双子の姉の身代わりという人生から逃げるため、空飛ぶ絨毯作ります

ねり梅

文字の大きさ
51 / 69

51

しおりを挟む
「お貴族様、旦那様、俺に夫人と使用人を襲うように金で釣ったんは、この、侯爵様さ。ポーケッタ侯爵だよ、へへ」


シエルは耳を疑った。証言を真逆にひっくり返すなんてとても信じられない。周囲もそうなのだろう。シンと静まり返った後、水が噴出するように一斉に喋り始めた。シエルも誰にともなく声を張り上げてしまった。が、喧騒の中でも一際際立つポーケッタ侯爵の声でかき消された。


「何を申した、この罪人がっ!!バカにも程がある!!なぜ、こんな、土壇場で、そんな根も葉もない嘘をついたっ」


顔を真っ赤にさせて怒り狂う侯爵は、恐ろしいというより、滑稽だった。手足をばたつかせ暴れる様が大きな赤ちゃんが駄々を捏ねているようにしかみえない。


「止めぬか、ポーケッタ侯爵。貴族の品位がおちる。それにその罪人が今話したことは事実であろう。妻が襲われたあの日、なぜ妻は夜遅いにも関わらず、無理に帰宅したのかずっと疑問に思っておった。調べて、私は我が目を疑ったよ。ポーケッタ侯爵、貴方が嘘をついて妻を帰宅させたんだろう?私が大怪我をしたと」
「なっ、ま、まさか」
「どういう事だね、ポーケッタ侯爵。君とドレーン伯爵は旧知の仲ではないか。それを裏切ったというのか?」


真っ青になって、わなわな震えながら2人の顔を交互に見るポーケッタ侯爵。サバラン王子はぐっと眉間に皺を寄せて成り行きを見守っている。


「お2人は私を嵌めるのか!」
「何をおっしゃいますか。私が自分の妻に怪我をおわせるとでも?大事な娘を犯人に仕立てられ、黙っていられる親はこの世にいないでしょう」
「娘?妾の子を貴方が、大事にしているだと?笑い話にもなりませんな」


お父様は、黙って私に向かって歩み寄ってきた。一瞬、振り向いてステッキを振った。


「シエルは、妾の子ではありませんよ」


禍々しい深紫の光が飛び出し、シエルは思わず目をつぶった。体が奇妙な感覚に襲われ、顔の毛穴ひとつ1つから熱が放出されたかのように火照った。体がふっと軽くなったのを感じ、目を開ける。と、空気がざわついていた。全員の顔に衝撃が走っている。


「あの、」
「な、どういう事だ!ドレーン!この娘は、ナハルなのか?!」
「だから申し上げたでしょう。私と妻の子供である、貴族の娘だと」
「ふ、双子なのか?!あの不吉な悪魔の子っ」
「そんな些末なことはどうでもいいではありませんか。私がなぜシエルを妾の子と偽っていたか、それは、守るためですよ、貴方のように古い価値観に捕らわれた危険な輩から。その為に魔法をかけて、人々からの見え方を変えていたのです」
「は?」


シエルはお父様の行動の意図が全くわからなかった。なぜ急に双子だと認めたのだろうか。訳が分からない。


「・・・・・・話が逸れているが、ドレーン伯爵。其方の妻を彼が襲撃した証拠はあるのかね?」


ビオレソリネス公爵だ。襲撃事件以外のことはどうでもいいと言わんばかりの口調だ。お父様は深く頷いた。


「嘘をついた場面にいた使用人複数人から証言を得ています。それに、殺し屋を雇った際に取をした店の主人も証言してくれています。言い逃れ出来るとは思えません」
「残念だったよ、ポーケッタ侯爵。私は其方を信用していたというのに・・・・・・。それでは、その罪のないお嬢さんの裁判を中止せねばならんだろう。私は失礼するよ」


喚くポーケッタ侯爵を護衛が取り囲み、縛り上げた。ビオレソリネス公爵は自分の馬車に乗り込むと直ぐに出発していった。


「さて、こんな所で申し訳ありませんが、サバラン王子。ナハルが殿下にとんだ失礼を働いたとか。誠に申し訳ございませんでした」
「あぁ、ハニー二王国の王族と結婚すると聞いたが」
「えぇ、彼女の自分勝手には私も困っています。何でも貴方様の剣に惚れたように、その男の剣に惚れてしまったようでして・・・・・・」


(え、サバラン王子の剣にナハルは惚れたというの?いつ剣術なんて見たのだろう)


「もし、差し支えなければ、殿下がシエルと結婚してくださるならこれほど光栄なことはございません。ご存知の通り、この子は、妾の子として育てており貴族との付き合いもありません。更に、今回の騒動で貰い手は現れないでしょう。ナハルの代わりと言ってはなんですが、引き受けてくださいませんか?」


深く頭を下げるお父様。どんな表情をしているのか、シエルは見たくて堪らなかった。厄介払いなのか、それとも、本当に私のことを想ってくれているのだろうか。この期に及んでまだ淡い期待を寄せていることに気がついて、胸が傷んだ。


落ち着いて考えれば、お父様は私を人ではなく、都合のいい道具としてしか扱ってない。だから、私をナハルの代わりになんて言えるのだ。しかし、これは、サバラン王子に失礼に当たるのではないだろうか。


ちらりと彼を見るも、何の表情も見て取れなかった。だが、断るだろうと分かっていた。メリットがないのだから。


「全てが片付いたら、考えてもいいだろう」
「まことでございますか!非常に嬉しく思います」
「あぁ、また後日話をしよう。一旦彼女の身は私が預かる。ジルバ、行くぞ」
「はっ」


こうして、私の逃走劇は幕を閉じた。状況をあまり呑み込めていないまま、サバラン王子達に連れられてその場をあとにした。まさか、向かった先がお城だとは思ってもおらず、その豪華さに悲鳴をあげたのはいうまでもない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...