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シエルは改めて聞かれると、答えにつまるものだなと、他人事のように思った。ゼーリエに今考えている2つの案を伝えていく。
1つは、修道院に入る道。お金を貯めて持参金を用意し、カタクリン修道院を経由して、友好国であるカスティーラ国の修道院へ逃げること。ある程度の持参金があれば便宜を図ってもらえる可能性が高くなるが、短期間でお金を稼げるかが問題だ。
もう1つは、商人になる道。薬や手伝いの代わりに荷馬車に相乗りさせてくれる食品の仕出し屋か、薬や魔道具を買い取ってくれている専門店のどこかに頼めば、暫くは身を隠させてくれるだろう。前々から働かないかと誘ってくれている店主もいる。ただ、お父様を怒らせたとなっては、渋る人達も出てくる可能性が高い。他国との繋がりがあるお店を探さなければならない。
「お嬢様、商人や職人となる案に致しましょう。私としては、結婚できる選択肢を閉ざして欲しくありません。それに、職人や商人なら他地域の貴族と繋がりの深い者もおります。他所へ逃してくれる可能性が高いでしょう。修道院ではこの地域での旦那様の権力が強く、逃れられないと思います。私の方でも候補となりそうなお店の情報を探してきます」
街に長年住むゼーリエの方が顔馴染みも多く情報が手に入りやすいだろうから任せることにして、ひとまずシエルは、お金を稼ぐために、薬を大量に作ることにした。
薬の材料を採取してからカレーム先生に紹介してもらった布職人に会いに行くことに決め、動きやすく汚れてもいい服へ着替える。疲れからか、身体はのろのろとしか動かない。欠伸で頬の傷が引き伸ばされ、顔が引き攣った。貰った薬を飲むと、身体のだるさも頬の痛みも無くなったように感じ、自分の単純さに笑った。
家を出て森の方へ歩き始めると、ちょうど5の鐘が鳴った。シエルは、昨日の夜から何も食べていないことに気づく。
(ゼーリエも私もすっかり昼食のことを忘れていたわ!)
お腹をさすりながら、財布を確認する。あまりお金の余裕はないが、作っている時間はない。方向転換して露店の立ち並ぶ市場へ向かう。
舗装された石畳を南へ下っていくにつれ、両側にあるレンガ造りの建物の数が減っていった。街ゆく人々も、きっちり掃き清められた格調高い建物もシエルにとっては窮屈に思えて、逃げるように通り抜けるのが常だった。
舗装が途切れ、人々が踏みならして出来た道路にさしかかると、煮込んだミルク独特の甘い匂いが漂ってきた。両脇にはぎっしりと露店が建ち並び、多くの人で賑わっている。
(んー、相変わらずミルク粥の匂いが強すぎるわ!さて、何を食べようかしら?)
いくつかのお店を覗き込みながら、人混みをかき分けて進む。シエルは背が低く強面の男を見かけ、嬉しくて近寄っていく。
「お、嬢ちゃん、久しぶりだねぇ。今日はラグーまだ残ってるよ!どうだい?」
「おじさん、久しぶりですね。ふふ、やっぱりここのラグーが1番いい匂いです!1つください」
「まいどありっ!褒めてくれたから具を少し多くしといたよ!」
「森のお嬢ちゃん、ラグー買ったのかい?なら、うちでパン買ってきな!いつものブロードパンじゃなくて白パンが今日は安くあるんだ!」
お礼を言うシエルの横からひょっこり顔を出したのは、ちょび髭のカールソンさんだ。森のお嬢ちゃんと呼ぶのは、彼くらいだがシエルはあだ名で呼ばれることを気に入っている。妖精のような響きを感じられて嬉しいのだが、実際は、泥だらけで森から出てくるのを何度も目撃されたことが由来である。
「え、白パンが!?ぜひ食べたいです!」
「へへ、そーこなくっちゃ!何故だかよぅ、急に注文の数を減らしたお貴族様がいてさぁー、消費するのに困るからって安く粉を押し付けられたんだよ!まったく、お貴族め、自分勝手・・・・・・」
ぶつぶつと文句を言うカールソンさんは、手際よくパンを袋に詰めてくれた。まだ温かい袋の匂いを嗅ぐと、小麦の香りがふわりと鼻腔をくすぐり、思わずパンにかぶりつきたくなってしまった。
「それは大変でしたね・・・・・・。」
「まぁ、うめぇパンを皆に高く食べさせられてよかったとも思ってるぜ」
その考え方がとてもカールソンさんらしくて笑ってしまった。人目を避けた場所に座って、シエルは白パンにがぶりついた。
普段食べているブロードパンよりも中は柔らかく、上質な小麦の香りがぶわっと鼻から抜けていった。素朴なこの味がひどく懐かしい気持ちを誘う。
「美味しい!」
続いて、ラグーに白パンを浸して、ひとくち。パンの繊維に優しく染み込んだラグーの甘みと、煮込んでトガリの消えた酸味が絶妙に合っていた。あっという間に平らげてしまう。
