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冷たさを感じるのと、鼻に流れ込んでくる液体にむせたのが同時だった。ゴホゴホと咳き込むシエルに、上の方から声が聞こえた。
「目覚めたか。」
目を開けると、バケツを持ったシエルを捕まえた大柄な男と、針のようなリーダー格の男が柵の向こうにいた。身体を確認すると、特に目立った怪我はなさそうだった。気を失ってそのまま牢屋に入れられたらしい。
牢屋は人ひとりが辛うじて横向きに寝転がれる位の狭さで、入口には格子柵がつけられている。天井近くの壁に細長い穴が空いていたが、そこには柵はされていなかった。
てっきり我が家の地下牢に連れていかれると思っていたが違ったようだ。針男は無表情で暫くこちらを見ていた。シエルは恐怖ではなく、寒さでブルりと震えた。
「ふっ、喚きも泣きもしないお嬢様に会ったのは初めてだ。ナヴェットだ。君の父親ではなくて、ポーケッタ侯爵に雇われた衛兵でもあり、自警団でもある」
「俺は、」
「おい、お前が名乗る必要があるか?」
大柄な男が顔を真っ赤にして拳を振り上げかけたが、ナヴェットに睨まれて黙った。猛獣使い見たいで少し面白い。ナヴェットはそんなに強いのだろうか。
「罪状は、尊属殺人未遂、しかも、貴族だから、反逆罪が適用されるやもしれん。まあ、元々まともな裁判が受けられるとは思ってないだろうがね。先に言っておきたいことがあるなら、一応聞くが・・・・・・」
「ナヴェットさん、裁判無しで私は処刑されるのかしら?だとしたら、いつ、どんな処刑の仕方をされるかご存知なら教えて欲しいわ」
ちらと気遣わしげに私を伺っていたナヴェットが呆れたような顔をした。
「くっくくっ。気にするのはそこなのか。拷問にかけられた上に、処刑だが、公開されることはないだろう。期日は、そうだな、ひと月後だと踏んでいる」
「ひとつき?随分とあるのね・・・・・・」
「事情が色々あるのさ。ひとまず俺は帰るが、こいつに薪はもってこさせる。夜は凍えるように寒いから、せいぜい気をつけるんだな」
「それはご親切にどうも」
すたすたと出ていった2人を見送ったシエルは、服の水気を絞りながら、耳を澄ませていた。足音が反響して響いている。音の間隔が徐々に狭く小さくなり、突然消えた。シエルは立ち上がって、洞窟の壁のような土壁を叩いた。高めの音が響く。
「ここは地下のようね。しかも、ひんやりとした空気が流れているから、貯蔵庫として使われていた場所かしら」
壁を隙間なく調べたが、足をひっかけられるような窪みも無ければ、穴を掘れそうな脆い場所も無かった。シエルは体温を逃さないようにうずくまって薪が届くのを待つ。
本当に薪を持ってきてくれるのだろうか。点火の魔道具を貸してくれるのだろうか。ここに来てからどのくらい経ったのか。穴から見える厚い雲に覆われた鉛色の空では、時間を推し量ることもできない。服はすっかり冷たくなり、風が通ると、一層熱を奪う。
じりじりと焦がれるような時間を過ごしていると、やっと足音が聞こえ、大柄な男が両手いっぱいに枝を抱えて現れた。
「良かったわ、本当に薪を持ってきてくださったのね!ありがとうございます」
「薪ねぇ、ちっ、遅れたのは俺のせいじゃねぇから、奴には黙っててくれよ、いいな?」
ドサリと柵の前に木を置くと、男はぶつぶつ文句を言いながら階段へ向かっていく。辛うじて聞き取れたのは、「貴族だからって威張りやがって」と「あの女、俺の薪をーーー手間が増えただろうが!」だけだったが、何かトラブルがあったのは間違いない。でなければ、火をつける道具も火の付け方も教え忘れるなんてことがあるはずないだろう。
「あの、すいません!ちょっと、火はどうやって・・・・・・?」
声が虚しく響いただけだった。男は去ってしまっていたようだ。シエルは、ため息をついて一つ手に取る。まきにしても太く加工もろくにされていない粗悪品のようだ。貰えただけマシだと思うことにして、一つ一つ柵の中へ入れていく。節約しながら使えば3,4日は持ちそうな量なのは有難かった。
