑った。

 さすが、おばさん。
 わたしの時もこうやって、おばさんに助けられたな。


「ユアンくん、お母様はお医者様には診てもらってる?」
 パトリシアの問いかけに、さっきまで笑顔だったユアンが悲しそうに黙って首を振った。

「なら、お姉さんがお医者様を呼んでおくわ。もちろん、お金はいらないから、心配しないでね」
「パティ、いいの?」
「こうして知り合ったんだもの。わたくしもユアンくんには笑っていてほしいわ」
 パトリシアは慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、お礼を言うユアンを見つめていた。

 パティは女神ね!
 絶対、悪役令嬢なんかじゃないわ。

 改めて確信する。
 わたしがざまぁされるようなことをしなければ、何にも起こらないはず。
 うん。真面目に過ごそう。


 気がつくと、またしても支払いがいつの間にか済まされていて、今度はアンドリューに奢られていた。

「ユアンの分も出しておいたからな。お兄さんに感謝しろよー」
 ユアンの頭をゴシゴシと撫でて、笑っている。

 いつもの軽い調子だったが、思いの外、優しい眼差しだった。


 マイルズ亭を出た後、ライハートが王宮に戻らなくてはいけないということで、今日はここで解散ということになった。
 その帰りの馬車の中でふと考える。

 結局、学院祭の参考になることってあったかな?
 なんか、食べて街をぶらぶらして遊んでただけのような…

 まぁ、いっか。美味しかったし。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私が仕えるお嬢様は乙女ゲームの悪役令嬢です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:364

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

BL / 完結 24h.ポイント:4,604pt お気に入り:1,993

悪役令嬢は、友の多幸を望むのか

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,860pt お気に入り:37

愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:158,771pt お気に入り:4,364

ある平凡な女、転生する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:45

勇者の息子

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:475pt お気に入り:564

悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,202

処理中です...