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42 サバラン視点 馬車で移動

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目立つ真似はしたくない気持ちと、急ぎたい気持ちがせめぎ合った結果、馬車に乗ることになった。先程からサミュエルは顎が外れそうなくらい口を開けて、窓に張り付いている。


「おい、大丈夫か?」
「あ、あ」


やはり乗り物酔いが酷いようだ。まだ何キロもある。サバランは、呪文を唱え、 風の精霊に力を借りる。


「わっ」


ぐんと1段階ずつスピードが上がっていく。馬車の揺れで震えているサミュエルを引っ掴んで座らせる。この速さならあと少しで到着するだろう。これでサミュエルも耐えられるはずだ。彼の顔を見ると、なぜか先程より顔色が悪くなっている。


「なぜだ?」


不思議でならん。隣で咳き込む音がする。このまま放っておくと吐かれそうだ。サミュエルは口を押さえてうずくまり始めている。薬を飲ませようにもこの体勢では難しい。どうしたものかと悩んでいるうちにカタクリン修道院に着いてしまった。


馬車から矢のように飛び出したサミュエルは、静止するマシューの声なんて耳に入らない様子で近くの茂みでしゃがみこんでいた。


サバランが呆気にとられていると、怒りと呆れが混じったような表情をしたマシューが立ち止まった。そわそわと足踏みしている。


「サバラン様!貴方様がサミュエルが乗り物酔いしたのではと気遣って魔法で速度を上げたのは分かります。ですが、スピードを上げたためにサミュエルは体調を崩したのです!最初は、初めて乗った馬車に興奮していただけなのです・・・・・・」
「そ、うだったのか。悪かった。乗り物酔いしているなら早く到着させた方が良いだろうと思ったのだが」
「えぇ、そうでしょうとも。とりあえず馬車は目立たない所に移動するよう連絡してあります。サミュエルの様子を見てくるので、そこで大人しくお待ちいただけますね」


頷こうとして気づいた。サミュエルが満面の笑みでこっちへ向かってきている。視線に気がついたマシューが慌てて駆け寄っていく。


「サミュエル、大丈夫ですか?」
「びっくりしただけで大丈夫だよ!それより、あの速さすげーな。魔法使っていたよな!どーやったんだ?」
「興奮して体調が悪化したらどうするんです?!」


サミュエルから羨望の眼差しを感じ取り、サバランはそっとため息を漏らした。騒ぐ2人を放置して、修道院の門をくぐる。以前来た時を思い出し苦笑いしながは図書館へ向かう。扉をノックして開くと、背筋がピンと伸びた年老いたシスターが現れた。


「殿下!申し訳ございません」
「堅苦しい挨拶はいい。顔もあげてくれ。あまりここに長居も出来ん。国境近くの村に知り合いがいるとサミュエルが言っていたが」


跪こうとしたシスターを押しとどめながら、周囲を確認する。誰もいないことを確認して部屋に入る。マシューとサミュエルのことが頭を掠めたが、この際無視だ。
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