「にしても、どう火をつけようかしら?火打石も無ければ、魔道具も無いわ。手で割けるかしら?」
ぐるりと周囲を見渡すが、小石は転がっているものの、尖っていない。とりあえず拾った小石同士をぶつけてみるが、火花さえ散らない。このままでは凍えてしまう。
「カバンもとられているわ。ポケットにあるのは、ハンカチくらいね・・・・・・」
シエルは身を縮ませて膝を抱きしめる。火を早急につけなければならないのは分かっていた。が、あんな太い薪をどうしろというのだ。苛立って薪をぶん投げた。ろくに飛ばなかったのがさらに苛立ちを募らせる。地面に当たってささくれだった薪を拾い上げ、皮をむいていく。
皮を剥いてそれを火の種にしてみようと思ったのだ。黙々と作業をするが、全く皮が剥けない。まるで枝に張り付いているかのように硬い。
「あれ、まさか、これって・・・・・・魔木?ふふっ、はははっ。嫌がらせもここまでくると、清々しいわね!」
1度笑いだしたらもう止まらなかった。狂ったようにシエルは笑い続ける。笑い声が反響して洞窟も笑っているようだった。
「あはははっ、く、苦しいわっ。はぁ、ははっ、はぁ。」
魔木なら、魔法が使えれば火が使える。が、女である私は呪文を知らず魔法陣しか使えない。ふと、ケーニスさんの言葉が脳裏に蘇った。
「魔木は糸にするのが1番使い勝手がいい」
(糸か・・・・・・。この魔木は密度が低いから、針葉樹かもしれないわ。針葉樹なら火はつきやすいけど、火種になるようなものが無いのよね。それに道具も無く、糸に出来るかしら)
頭をガシガシと掻く。と、なにか湿っている布に触れた。引っ張って横目で確認すると、破れたベールだった。ぶつかったあの時に転んで敗れてしまったのだろう。シエルは、えいっと力強く引きちぎる。
「この布で火をうけるとして、魔木から糸をどう作ったらいいか分からないわ」
どうにかならないか歩き回っていると、頭上から小生意気な声が聞こえてきた。
「おーい、こんな所に入れられるなんて、何やらかしたんだよ、変人お嬢さま」
「サミュエル!どうしてここが?」
「目覚めたか。」
目を開けると、バケツを持ったシエルを捕まえた大柄な男と、針のようなリーダー格の男が柵の向こうにいた。身体を確認すると、特に目立った怪我はなさそうだった。気を失ってそのまま牢屋に入れられたらしい。
牢屋は人ひとりが辛うじて横向きに寝転がれる位の狭さで、入口には格子柵がつけられている。天井近くの壁に細長い穴が空いていたが、そこには柵はされていなかった。
てっきり我が家の地下牢に連れていかれると思っていたが違ったようだ。針男は無表情で暫くこちらを見ていた。シエルは恐怖ではなく、寒さでブルりと震えた。
「ふっ、喚きも泣きもしないお嬢様に会ったのは初めてだ。ナヴェットだ。君の父親ではなくて、ポーケッタ侯爵に雇われた衛兵でもあり、自警団でもある」
「俺は、」
「おい、お前が名乗る必要があるか?」
大柄な男が顔を真っ赤にして拳を振り上げかけたが、ナヴェットに睨まれて黙った。猛獣使い見たいで少し面白い。ナヴェットはそんなに強いのだろうか。
「罪状は、尊属殺人未遂、しかも、貴族だから、反逆罪が適用されるやもしれん。まあ、元々まともな裁判が受けられるとは思ってないだろうがね。先に言っておきたいことがあるなら、一応聞くが・・・・・・」
「ナヴェットさん、裁判無しで私は処刑されるのかしら?だとしたら、いつ、どんな処刑の仕方をされるかご存知なら教えて欲しいわ」
ちらと気遣わしげに私を伺っていたナヴェットが呆れたような顔をした。
「くっくくっ。気にするのはそこなのか。拷問にかけられた上に、処刑だが、公開されることはないだろう。期日は、そうだな、ひと月後だと踏んでいる」
「ひとつき?随分とあるのね・・・・・・」
「事情が色々あるのさ。ひとまず俺は帰るが、こいつに薪はもってこさせる。夜は凍えるように寒いから、せいぜい気をつけるんだな」
「それはご親切にどうも」
