双子の姉の身代わりという人生から逃げるため、空飛ぶ絨毯作ります

ねり梅

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眩しさに目を開くと、見慣れない天井に一瞬混乱したが、頭の痛みと同時に思い出した。どうやら考え込んだまま寝てしまったようで、全身が軋むように傷んだ。起き上がって首を左右に降り、凝り固まった筋肉をほぐす。


昨日は興奮してなかなか寝付けず、一晩中起きているつもりだった。焚き火もそのまま放置して寝てしまっていたが、まだ火は燃えていた。大抵一晩で一抱えの薪は消費してしまう。が、最初に組んだ薪から一切足していないのに、まだ赤々と燃え盛っているのには驚いた。昨日から驚きの連続で、これくらいのことには動じなくなっている。観察してみると、全体的に魔木が小さくなっているものの、どの木も炭になりきったものはなかった。


火の傍で寝ていたからか、焦げくさい匂いが鼻をつき、思わず顔をしかめる。服はほとんど乾いていた。シエルは立ち上がり、周囲を見渡す。昨日と何ら変わりはないようだった。動くと空腹を感じたが、耐えられない程ではなかった。ただ、喉はカラカラに渇いている。


ナヴィットという男は「ひとまず帰る」と言っていた。拷問がてら来るだろうが、早く来て欲しいと思ってしまう。水をぶっかけられようが、顔を水の中に突っ込まれようが構わない。とにかく少しでも水分を摂取出来なければ、とても耐えられない。


ゴホゴホッ。火の煙を一晩中吸っていたのもあり、喉がやられている。喉にひっかかりを感じ、咳払いや唾を飲み込んで誤魔化す。そして、いつ男達が来てもいいように、ナイフは太ももに縛り付け、浮かぶ糸はポケットに突っ込んだ。入り切らない分は胸にしまった。


天井近くの穴からは、薄紫色で白くモヤがかかった空がのぞいていた。既に2の鐘は鳴っているのだろうか。この辺りは人通りが少ないらしく、時折聞こえる鳥のさえずりが耳に柔らかな響きを残していった。


ここ最近慌ただしくて空をゆっくりと眺める時間が無かったことに気がついた。淡く朝日に照らされレオーネの花の色を含んだ雲が漂っている。ぼんやりとしていると、小鳥がすーっと雲の上を軽やかに飛ぶように横切っていった。


「いいなぁ」


思わず口から漏れてしまった。どこまでも雄大で途切れることの無い空。あんな風に空を飛べたら、自由でいられるだろうに。ポケットに入れた不思議な浮かぶ糸らしきものを取り出す。


手のひらをゆっくり開く。と、糸がふわりと浮き上がった。肩あたりまで浮遊して静止した。いや、止まったように見えるだけで左右に小刻みに揺れながら宙に舞っている。


もしも、もう一度魔木から糸を作り出せたら、そしてその糸が浮く性質を同じように持っていたとしたら・・・・・・。


そうだとしたら、空間魔術のあり方が変わる。魔道具の軽量化や魔力の消費量に悩む必要がなくなる。血が滾り、身体が燃えているようだ。次々と仮説が浮かび思考が深く研ぎ澄まされていく。脳に酸素が足りていない、そんなふわついた飢えのような感覚がシエルの思考を深く深く、鋭くさせていった。


ぷわぷわと漂っていたが、突如パタンと落下した。それとほぼ同じくしてシエルの思考もぷつりと途切れていた。


力の失せた糸をぎゅっと握り込み、ポケットに戻した。きっと保有していた魔力を使い切ってしまったのだろう。シエルも考え事でエネルギーを使い果たしてしまったのか、きゅるるるとお腹が鳴り、空腹で頭がふらついた。


ガタンッ。大きな音に顔を向けると、ナヴィットと大男が階段を降りてきていた。大男は両手いっぱいに包みをかかえていた。香ばしい匂いが漂ってきて、シエルは思わず柵に駆け寄ってしまった。


「ははっ、さすがのお嬢さんでも空腹には抗えなかったか。さて、早く食事をしなければ、幾つか質問に答えてもらおうか」


一旦言葉を区切り、じっと見つめてくる。シエルはこの男の目が嫌いだった。誤魔化しても取り繕っても全てを見透かされているような、そんな想いにかられてしまう。


「まず、どうして一昨日本館に行ったんだい?君は別宅に住んでいるのだろう。勿論、君がナハルお嬢ちゃんに言った、風呂場の掃除は嘘だと分かっているよ」


(風呂場?私はそんなことナハルに言ってないわ。どういうことかしら)


「おや、君がナハルお嬢ちゃんに嘘の理由を伝えたことは否定しないんだね。その反応だと嘘の内容が違って答えに窮したってところかな?」


シエルは凍りついた。子供に向けるような笑顔を浮かべるナヴィットが恐ろしくて仕方なかった。何か答えなければと焦れば焦るほど、墓穴を掘っていく。


「な、何を言いたいのかよく分からなかっただけですわ。私も伯爵家の一員ですから本館への出入りは自由ですし、ちょうど図書館に用事があったから訪れたまでです。それで、次の質問は?」
「なら、図書館に一昨日は行ったということですね。まあいいでしょう。では、次の質問。どうして母親と使用人を襲ったの?いや、殺そうとしたんだい?」
「私は殺してなどいません!!」
「なら、襲ったことは認めるのかな?」
「認めてません!」

腹立たしい程の爽やかな笑顔のナヴィットは人の神経を逆撫でして情報を引き出すつもりのようだ。空腹も相まって、苛立ちが態度に出るのを抑えられない。人をここまで殴りたくなったのは、初めてだった。


こんな調子で延々と会話が続いた後、食事が提供された。普通の貴族の令嬢なら、食べ残しか何かだと勘違いしそうな粗末な食事だったが、シエルにとってはいつもと変わらない内容で美味しく頂いた。狙いが外れたのか、大男が舌打ちしていた。おこぼれを食べれると思っていたのかと思うと面白かった。


牢屋に入って1週間が経つと、パターンが読めてきた。ナヴィットは毎朝決まって同じ時間に来て、食事の前に揚げ足取りのような質問をしてくる。そしてシエルの食事が終わると、過去の話を聞きたがる。精神的な揺さぶりが目的なのは分かっているが、毎回気持ちを乱され、元々不利な裁判に更に不利な要素が積み重ねられていく。そして、3の鐘が鳴ると2人は1度外に出ていく。それから、6の鐘が鳴って暫くしないと戻ってこない。その間に、シエルはせっせと魔木に火を当てて削って糸を作っていた。作った糸の隠し場所に困るかと思っていたが、2日目には布団を1式貰えたからそこに隠すことにしていた。7の鐘がなるとナヴィットは質問を切り上げて帰宅する。



意外だったのは、暴力的な拷問が一切されないことだ。疑問に思って聞いてみると、妾の子とはいえ、貴族の令嬢であることと、ナハルが婚約破棄をしようとして(ほぼナハルの中では婚約破棄が出来ている)相手、つまり、サバラン様への代わりの婚約者とする考えをまだお父様は持っているらしい。


とはいえ、殺人未遂の娘をどう王子の婚約者に仕立て上げるつもりなのかは甚だ疑問だが。


そして、サミュエルも毎日夜に来てくれていた。初めは毎日だと大変だからと断っていたが、頼むと色々持ってきてくれるから便利に使ってしまっている。


そうして、季節が変わろうとしていた。
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