【R18】変態に好かれました

Nuit Blanche

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イケメンヤリチンチャラ男に捕まりました

それは告白ですか?

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「どうしたの? りりちゃん」

 内心冷や汗ダラダラで挙動不審になった私を影本君が訝しんでる。
 やっぱりオタク女子きもいとか思われてるかもしれない。

「影本君」
「なぁに?」
「あの、どうして……?」
「どうして、って?」

 影本君のニコニコが怖い。とてつもない恐怖。
 明日、私は死ぬのかもしれない。
 どうしよう、先輩に押し付けられた薄い本がお母さんに見付かる前に誰か回収してほしい。

「もしかして、凄く困ってる? 俺のこと、嫌い?」
「そういうわけじゃ……」

 怖くて嫌いなんて口が裂けても言えるはずもない。
 そもそも、好きとか嫌いとかそういう問題じゃない気がする。
 誰かこの状況を私にわかるように説明してほしい。イケメンだけど、チャラくてヤリチンの影本君が私に構う正当な理由を。
 そもそも、イケメンが私に声をかけるはずがない。
 名前に光が入ってても陰キャラの私と影が入ってても陽キャラの影本君では対極だ。影は光に憧れても、きっと逆はない。自分を引き立てる物としてなくてはならないのかもしれないけど。

「わかってるよ。俺のこと、苦手でしょ?」

 本人からそう言われて頷けるほど私はハートが強くない。極薄のガラス製。
 今だって机の下で震えてる足を影本君に気付かれないかとひやひやしてる。
 泣き出さないでいることを褒めて欲しいくらい。

「でもさ、俺って攻略対象としてありだと思わない?」

 先生! この人が何言ってるかわかりません!
 日本語? これ、日本語?
 影本君って本当に常識通用しないタイプの人……?

「自分で言うのもあれだけど、俺ってイケてるじゃん? 女の子にもちょーモテるし」
「そう、ですね」

 中身がどうだろうと見た目だけなら影本君は文句なしのイケメンだと思う。
 いつも女の子が群がってるのも事実。入れ食いってやつだと思う。
 下半身緩くても顔のおかげで女子からの人気が絶えない影本君はお得な人生を送ってると思う。
 一部からはゴキブリの如く嫌われてても関係ないと思う。

「うわっ、塩対応!」

 地味な私に見向きもされなくても影本君は何も困らないと思う。
 それとも、私如きに塩対応されるのが許せないんだろうか。
 物凄く反応に困る。

「もしかして、俺のこと、好みじゃない?」
「め、めっそうもない」

 ちょっと低くなった影本君の声は何を意味するのか。
 本人を目の前に好みじゃないと言い切ることなんてチキンな私には不可能だった。
 多分、影本君の見た目自体は割と好みの方だと思う。
 黙ってればイケメンだし、背が高くてスタイルも良い。腰パンしていなければもっと格好いいはず。
 でも、中身が問題だと思う。どう足掻いてもマイナスにしかならない性格が無理。

「コンプしたいってことは、好きなキャラもそうじゃないキャラも攻略するんでしょ?」
「そう、だけど……」

 攻略対象が何人もいれば、必ず一人以上苦手なタイプが存在するわけで。見た目が好みじゃないとか、性格が受け付けないとか色々。
 それでも、攻略してみたら案外好きになるパターンもあったりして、スチルとかエンディングリストは埋めずにはいられない。
 だって、全員攻略しないといけないルートもあるし。

「俺のこと、攻略してみてよ」
「ゲームじゃないから……」

 現実をゲームと混同したりはしない。
 もしも、影本君を攻略しなきゃいけないとしたら後回しにしたい。
 ううん、影本君を攻略しなきゃいけないくらいなら、フルコンプを諦めた方が良いかもしれない。

「いいじゃん、ゲーム感覚。もっと現実を楽しんだ方がいいって。俺と甘酸っぱい青春送らない?」
「酸っぱいだけな気がする……」
「言ってくれるね。お望みなら、ドロッドロに甘くしてあげるよ?」

 やっぱり影本君こそゲームをしてるのかもしれない。友達と何かを賭けてるのかもしれない。
 そうじゃなければ高級料理を食べ飽きて下手物が食べてみたくなったとしか考えられない。

「からかわないで……」

 声が震えないか、内心ビクビクしながらそう言うのがやっとだった。
 誘惑に負けたら絶対駄目だと思う。遊ばれて笑い物にされる未来しか見えない。

「マジで心外だなぁ。俺は本気で口説いてるつもりなんだけど。りりちゃんに合わせてさ」

 私に合わせてって何? 乙女ゲームの話?
 それとも、漫画を餌に家に誘ったこと?