すたすたと出ていった2人を見送ったシエルは、服の水気を絞りながら、耳を澄ませていた。足音が反響して響いている。音の間隔が徐々に狭く小さくなり、突然消えた。シエルは立ち上がって、洞窟の壁のような土壁を叩いた。高めの音が響く。
「ここは地下のようね。しかも、ひんやりとした空気が流れているから、貯蔵庫として使われていた場所かしら」
壁を隙間なく調べたが、足をひっかけられるような窪みも無ければ、穴を掘れそうな脆い場所も無かった。シエルは体温を逃さないようにうずくまって薪が届くのを待つ。
本当に薪を持ってきてくれるのだろうか。点火の魔道具を貸してくれるのだろうか。ここに来てからどのくらい経ったのか。穴から見える厚い雲に覆われた鉛色の空では、時間を推し量ることもできない。服はすっかり冷たくなり、風が通ると、一層熱を奪う。
じりじりと焦がれるような時間を過ごしていると、やっと足音が聞こえ、大柄な男が両手いっぱいに枝を抱えて現れた。
「良かったわ、本当に薪を持ってきてくださったのね!ありがとうございます」
「薪ねぇ、ちっ、遅れたのは俺のせいじゃねぇから、奴には黙っててくれよ、いいな?」
ドサリと柵の前に木を置くと、男はぶつぶつ文句を言いながら階段へ向かっていく。辛うじて聞き取れたのは、「貴族だからって威張りやがって」と「あの女、俺の薪をーーー手間が増えただろうが!」だけだったが、何かトラブルがあったのは間違いない。でなければ、火をつける道具も火の付け方も教え忘れるなんてことがあるはずないだろう。
「あの、すいません!ちょっと、火はどうやって・・・・・・?」
声が虚しく響いただけだった。男は去ってしまっていたようだ。シエルは、ため息をついて一つ手に取る。まきにしても太く加工もろくにされていない粗悪品のようだ。貰えただけマシだと思うことにして、一つ一つ柵の中へ入れていく。節約しながら使えば3,4日は持ちそうな量なのは有難かった。
「にしても、どう火をつけようかしら?火打石も無ければ、魔道具も無いわ。手で割けるかしら?」
ぐるりと周囲を見渡すが、小石は転がっているものの、尖っていない。とりあえず拾った小石同士をぶつけてみるが、火花さえ散らない。このままでは凍えてしまう。
「カバンもとられているわ。ポケットにあるのは、ハンカチくらいね・・・・・・」
シエルは身を縮ませて膝を抱きしめる。火を早急につけなければならないのは分かっていた。が、あんな太い薪をどうしろというのだ。苛立って薪をぶん投げた。ろくに飛ばなかったのがさらに苛立ちを募らせる。地面に当たってささくれだった薪を拾い上げ、皮をむいていく。
皮を剥いてそれを火の種にしてみようと思ったのだ。黙々と作業をするが、全く皮が剥けない。まるで枝に張り付いているかのように硬い。
「あれ、まさか、これって・・・・・・魔木?ふふっ、はははっ。嫌がらせもここまでくると、清々しいわね!」
1度笑いだしたらもう止まらなかった。狂ったようにシエルは笑い続ける。笑い声が反響して洞窟も笑っているようだった。
「あはははっ、く、苦しいわっ。はぁ、ははっ、はぁ。」
魔木なら、魔法が使えれば火が使える。が、女である私は呪文を知らず魔法陣しか使えない。ふと、ケーニスさんの言葉が脳裏に蘇った。
「魔木は糸にするのが1番使い勝手がいい」
(糸か・・・・・・。この魔木は密度が低いから、針葉樹かもしれないわ。針葉樹なら火はつきやすいけど、火種になるようなものが無いのよね。それに道具も無く、糸に出来るかしら)
頭をガシガシと掻く。と、なにか湿っている布に触れた。引っ張って横目で確認すると、破れたベールだった。ぶつかったあの時に転んで敗れてしまったのだろう。シエルは、えいっと力強く引きちぎる。
「この布で火をうけるとして、魔木から糸をどう作ったらいいか分からないわ」
どうにかならないか歩き回っていると、頭上から小生意気な声が聞こえてきた。
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「サミュエル!どうしてここが?」
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