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65 サバラン視点
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「サバラン様、勝手に城へ招いたことお許しください。緊急だったものですから。こちらの方は、ケーニスさんです。旧ブラウニ国で布職人をしていた方です」
「わざわざ御足労頂き感謝する。場所を変えよう」
「こちらこそご丁寧にどうも」
鋭い目で値踏みするように見られていることにサバランは気づいたが、敢えて何も言わなかった。ジルバが用意していた客室で向かい合わせに座るまで老婆はじっと自分を見つめていたので少し居心地が悪かった。さっさと本題に入ってしまおうとジルバを促した。
「それで用件はなんだ?」
「はい、魔木職人達から話を聞こうと旧ブラウニ国の街へ向かったのですが、職人達はほとんどいませんでした。居る職人達からは門前払いで話を聞けなかったのですが、彼女、ケーニスさんからはお話を聞けたんです」
「そうか、布職人といったな?」
「えぇ、布職人ですが使用する糸は昔は魔木を使っていたそうです」
顔に驚きが出ていたのだろう。老婆はせせり笑うように口を歪ませた。「魔木から糸を作れるなんて思いもよらなかっただろう?」と言われているようで腹が立った。
「シエルも魔木から糸を作っていたなーーーそれで、黒い花について知っていたのか?」
老婆はシエルの名前にあからさまに反応していた。知り合いなのだろうか。余程驚いたと見えて暫く固まっていた。そのことに触れようとしたが、ジルバが話し始めたので機会を逃してしまった。
「えぇ。黒い花が2種類あったのは覚えていますか?古の森で見つかった大きな花弁の黒い花は見覚えがあるそうです。しかし、万霊の森で見つかったクガラシによく似た小ぶりの黒い花は、見たことが無いそうです」
サバランが問うような視線を向けると、老婆は頷いた。少し躊躇う素振りを見せたが、そのまま話し始めた。
「古の森で見つかったのは、ブラウニ国が滅んだ時に見たのと同じさ。万霊の森の黒い花は見たことがないねぇ。だが、黒い花は一種類しかないね。ミュゲーの花と黒い花は言い伝えとして聞かされて育ったが2種類あるなんて聞いたことがない。可能性があるとしたら、」
「あるとしたら、なんだ?」
思わず身を乗り出してしまう。老婆はゆったりとエールを口に運んで喉を鳴らした。もったいぶった行動にイラついてしまう。拳を握りこみ耐える。老婆の目には、人をからかうような色が浮かんでいた。
「ふん、それより、1つ先に答えておくれ。黒い花はどんな分布でどこに咲いていたんだい?」
「分布ですか?植生や気候の違いも特徴が見られませんでした。調査結果を記した地図を今お出ししますが、バラバラとしか言いようがありませんでしたよ」
ジルバが地図をサッと取り出して広げた。ハニーニ王国と我が国、イートポーテルは西側を自然を挟んで隣合っている。1番北側はクリオロ岩脈、そこから海までは万霊の森が国境に横たわっている。
地図には赤い丸で印がつけられている。印があるのが黒い花が見つかった場所だ。無言で暫く地図を眺めていたが、老婆は、ふんと鼻を鳴らした。彼女は「気づかないのかねぇ」と呟いた。
サバランは要領を得ない回答に痺れをきらしそうだった。さっさと説明させようと口を開いたが、老婆は話し始めた。
「万霊の森の黒い花は人為的だろうねぇ。どうやって作るかは知らないがね。人を殺したり悪いことをしたりすると黒い花が咲くと脅されて育ったのが懐かしいよ。確か、ドランとかいうバカが昔研究していたよ。今はこの国の伯爵になっていると風の噂で聞いたがね、名前は知らないがねぇ」
「ドラン?まさか、ドレーン伯爵のことか?」
「あの、地図の分布で気づかないというのはどういうことでしょうか?」
老婆はサバランを無視し、ジルバをちらっと見た。そしてゆっくり口を開いた。
「ふん、貴族なのに傾向があることに気づかないのか?随分と鈍いんだねぇ。人為的なら植生なんて関係が無くて当たり前さ。一見バラバラでも、ある意図をもってすれば、何か浮かび上がってくるだろう?」
