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66 サバラン視点 黒い花の意図

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ジルバが地図を線でなぞっていく。それを追いかけて意図に気がつくと、愕然とした。


「まさかっ」
「森全体に放射線状に分布しています!し、しかも、城への最短経路である街道に向かって集まっています」
「あぁ、意図的だろうねぇ」


意図的に黒い花を咲かせたことも驚いたが、それよりもこれだけ大規模な計画を敵国でやってのける策略家がハニーニ王国には居るということが恐ろしかった。他にもなにか見落としていないかと、地図の隅から隅まで確認していく。


「ジルバ、この岩脈近くの森を見ろ!ここでも見つかっていたのか?!」
「現地では樹言の森と言われている所のことかい?比較的早い段階で黒い花が見つかっているね。ふん、あんたらは一体何してたんだい?」
「えぇ、サバラン様、本当に面目がございません。この付近について情報はほとんど手に入れられなくて、現地へ調査へ向かわせて昨日やっと分かったんです。詳しい説明は手紙で送ったと伝言もあり、それがサバラン様を待っている間にちょうど届いたんです」 


老婆が呆れたような顔を向けてきた。それが地味に刺さった。「次期国王になる可能性が高い男が、ここまで掌握出来ていないとは」なんて嘲りの言葉が聞こえてきそうだ。


「ケーニスさん、クリオロ岩脈近くの一帯は、ビオレソリネス公爵、ええと、王妃のお兄様が治めているんですよ」


ジルバは少し困ったような顔をして事情を説明する。老婆はますます、苦い物を飲み込んだような表情になった。「くだらない政治争いをしている場合かねぇ」と呟くのが聞こえ、サバランは苦笑するしかなかった。


「サバラン様、公爵とハニーニ王国が手を組んでいると考えていいと思います」
「あぁ。それでクリオロ岩脈の調査した者からの手紙の内容はなんだ?」
「えぇ、国境付近で6ヶ月前から数ヶ月ほど前までの間は急に死者が増加していたこと、魔物の出現もいくつか確認されていることが分かったそうです!死因もハッキリしておらずどうやら殺されたのでは無いかと噂されているものの、死体はすぐに火葬されてしまって確認は出来なかったそうです。また、岩脈地帯にある辺境の民、エヒスの村が滅ぼされていたそうです」


ジルバの報告を聞いて、思わず頭を抱えたくなった。こめかみを押えながらも、気力を振り絞って確認する。


「つまり、原因不明で人が亡くなり、魔物は出現していて、更にエヒス達の村は滅ぼされていたと・・・・・・。それでなぜ報告が一切あがってきていないんだ?」
「それは意図的に隠したのかと。申し訳ございません。私がもっとはやく気づいていれば!」


サバランは怒る気力もなかった。ジルバは責任を感じているのか顔色が悪い。秘匿しようとしていたことを逆によく調べ上げたと思うが、そんなこと言ってもジルバには慰めにならんだろう。


「いや、よく調べ上げたな、助かったぞ。ありがとう。それで、だ。ここに来る途中で南下する集団を見たが、街道の警備を手薄にするために誰かが、いや、公爵や伯爵が扇動したということだろう」
「ということは、もう森の周辺では魔物や魔獣が出現している可能性が高いですね!カマロンが調査へ向かっていますが、1人ではとても無理でしょう」
「あぁ。まず、南へ向かった集団を呼び戻して魔物退治に当たらせたいが」
「それなら、ラングが潜入しているはずですので連絡をとります。しかし、ビオレソリネス公爵達に気付かれずにやることは不可能かと・・・・・・」


サバランは低く唸った。こちらが策略に気がついたことを悟らせるのは遅ければ遅いほどいいと思うが、こればかりは仕方なかろう。


「ふん、力を貸してやろうかねぇ。あんたら貴族のためじゃあないよ。私はハニーニ王国が大嫌いなのさ。ティラスポートにはバールゥク職人がまだあちこちに隠れて生活してんだ。さぁ、老人の力を舐めるんじゃあないよ」
「しかし、公爵の命で動いているとしたら」
「ふん、こっちにもツテがあるのさ、強力なのがね」


老婆は何を企んでいるのかニヤリと笑った。味方として動いてくれる人は多ければ多いほど有難い。ここは任せるとするか。


「そうか、頼んだ」


老婆に軽く礼をした。立場上、最大限の敬意を持った礼は出来ないが、せめて少しでも感謝の意を伝えたいと思った。 


顔を上げると、ジルバが複雑な表情をしていたので少し笑ってしまった。老婆は平然としているように見えた。しかし、目は静かに燃えていることに気がついた。容赦しないという風に鋭い光を放っている。この老婆はきっと今までに修羅場を何度も乗り越えてきたのだろう。

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