双子の姉の身代わりという人生から逃げるため、空飛ぶ絨毯作ります

ねり梅

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手元に残った糸とナイフをぼんやりと見つめていたが、頭上から話し声と慌ただしい足音に、我に返った。


物音を立てないように穴からの死角になりそうな位置へ移動したシエルは、ナイフを太ももに糸で縛り付けた。そして、何事も無かったように取り繕うべく、薪を放射線状に並べる。


「おっかしいな、声が聞こえたはずなんだが」
「誰もいないし、見たってやつもいなかったじゃねぇか。あーあ、せっかくの休憩を無駄にしちまって、どーしてくれんだよ」
「お前が休憩中に酒飲んでること旦那様へ言ったっていいんだぞ!」
「そういうお前も煙草吸ってるじゃねぇか。どーせ寝ぼけていたか、煙でぼーっとしてたんだろ。こんな所に人なんて来たことないんだし」
「それもそーだな。どうだ、お詫びに1杯奢るから、ここで飲んじまおうぜ」


楽しげな会話が遠のいていく。シエルは、ほっと息を吐き出した。どうやら全く気づかれなかったようだ。完全に声が聞こえなくなってから更に心の中で1曲分歌ってから動き出した。見ると、漏れ聞こえる話し声に集中していて、薪は全く組み上がっていなかった。並べながら、大事なことに気がついた。


「魔木って燃えたかしら。適切に処理されていれば燃えるのかな」


魔木を1本手に取り、斜めに左手で持つ。太ももからナイフを外し、軽く力を込めて削る。が、全く歯が立たない。硬い。魔力が圧縮されているからだろうか。


「いっそ、このまま火をつけてみようかしら」


サミュエルのくれた魔道具を操作して火を灯した。右端のランプがチカチカと点滅する。ボワッと魔木が炎に包まれる。炎は燃え広がることなく、吸い込まれるかのように消えていく。


「え?」


なんと硬い感触が徐々に薄れ、程よい弾力のある感触に変わっていった。魔木を持った左手を見て自分の目を疑った。見た目は一切変化していないにも関わらず、左手の感触はふにゃふにゃだった。シエルは驚いて魔木から手を離してしまった。


「あっ」


慌てて拾い上げるも、やはり手触りは柔らかく張りがない。魔道具を見ると火の勢いは弱まっているものの、まだついている。放射線状に組んだ魔木の中心部へ火をあてる。


瞬きもせずにじーっと見つめるが、変化は暫くの間現れなかった。火は燃え広がるわけでも、弱まる訳でもなくただそこに存在している。シエルが触って確かめて見ようとした時、火が燃え広がった。


「え?」


伸ばした手を急いで引っ込めた。訳が分からなかった。魔道具もちょうど1度目を使い切っていたが、普段からすると使い切るまでの時間が随分と早い気がした。

(鐘1つ分は確実に持つ代物なのに、どうして?)


とりあえず火がついたのは良かったが、薄気味悪さも感じて落ち着かない。先程投げ捨てた魔木を拾い上げる。やはりふにゃふにゃだ。試しにナイフで削ってみると、表面の皮だけ綺麗に剥けた。そのまま細く薄く削いでいく。刃が気持ち良いくらいサクサクとはいっていく。


魔力は濃度の高い方から低い方へ流れる。樹皮は成長にも魔力を使用するから一番外側の樹皮に溜まっている。魔力は内側から外側へ流れていくが、伐採されると魔力の供給は無くなる。すると、切断面を保護するように魔力を多くし濃度を高くするのだろうか。そうだと仮定すれば全体的に硬い理由は説明がつく。が、どうして火で柔らかくなったのか。そこがよく分からない。


ケーニスさんの話ではーーー話というより勝手に見たメモだが、魔木の魔力の少ない柔らかい箇所を見極めてそこから加工するという。水か液体へ漬けて下準備をしておくのがポイントらしいが、そこはメモからではよく分からなかった。


水や液体に漬けておくのにはどんな意味があるのだろうか。洗って綺麗にしているのか、それとも染めているのか。


スカッ。空振ったのを感じ手元を見ると、魔木が細長い串の形となっていて、割かれた皮が山になっていた。


「こんなに細長いのがあっても使い道が無いわよね・・・・・・」


つまみ上げてよく見ると、薄茶色の綿のような細かい繊維が絡み合っていた。


「っ糸になってる!」


偶然の賜物だが、糸が、魔木から糸が作れてしまった。興奮が後から後から押し寄せてきて、じっとしていられなく喜びの舞をしたい気分になった。シエルは牢屋にいることも忘れ、歓喜の声をあげ、スカートをくるくるさせて回る。踊り子になったつもりで、リボンの代わりに手に持った糸をふわっと投げてみせる。


「っ?!」


今日何度目か分からない衝撃的な出来事に、シエルは言葉を無くした。呆然と立ち尽くすシエルの目の前をふわふわと糸が漂っていた。


目を擦っても、頬をつねっても、糸は浮かんでいた。どれだけ目に映るものが信じがたくとも、風でたまたま浮いているわけではないことは身をもって分かっていた。風は吹いていなければ、魔法使いもこの場にいない。糸には浮遊する特性があると考える他なかった。




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