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大通りを避けて、路地裏や入り組んだ道を選んでいく。曲がり角で港町へ足を向けかけて、やめた。シエルが追っ手の立場なら、必ず港へ人を配備する。だとしたら、敢えて陸路を行き、隣町まで逃げたほうがいいだろう。


(隣町からどうするかは後で決めよう。今はひとまず逃げなくてはっ!)


屋敷が見えなくなるくらい離れたところで、シエルは激しく人が往来する大通りにでた。それぞれの用事を忙しなくすませていく人々の間を縫うように進んでいく。ドンッ。


「きゃっ」
「あぁ、すまん」

 
大柄な男性にぶつかってシエルは、バランスを崩して地面につまずき、そのまま倒れ込んだ。手に持っていた荷物が散乱してしまう。痛みに悶えながら、起き上がろうとすると、荒れた手がにゅっと視界に現れた。


「大丈夫?立てるかしら?これ、あなたの荷物よね?」


口を開いたが、言葉が出てこない。胸を強く打ったらしく、呼吸が迷子になっていた。その人は、シエルの返事を待たずに腕を掴んでぐいっと持ち上げた。


「ありがとうございます!」
「困った時はお互い様よ。荷物は多分これで全部のはずよ。気をつけてね、お嬢さん」


よろよろと歩き出す。膝の骨が軋むように痛い。老人とか同じくらいの速度では見つかってしまう、そう思った時には遅かった。


「いたぞ!」


声のする方を振り向くと、男がこちらをーーーシエルを指していた。すぐに走り出したが、目の前に現れた男の仲間に捕まってしまった。


(そんな、早すぎるわっ。あぁ、神よ。もしもいるなら、助けなさいよ!)


「は、離して!私が一体何をしたって言うの?」
「ふんっ、よく言うぜ。やましいことがあったから逃げたんだろう?さぁて、荷物から何が出てくるだろうねぇ」


ニタニタと意地汚く笑いながら顔を近づけてきた男を睨みつける。汗と埃とで、とにかく酷い匂いがする筋骨隆々な男から少しでも離れようともがく。と、ゆったりとした足取りで別の男がこちらに向かってきた。


瞬きもせずにじーっとシエルを見つめながら、シエルを捕まえている男から、鞄を受け取った。男は、背が高く針のように細いが異様なほどの威圧感のある黄金色の目をしていた。パイプ煙草を口にくわえ、ゆっくりと煙を吐き出すのを黙って見ていると、男はシエルに笑いかけた。


そして、鞄を逆さまに振った。ドサドサっと所持品が地面に投げ出されたが、咄嗟のことできょとんとしてしまった。


「へっ?」
「ちっ、ろくにものを持ってねぇな。全部ガラクタじゃねぇか。大事に抱えて逃げるから、宝石の1つや2つあるかと思ったのに」
「・・・・・・いや、服がまだだ。ほら」


シエルの一瞬の変化も見逃すまいとするかのように凝視する男が、シエルには気味悪くて仕方なかった。無表情でいようとしても、頬が引き攣るのを抑えられない。すっと男が手を伸ばして、シエルのポケットを探っていく。左の上着のポケットに手を突っ込んだ時、男は獲物を見つけた虎のような表情をした。


「お嬢さん、これは何だい?君のお母様が持っていた宝石、指輪じゃないかね」
「な、なんで・・・・・・そんなっ」
「なんではこっちのセリフさ。さぁて、暴れられると面倒なんでね」
「な、何をした、の」


意識が薄れていく。視界がチカチカとして、焦点を結ばない。ぼやけていく視界の中でも、黄色い目がギラギラと光っているのが分かった。











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