【R18】変態に好かれました

Nuit Blanche

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彼は変態でした

彼は変態でした(形態を変える的な意味で)

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「友達から始めるのはダメなの?」

 まだ影本君を嫌いになる前にできることがあると思う。
 さっきの影本君のシミュレーションではそういう段階があった。その可能性を潰してただけで。
 今ならまだ信頼を回復できるし、自分の身の安全のために妥協できる。

「友達?」

 影本君が不思議そうに首を傾げる。
 それが私には不思議に思えた。

「影本君が本当はオタクだって今なら信じられる。悩みがあるなら聞くし、影本君の好きな物教えてくれたら私も見てみる。そうやってもっと影本君のことわかったら付き合いたいって思うかもしれないし……」

 話が合って、一緒にいて楽しいと思えれば、オタクの影本君は恋愛対象として十分にあり得る。
 そうやって、ゆっくり愛を育めたらいいと思うんだけど、夢を見すぎなのかな?

「俺はりりちゃんと友達になりたいわけじゃないし、りりちゃんのことはいっぱい知ってる。だから、好きになるのなんて彼女になってからでもできるよ」

 ダメだ、この人、やっぱり話通じない。
 行けるかな、と思うとどこかで道が途絶えてる。
 完全に迷宮に閉じ込められた気がする。出口に辿り着ける気がしないって言うか、出口が存在する気がしない。もうここは檻の中?

「ごめんね、りりちゃん。俺、時々、自分がわからなくなるんだ。どれが本当の俺なのか」

 またぎゅっと抱き締められた。
 多分、影本君は私が思っているよりもずっと闇を抱えてる。
 計り知れない闇、私には重すぎると思うのに、影本君は私だけに救いを求めてる。

「今だってアニメも漫画も好きだし、家ではオタク生活を楽しんでるのに、外ではオタクを馬鹿にするような連中と騒いで、それも楽しいって思うんだよ」

 改めて部屋を見回すとちょっと前のアニメから最新のアニメグッズまであって、この部屋には影本君の好きな物が詰まってるのはわかる。
 クラスでも特に二人気の合う友達がいるみたいで、いつも楽しそうに見える。
 うるさい時があると由真ちゃんが呪いの言葉を呟き出すけど。
 大抵、うるさいのは影本君じゃなくて周りの方なんだけど由真ちゃんには関係ない。
 そんな二重生活は大変だと思うけど、影本君はずっと完璧に続けてきたんだと思う。

「それぐらい、チャラ男の俺にも馴染んじゃったの」

 チャラい影本君がヤリチンだって信じて疑わなかった。
 あれ? でも、それって、どこまで本当なの……?
 まだ影本君の秘密は完全には解き明かされていない。

「でも、自分を見失いそうになって辛い時にいつもりりちゃんの姿が思い浮かんで俺は踏み止まるんだよ。全部りりちゃんのおかげ。でも、もう限界」

 何だろう、嬉しいと思っていいのかもわからないし、影本君の限界が何を意味するのかもわからない。
 勝手に安定剤にされて縋られても困る。私には私の意志があるから。

「どういうことか、未だによくわからないんだけど……」

 私を好きな理由を聞いたけど、どうして、オタクの影本君がヤリチンチャラ男になったのかはまだよくわかってない。
 だから、まだ頭が混乱してる。

「詳しく言うと面倒臭いから端折るけど、うちは何かとオタクの家系なのね」

 オタク一家……?
 羨ましい気もするけど、それはそれで大変な気もする。うちも理解がないわけじゃないけど。

「で、俺も当然のようにオタクになっちゃったんだけど、ガキの頃にオタクだからっていじめられるのが嫌でこうなっちゃったわけ」

 うーん……よくわからないけど、いじめられるのが嫌で天敵に転身?

「さっき、言ったでしょ? 俺がこの世で一番嫌いなこと」

 あの恐怖体験……優しく言ってくれたけど、確実に恐怖刻まれたアレ。思い出すと今でも震えが来るくらい怖かった。
 イケメンを理由に影本君を否定するようなことは言っちゃいけない。絶対に。

「大好きなりりちゃんだから抑えて優しく言ったけどさ……イケメンのくせにオタクなのはおかしいみたいことを言われて、ぷっつんとキレちゃってさ」

 ワンクッション置かないでキレられたら本気で怖かったはず。多分、泣いてた。
 不良だって思うから怖いし、顔が綺麗だから変な迫力があって怖い。
 子供の頃の影本君を知らないけど、昔から綺麗な顔だったんじゃないかと思う。

「オタクを馬鹿する奴は全員ぶちのめしてやった。そうしたら、怖がられるし、誤解されるしで、結果は俺の思い通りにはならなかった」

 私だってさっきまで少しも疑ってなかった。
 それくらい影本君は完璧にチャラ男だった。残念なくらいチャラかった。
 それが喧嘩強いって噂の真相?
 先輩に一目置かれてるのも、もしかしてキレちゃったから?