「人為的、意図ーーーーあっ、分かりました!」
「わざわざ御足労頂き感謝する。場所を変えよう」
「こちらこそご丁寧にどうも」
鋭い目で値踏みするように見られていることにサバランは気づいたが、敢えて何も言わなかった。ジルバが用意していた客室で向かい合わせに座るまで老婆はじっと自分を見つめていたので少し居心地が悪かった。さっさと本題に入ってしまおうとジルバを促した。
「それで用件はなんだ?」
「はい、魔木職人達から話を聞こうと旧ブラウニ国の街へ向かったのですが、職人達はほとんどいませんでした。居る職人達からは門前払いで話を聞けなかったのですが、彼女、ケーニスさんからはお話を聞けたんです」
「そうか、布職人といったな?」
「えぇ、布職人ですが使用する糸は昔は魔木を使っていたそうです」
顔に驚きが出ていたのだろう。老婆はせせり笑うように口を歪ませた。「魔木から糸を作れるなんて思いもよらなかっただろう?」と言われているようで腹が立った。
「シエルも魔木から糸を作っていたなーーーそれで、黒い花について知っていたのか?」
老婆はシエルの名前にあからさまに反応していた。知り合いなのだろうか。余程驚いたと見えて暫く固まっていた。そのことに触れようとしたが、ジルバが話し始めたので機会を逃してしまった。
「えぇ。黒い花が2種類あったのは覚えていますか?古の森で見つかった大きな花弁の黒い花は見覚えがあるそうです。しかし、万霊の森で見つかったクガラシによく似た小ぶりの黒い花は、見たことが無いそうです」
サバランが問うような視線を向けると、老婆は頷いた。少し躊躇う素振りを見せたが、そのまま話し始めた。
「古の森で見つかったのは、ブラウニ国が滅んだ時に見たのと同じさ。万霊の森の黒い花は見たことがないねぇ。だが、黒い花は一種類しかないね。ミュゲーの花と黒い花は言い伝えとして聞かされて育ったが2種類あるなんて聞いたことがない。可能性があるとしたら、」
「あるとしたら、なんだ?」
思わず身を乗り出してしまう。老婆はゆったりとエールを口に運んで喉を鳴らした。もったいぶった行動にイラついてしまう。拳を握りこみ耐える。老婆の目には、人をからかうような色が浮かんでいた。
「ふん、それより、1つ先に答えておくれ。黒い花はどんな分布でどこに咲いていたんだい?」
「分布ですか?植生や気候の違いも特徴が見られませんでした。調査結果を記した地図を今お出ししますが、バラバラとしか言いようがありませんでしたよ」
ジルバが地図をサッと取り出して広げた。ハニーニ王国と我が国、イートポーテルは西側を自然を挟んで隣合っている。1番北側はクリオロ岩脈、そこから海までは万霊の森が国境に横たわっている。
地図には赤い丸で印がつけられている。印があるのが黒い花が見つかった場所だ。無言で暫く地図を眺めていたが、老婆は、ふんと鼻を鳴らした。彼女は「気づかないのかねぇ」と呟いた。
サバランは要領を得ない回答に痺れをきらしそうだった。さっさと説明させようと口を開いたが、老婆は話し始めた。
「万霊の森の黒い花は人為的だろうねぇ。どうやって作るかは知らないがね。人を殺したり悪いことをしたりすると黒い花が咲くと脅されて育ったのが懐かしいよ。確か、ドランとかいうバカが昔研究していたよ。今はこの国の伯爵になっていると風の噂で聞いたがね、名前は知らないがねぇ」
「ドラン?まさか、ドレーン伯爵のことか?」
「あの、地図の分布で気づかないというのはどういうことでしょうか?」
老婆はサバランを無視し、ジルバをちらっと見た。そしてゆっくり口を開いた。
「ふん、貴族なのに傾向があることに気づかないのか?随分と鈍いんだねぇ。人為的なら植生なんて関係が無くて当たり前さ。一見バラバラでも、ある意図をもってすれば、何か浮かび上がってくるだろう?」
「人為的、意図ーーーーあっ、分かりました!」
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