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湯浴みと着替えを済ませると、部屋には食事が用意されていた。高級な食材をふんだんに使われた料理に舌鼓を打つ。品数も普段の何倍もあったのに、あっという間に平らげてしまった。一息ついた頃を見計らっていたように、従者に目隠しされて連れられていった。


部屋に入り、目隠しを外すと、サバラン王子達がいた。森へ黒い花を探しに行った時にいた人達だろう。ジルバ以外にも見覚えのある人達ばかりだ。


「疲れはとれたか?早速呼び出してすまない」
「いえ、あの、助けてくれてありがとうございました。」
「聞きたいことは山ほどあるだろうが、時間が無い。手伝ってくれ」
「えぇ、もちろん。ですが、その前に2つだけ。1つは、なぜあの場にお父様達が現れたのでしょうか。もう1つは、私はお母様が襲われた日にお父様の書斎に実は忍び込んでいるんです。理由は、万霊の森で黒い花を見つけた近くでバッジを拾ったんです。そのバッジに見覚えがあって確かめたくて」


ここまで一息に喋って、バッジを2つ机の上に置く。さすがに呼吸が苦しかった。どんな反応をされるか怖くてなかなか顔をあげられない。


「情報量が多いな。まず1つ目だが、ポーケッタ侯爵に我々があの辺を通ると情報を流しておいた。まさか彼だけを切るとは思わなかったが
。2つ目は、不用心だったことは反省しろ。だが、このバッジを見る限り、良くやったと言わざるを得んな」
「私にも見せて頂いても?」
 

ジルバが受けとり、観察して次へ渡していく。誰だろうと思いながらその様子を眺めていると、


「そういえば、しっかり紹介してませんでしたね。私の横から、マシュー、カマロンです。マシューはサミュエル君を手助けを、カマロンは、カスティーラ国への亡命の準備、住まいの用意をしました」
「そうだったのですか!本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか」


シエルは、平身低頭で感謝を表す。私には貴族に何も返せるものがない。大きな借りを作ってしまった。2人は笑顔で大したことないと言ってくれた。なおもお礼を言い募ろうとしたシエルをサバラン王子が押しとどめた。


「礼はいらん。助けた分以上の力を貸せ。まず、このバッジの模様は、わざと我が国の紋章、精霊の花に似せているようにも見える。だが、これは旧ブラウニ国の一部の市で使われていた模様では無いかと思う。旧ブラウニ国が滅ぼされた頃、黒い花が1輪咲いていたと、第2王妃の手記に書かれていたらしい。それを今から調べるんだが、ついでに模様も探すか」


後半は独り言になっていき、聞こえにくかった。顎を撫で、指をとんとんさせて考え込むサバラン王子。相変わらずマイペースだ。


「よし、今から城の図書室と、王族の書庫を漁るぞ。図書室は、マシューとカマロンに任せる。旧ブラウニ国の資料はほとんど無いはずだが、紋章についてはあるかもしれんから、それを当たれ。あと、対人の魔法、いや、黒魔術も調べろ。ジルバとシエルは俺と書庫を漁る。黒い花に関する記述を何がなんでも探せ。ジルバはある程度判明したら、実際に旧ブラウニ国へ向かってくれ」
「「はっ」」

サバラン王子の号令で即座に動き出した。細かく質問することなく、全員がテキパキと動く。信頼関係が出来上がっているのだろう。大声に圧倒されている場合じゃない。遅れを取らないようシエルも慌ててついていく。

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