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しおりを挟むシエルが疑問を口に出す前に、ポーケッタ侯爵が堂々と話し始めた。
「なぜ今日の夕方に行われる裁判までは牢屋に居るはずの彼女と、サバラン王子、貴方がこの場にいるのでしょうか。さてはて、殿下が今仰ったように空中で偶然出会ったとしましょう。牢屋から彼女が1人で脱出し、牢屋から何十キロも離れたここに辿り着けたと、そう主張なさるのですか。一体誰が殿下が手助けしていないと信じましょうか」
「そうだな、質問に答える前に1つ聞かせてもらおうか。なぜ其方らはここにいる?ドレーン伯爵は、妻の介護と事件のショックで療養、ビオレソリネス公爵は体の具合が芳しくない、そしてポーケッタ侯爵、貴方は、親族に不幸があったと聞いているが、見たところ3名とも健康そのものだが?父上の狩猟やパーティには参加したくなかったと見受けられるが・・・・・・」
無言で睨み合う2人。ポーケッタ侯爵は、色を無くしている。助け船を出したのは、ここに来てから一言も発していなかったお父様だった。
「殿下、我々3人は療養のために自然豊かなこの地を訪れたのでございます。勿論、狩猟会には欠席ですが、今日の陛下ご主催の昼のパーティには参加するつもりです」
「そうか、父上も喜ぶだろう」
お父様が頷いてポーケッタ侯爵に目配せをする。と、額の大粒の汗を拭いて、ポーケッタ侯爵が何か合図をした。
「で、殿下。恐れながら私は、申し上げたいことがあります。先程、空中で偶然出会い助けてなどいないと仰ったと思いますが、」
そこで言葉を区切った侯爵は、後ろを振り向いた。つられてそちらを見ると、縄で縛られた意地汚い目をした男を従者が連れてきていた。
「この男が、驚くべきことを申したのです」
近くで立ち止まった男からは、死臭を感じた。傷だらけの体に逞しい筋肉。そして、落くぼんだ目から異様なほど強く暗い光が放たれていた。目が合った瞬間、シエルはゾッとした。
ケタケタと人を馬鹿にしたような笑い声をあげていたが、ポーケッタ侯爵が証言するように何度か促すと、面白くなさそうにガラガラ声をだした。
「ふんっ、あぁ、俺はそいつに頼まれてドレーンの奥さんと使用人を襲ったぜ」
「これを聞いてもまだ言い逃れなさるおつもりですか?」
("そいつ"とは果たしてサバランのことだろつか。こんな曖昧な証言で王子を罪人扱いするなんて、度胸があるのか、バカなのかどちらなのかしら)
「ポーケッタ侯爵、あなたは今、王子を罪人呼ばわりした、そういうことですね?」
ジルバが進み出て非難した。普段の親しみのある声とは打って変わって、怒りの滲んだ圧倒される声だった。
「ポーケッタ侯爵、失礼ながら、"そいつ"だけでは、それがサバラン王子のことか、周囲の使用人のことか明らかではないでしょう」
「では、はっきり明言させましょう。私に以前言ったように説明しろ」
我が意を得たとばかりにポーケッタ侯爵が男を前に突き出す。男は黙っていたが、突然にやりと唇を歪めた。
「正直に全て話して俺の命は奪わないと保証してくれるのか?」
「無論、大事な証人であるからな」
深く息を吸う。この場にいる全員の意識が男に向けられ、緊迫感が漂った。男は一瞬、お父様と公爵を見た。
(え、まさかっ)
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