双子の姉の身代わりという人生から逃げるため、空飛ぶ絨毯作ります

ねり梅

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森に差しかかる辺りまでは順調に進んでいた。外の景色を楽しむ余裕も出てきたくらいで、眼下に広がる街並みが普段と違って厳かに見えた。薄く広がる雲を纏い、光を水晶のように透き通って浮かび上がらせている。弾け飛んだ光の粒が、シエルを誘う。


やわらかな風が頬を撫でていく。この景色を、サミュエルにも、カレーム先生にも見せてあげたい、そう思った瞬間、シエルは悲鳴をあげた。


急に操作がきかなくなったのだ。気を抜いたつもりはなかった。目を離すのは、操作して空飛ぶ絨毯を安定させた少しの間と決めていた。なのに、


「え?ど、どうして、スピードを落とせないの?!」


横殴りで吹きつける風に流され、当初の目的とは違い、どんどん王都のある北西へ向かっていってしまう。流れる魔力量を制限して最小にしているのに、スピードはどんどん速くなる。立っていられないくらいだ。


「わっ」


吹き付ける風に抗い、どうにか目を空けると、進路上に教会が建っていた。背筋が寒くなる。このままだと間違いなく激突するだろう。


(嘘でしょう?魔力量を制限した結果、高度だけ下がったっていうの?!)


スピードがぐんぐん加速し、目は全く開けなくなった。感覚だけを頼りに悴む手で、魔力量を最大出力する。それと同時に、左へ向きを変える。


ビュービュー切り裂くような風の音に混じってドォンともグォンとも似つかない音が響いた。身体がグンっと右へ引っ張られる。脇腹が引きちぎれそうだ。悲鳴が口から漏れる。歯がガタガタ言うのが分かり、うっかり大口開けたら舌を噛むのは確実だ。恐怖に震えながら、空飛ぶ絨毯に寄り添うようにひっつく。あと10メートル程に教会が迫っていた。向きは変わりつつあるものも、間に合うか微妙なところだ。


と、空飛ぶ絨毯がひっくり返る。咄嗟に縁を掴む。寒さと疲れか、指に上手く力が入らない。振り落とされないように全身で無理やりしがみつく。 
もうだめーーー。落ちる。


「まったく、無茶をしてくれる」
「へっ?」


シエルは、落ちたはずだった。ぐへっと蛙が潰れたような音が口から漏れた。状況に頭が追いつかない。全身が強ばっているが、お腹には確かな感触と痛みがある。肩で息をしながら、ゆっくりと振り向く。


「っ!」


そこにいたのは、なぜかサバラン王子だった。どうしてここにいるのか、なぜ彼も浮いているのか、疑問だらけだったけれど、声を失くしたように何も言えなかった。


「驚いたのは分かるが、せめて何か喋ってくれないと困るんだが・・・・・・。」
「びっくりし過ぎて声が出ないのではありませんか?まず先にどこかに身を隠しましょう」
「そうだな、逃げる先は確保してあるな?」
「えぇ、もちろんです。こちらへ着いてきてください」


鎧兜から人懐っこい笑顔をのぞかせたジルバは、シエルを安心させるように頷いてくれた。すぐに踵をかえすと、先達して導いてくれる。


ようやく衝撃から立ち直った脳がノロノロと動きだし、状況を把握する。どうやら、ジルバは風の精霊の力を借りて空中を移動しているようだ。呪文を唱えて供え物を投げている。こんなにも凄まじい風を難なく扱っていることが信じられなかった。以前よりもどこか堂々としているジルバの姿に気づいてシエルは目を瞠った。


「ジルバは、吹っ切れたようだな。さて、この上に乗れ。いくぞ」
「あの、助けてくれてありがとうございます。乗るって、何にーーー」


サバラン王子が指さす先を追って上を見上げると、巨大な鳥がシエルを睨みつけていた。風の凄まじい勢いは鳥の羽ばたきだったのだ。


大人数人は優に覆い隠せそうな翼長に、鋭い鉤状のくちばし。鮮やかな真紅の羽に、胴は銀色で、まるで神話の中から飛び出してきたような鳥だ。


ゴクリと唾を飲み込む。今にも丸呑みしようと目をギラつかせてじっとこちらを見つめている。


「こ、これに?」
「あぁ。慣れないうちは足より背中によじ登ったほうが居心地が良いからな」


確かにサバラン王子は巨大鳥の足の指に立っていた。ほらっと上に押し出され、宙に浮く。羽を引っ掴もうとして、一瞬躊躇う。と、巨大鳥がシエルに向かってくちばしを開いた。


「きゃあっ、まっ、えぇ」


巨大鳥は、シエルを食べることなく、器用に服だけを噛んで、背中に乗せてくれた。一種の放心状態に陥っていたが、ゆっくりと動きだして暫くすると意外に上の羽は硬く、内側になるほど柔らかいことに気がついた。申し訳なく思いながら、痛くないよう硬めの羽を掴む。温かな体温が直に伝わってきて、心地よく眠気が誘われる。


 
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