シエルは、名残惜しさを感じながら、市場をあとにした。
1つは、修道院に入る道。お金を貯めて持参金を用意し、カタクリン修道院を経由して、友好国であるカスティーラ国の修道院へ逃げること。ある程度の持参金があれば便宜を図ってもらえる可能性が高くなるが、短期間でお金を稼げるかが問題だ。
もう1つは、商人になる道。薬や手伝いの代わりに荷馬車に相乗りさせてくれる食品の仕出し屋か、薬や魔道具を買い取ってくれている専門店のどこかに頼めば、暫くは身を隠させてくれるだろう。前々から働かないかと誘ってくれている店主もいる。ただ、お父様を怒らせたとなっては、渋る人達も出てくる可能性が高い。他国との繋がりがあるお店を探さなければならない。
「お嬢様、商人や職人となる案に致しましょう。私としては、結婚できる選択肢を閉ざして欲しくありません。それに、職人や商人なら他地域の貴族と繋がりの深い者もおります。他所へ逃してくれる可能性が高いでしょう。修道院ではこの地域での旦那様の権力が強く、逃れられないと思います。私の方でも候補となりそうなお店の情報を探してきます」
街に長年住むゼーリエの方が顔馴染みも多く情報が手に入りやすいだろうから任せることにして、ひとまずシエルは、お金を稼ぐために、薬を大量に作ることにした。
薬の材料を採取してからカレーム先生に紹介してもらった布職人に会いに行くことに決め、動きやすく汚れてもいい服へ着替える。疲れからか、身体はのろのろとしか動かない。欠伸で頬の傷が引き伸ばされ、顔が引き攣った。貰った薬を飲むと、身体のだるさも頬の痛みも無くなったように感じ、自分の単純さに笑った。
家を出て森の方へ歩き始めると、ちょうど5の鐘が鳴った。シエルは、昨日の夜から何も食べていないことに気づく。
(ゼーリエも私もすっかり昼食のことを忘れていたわ!)
お腹をさすりながら、財布を確認する。あまりお金の余裕はないが、作っている時間はない。方向転換して露店の立ち並ぶ市場へ向かう。
舗装された石畳を南へ下っていくにつれ、両側にあるレンガ造りの建物の数が減っていった。街ゆく人々も、きっちり掃き清められた格調高い建物もシエルにとっては窮屈に思えて、逃げるように通り抜けるのが常だった。
舗装が途切れ、人々が踏みならして出来た道路にさしかかると、煮込んだミルク独特の甘い匂いが漂ってきた。両脇にはぎっしりと露店が建ち並び、多くの人で賑わっている。
(んー、相変わらずミルク粥の匂いが強すぎるわ!さて、何を食べようかしら?)
いくつかのお店を覗き込みながら、人混みをかき分けて進む。シエルは背が低く強面の男を見かけ、嬉しくて近寄っていく。
「お、嬢ちゃん、久しぶりだねぇ。今日はラグーまだ残ってるよ!どうだい?」
「おじさん、久しぶりですね。ふふ、やっぱりここのラグーが1番いい匂いです!1つください」
「まいどありっ!褒めてくれたから具を少し多くしといたよ!」
「森のお嬢ちゃん、ラグー買ったのかい?なら、うちでパン買ってきな!いつものブロードパンじゃなくて白パンが今日は安くあるんだ!」
お礼を言うシエルの横からひょっこり顔を出したのは、ちょび髭のカールソンさんだ。森のお嬢ちゃんと呼ぶのは、彼くらいだがシエルはあだ名で呼ばれることを気に入っている。妖精のような響きを感じられて嬉しいのだが、実際は、泥だらけで森から出てくるのを何度も目撃されたことが由来である。
「え、白パンが!?ぜひ食べたいです!」
「へへ、そーこなくっちゃ!何故だかよぅ、急に注文の数を減らしたお貴族様がいてさぁー、消費するのに困るからって安く粉を押し付けられたんだよ!まったく、お貴族め、自分勝手・・・・・・」
ぶつぶつと文句を言うカールソンさんは、手際よくパンを袋に詰めてくれた。まだ温かい袋の匂いを嗅ぐと、小麦の香りがふわりと鼻腔をくすぐり、思わずパンにかぶりつきたくなってしまった。
「それは大変でしたね・・・・・・。」
「まぁ、うめぇパンを皆に高く食べさせられてよかったとも思ってるぜ」
その考え方がとてもカールソンさんらしくて笑ってしまった。人目を避けた場所に座って、シエルは白パンにがぶりついた。
普段食べているブロードパンよりも中は柔らかく、上質な小麦の香りがぶわっと鼻から抜けていった。素朴なこの味がひどく懐かしい気持ちを誘う。
「美味しい!」
続いて、ラグーに白パンを浸して、ひとくち。パンの繊維に優しく染み込んだラグーの甘みと、煮込んでトガリの消えた酸味が絶妙に合っていた。あっという間に平らげてしまう。
シエルは、名残惜しさを感じながら、市場をあとにした。
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