「ご、ごめんなさい……」

 ちょっと不機嫌になった影本君が怖くて、とにかく謝るしかないと思った。
 でも、その瞬間、影本君はもっと不機嫌になったと思う。

「それは、何のごめんなさい? 俺のこと、フってる?」

 怖い。怖すぎる。泣いて逃げ出したいくらい怖いのに動けないし、何も言えなくて、首を横に振るしかなかった。

「なら、俺が、りりちゃんのこと攻略してみようかな? ギャルゲーってやつ?」

 にやっと笑う影本君が悪魔にしか見えなくて怖い。ちゃんとすれば天使にもなれるかもしれないのに。
 大体、さっきから私が攻略する要素なかったよね?
 明らかに攻められてるよね?
 涙目になってるのに、堪えてる私を褒めてほしい。
 私なんか絶対ギャルゲーのモブなのに。

「その目、たまんないなぁ……すっげーゾクゾクする」

 獲物を前にした猛獣みたいに影本君が舌舐めずりする。
 私も別の意味でゾクゾクする。

「あ、あの、私、もう帰るから……」

 日誌を閉じてバッグを掴んで立ち上がって、ダッシュ出来たら良かったのに、焦ったせいで足がもつれて尻餅をついてしまった。

「これってラッキースケベってやつかな?」

 いつの間にか影本君が私の前に立ってて、見下ろされてた。
 影本君にそのタグは付くんだろうかと冷静に考えかけて我に返る。
 捲れ上がってるスカートを慌てて直すけど、手遅れだったとは思う。
 冬の間は黒いタイツを履いてたけど、四月もまだ寒くて黒いストッキングを履いてる。だから、パンツがモロに見えるわけじゃないけど、透けてたはず! 恥ずかしい!

「ほら、りりちゃん、大丈夫?」
「あ、ありがとう……」

 影本君が助け起こしてくれたけど、ときめくわけでもなかった。
 状況が違って、影本君の中身が影本君じゃなかったら、少女漫画的展開だったかもしれないけど。
 とにかく影本君から離れたい一心だった。

「俺から逃げんの?」
「そういうつもりじゃなくて……もう日誌書き終わったから……」

 正直、逃げたい。逃げようとしてるけど、本人にそう言えるはずもない。
 でも、もう学校に残ってる理由もないわけだし……

「じゃあ、一緒に帰ろ? 鞄持ってあげる」

 なんで、そうなるの?
 影本君は優しさを見せてるつもりかもしれないけど、裏がありそうで怖い。
 相手が影本君だから深読みせずにはいられない。

「影本君は私のこと、好きなの……?」

 このまま逃がしてもらえないなら、と恐る恐る聞いてみる。
 この反応で少しは影本君の真意が読めると思ってた。
 ……そのはずだった。

「好きだよ」

 ブスが勘違いしてんじゃねぇ。
 そう言われると思ってた。言葉にしなくても露骨に顔に出るんじゃないかと思ってたのは読みが浅かったのかも。
 蕩けるような笑顔を見せられて、余計にわからなくなった。わからなすぎて気持ち悪い。
 影本君の考えが全く読めない。
 先入観を捨てて、シンプルに考えるべきなの? でも、あの影本君だよ?

「ど、どこが……?」

 聞いたところで信じられるかもわからないのに、聞くしかなかった。

「その怯えた顔がすげー好みなんだよね。反応も一々可愛いっつーか、とにかくいじめたくて、興奮する」
「ひっ……」

 聞かなきゃ良かった。全然、嬉しくない。
 影本君が完璧にいじめっ子の顔をしてる。

「ははっ、今、『ひっ』って言った。マジでたまんねー」

 本当に楽しそうに影本君が笑ってる。
 私を恐怖のどん底に叩き落としておいて憎たらしいくらいなのに、何も言えない。
 仮に本当に好かれているのだとしても、怖すぎる。どっちに転んでも怖い。
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