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1章 ダンジョン

2.ダンジョン攻略開始

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 あまりにも現実味のない景色に圧倒されて数分後、我に返ってはっとする。

「……いやいや、普通にやばいだろ。ダンジョンって何だよ……お、落ち着け。こんな時こそ落ち着くんだ俺……」

 状況に頭がついて行かず、その場にしゃがみこんでぶつぶつと呟いてしまう。まるで悪い夢でも見ているみたいだ。
 ……もしかして本当にリアルな夢でも見ているんじゃないのか?
 そう思い、思い切り頬をつねってみる。

「…………痛い」

 間違いなく痛い。
 泣きそうだ。信じられないがこれは現実らしい。もしかして神隠しってやつに遭ったのだろうか。そんな非現実的な現象が本当にあるんだな……。

 今俺がいる場所は、このダンジョンのスタート地点らしい。
 見たことがないほどの大きな大樹。その枝から生えている葉の上にいるようで、後ろは壁で道がない。つまり進むしかないのだ。
 立ち上がり、大きな葉の上から、おそるおそる下を覗き込んでみる。
 ビル十階分ぐらいの高さ、だと思う。
 落ちたらほぼ死ぬ。運よく死ななくても無事ではすまないだろう。少なくとも骨はバキバキに折れると思う。恐怖で思わず後ずさってしまう。
 正面を見て目を凝らす。はるか向こうに扉らしきものが見える。それ以外に出口はない。どうやらあの扉をくぐらなければならないようだ。
 そのためには。

「……もしかして、この大きな葉を、飛び越えて行かなきゃならないのか?」

 呟きながら頭を抱えてしまう。
 俺が今いる大きな葉は、等間隔に生えていて出口の扉へとつながっている。多分、一つずつ飛び移っていけば出口への扉にたどり着く仕組みだろう。
 だが出口に近づくにつれて、だんだん葉のサイズが小さくなり、途中からは風が吹いていたり、出口に近い葉の周辺には凶暴そうなでかい鳥が飛んでいたりする。
 ……まるでゲームの世界みたいだ。
 運動神経のいい主人公をコントローラーで操るだけなら簡単なんだろうけど、あいにく俺は普通の人間。しかも運動神経がいいわけじゃない。完全に無理ゲーである。
 けれどここには食べ物も飲み物もない。進まなければこのまま衰弱して死ぬだけだ。
 大きく深呼吸をして、頬を両手で叩く。覚悟を決めた。進むなら勢いのあるうちに、だ。

「どりゃっ!」

 助走をつけて、思いっきり次の葉に向かって飛んだ。幸いそんなに距離はない。着地できる。そう思った。
 ―――だけど。

「うっ、わあああああッ!」

 着地した葉は、まるでトランポリンのように跳ねて跳躍した。身体が宙を舞う。
 あ、やばい死んだ。
 そう確信したけど、宙を舞った身体は、運よく次の葉に着地、また跳ねて、次の葉に着地を繰り返した。
 目を回しながらも、十数度目の跳躍で、必死に着地した葉を掴んだ。葉が大きく揺れる。振り落とされないように必死でしがみついた。やがてようやく葉が止まる。

「は―――……」

 落ち着くために息を整える。マジで死ぬかと思った。
 進んだ距離は、スタート地点から出口の扉までの半分ぐらい。
 もう後戻りは絶対にできない。おそるおそる下を見る。下は土色に濁った水溜めに代わっていて、ワニに似た大きくて凶暴そうな動物が俺をじっと見上げている。落ちたらあいつらに喰われるんだろう。

「え、この後どうすればいいんだ?」

 次の葉の距離はスタート地点よりうんと長くなっていた。こんなの絶対に飛び越えられない。もしかして、これ詰んだんじゃないか?
 しかし、それに絶望する間もなく、次のトラブルが俺を襲った。

「……え、ちょっと待てよ。いやいや、ちょっと! こんなのないだろ!?」

 スタート地点で見かけた大きな怪獣鳥。
 それが、それがさ。今、俺に向かってきている。気のせいだろうか。いや気のせいであってくれないと、死ぬ。

「気のせいじゃねぇええええッ!」

 大きなくちばしを開けて、怪獣鳥が俺を目指して突っ込んできた。
 わけもわからず、怪獣鳥を何とか避け、ジャンプしたら何とその鳥の上に乗ってしまった。

「うわっ、うわわわ、わわ」

 背中の羽毛に必死にしがみつく。手を離したら、死ぬ。下の猛獣に喰われて死ぬ。
 怪獣鳥は俺を振り落とそうとしているのか、縦横無尽に飛び回りはじめた。怪獣鳥の羽毛を必死で握る。命がかかっているのだ。振り落とされてたまるもんか。
 怪獣鳥の飛び方がどんどん乱暴になっていく。無茶苦茶な飛び方に酔ってきた。きもちわるい。吐きそう。
手の力が徐々に抜けていく。ついに振り落とされてしまい、落下した。

「うわああああああああああああっ」

 ぽすん、と。
 高いところから落ちたはずなのに、着地の衝撃を完全に打ち消すような柔らかい場所に着地した。
 えっ、ここどこだ? と確認し、俺は驚いて目を見開いた。
 何という偶然。そこはゴール地点の扉だったのだ。

「やった、よくわかんないけど着いた……」

 安堵の涙を潤ませていると、向こうから再び怪獣鳥がすさまじいスピードでこっちに飛んできた。

「ぎゃあああああああああああああああああああッ」

 勢いよく扉を開けて中に入り、すぐに閉めた。後ろで、ドスっという鈍い音が聞こえる。くちばしが扉に刺さった音だろう。間一髪だった。

「はぁはぁ……はぁはぁ、はぁ~~~~~~」

 今度こそ安堵して、息を吐く。
 そして、周囲を確認してぎょっとした。

『おめでとう! 君は一つ目の能力を手に入れた! けどこのダンジョンはまだこれからだ!』

 分かりやすく日本語で書かれた看板が立っていた。しかもかわいらしいポップ体で。
 おちょくられている。
 直感でそう感じとった俺は身体をわなわなと震わせ、叫んだ。

「まだあるのかよ!」
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