「俺が哀れんでオタクの奴らと仲良くしてたって話になって、自分をイケてるって思ってる連中に勝手に仲間にされちゃってさ、その場凌ぎで話合わせてたら、思ってた以上にハマっちゃったみたい」

 子供って残酷だなって思う。その頃の影本君はまだ純粋だったはず。
 それを踏みにじられて、好きな物を好きだって言えなくなって辛かったと思う。
 同情はするけど、口に出すべきじゃないと思った。理解を示すべきじゃない。
 だって、影本君が私にする全てのことを許す理由にはなり得ないから。

「俺は学んだの。人との関係を円滑にするにはオタクを隠した方がいいって。だから、擬態して生きることにした」

 オタクを公言しない方が平和に生きられることもあるとは思う。
 私はそこまでじゃないと自分では思ってるし、実際由真ちゃんとか部活仲間についていけないこともしばしば。
 でも、みんな、楽しそうだなって思いながらいつも見てる。
 本当なら影本君もそこにいたかもしれないのに、影本君は仲間になれるはずだった人達に嫌われる道を選んだ。
 みんなにも自分にも嘘を吐き続けて歪むのも無理はないような気はする。完全に病んでる。

「まあ、オタクの友達は失ったけど、最初から入りきれない感じはあったよ。何かと『お前はイケメンだから』って自分達とは違う勝ち組だって壁を作られる。本当の友達になれないってわかってた。そういうの、寂しくて、自分の顔が嫌いになって鏡割ったこともあるし、ずっとストレスになってたんだと思う」

 イケメンに生まれたからって得なことばかりじゃないんだ……
 私だってイケメンだからって言う理由で影本君を遠ざけようとした。危なかったと思う。
 だって、綺麗な人は何だか怖い。影本君の怖さはそれだけじゃないけど、怖い。
 冷たい感じがするって言うか、同じ人間のはずなのに劣等感を覚えずにはいられないから、影本君に壁を作った友達の気持ちはわかる。

「だから、オタク趣味は家で引きこもって楽しむことにした。顔出さなくても友達できるし、欲しい物は通販すればいいし、天馬てんまに頼むこともある」

 さっきの弟ね、と影本君が教えてくれる。
 さっきは微妙な感じだったけど、仲が悪いわけじゃないんだ……ちょっと安心。
 確かにネットがあれば何でもできるって言うか、お家からもお布団からも出なくていいや感あるけど……!

「天馬は凄いよ。あいつは正々堂々と勝負してる。オタクだってこと隠しもしないって言うか、中二病全開だし、それでいて突っかかってくる奴は全員ぶちのめせる」

 影本君は弟君のことを尊敬してるって言うか、羨ましいのかもしれない。
 多分、それは影本君がなりたかったはずの姿だから。

「でも、俺はそうなれなかった……いや、多分、俺がこうなったから反動で突き進んだのかな?」
「でしょうね」

 あっ、気を抜いたら、つい心の声がそのまま出ちゃった……
 でも、兄の不器用な生き方見たら、普通は学習して、同じ道は行かないと思う。
 さっき、ちょっと喋ってただけだけど、影本君と違って常識がありそうだった。

「りりちゃんが冷たい……」

 ぽつりと影本君が呟く。やばい!
 影本君取り扱いマニュアルがほしい。切実に。

「わ、私が塩対応なのよく知ってるでしょ?」
「俺だけにデレてほしかった……」

 好きでもない相手にデレるってどうしたらいいんだろう?
 凄く高度な技術のような気がする。
 下手に刺激すると死んじゃいそうだし……
 なんか雲行きが怪しくなってる気がする。まずい。考えろ、考えるんだ、凛鈴!

「ご、ごめん……あっ、ナデナデしてあげるから!」
「っ! ……りりちゃん、大好き……」

 ごまかすように髪を撫でてみたら、影本君は嫌がる素振りもなく、むしろ大層お気に召したらしい。
 泣きながらまな板レベルのおっぱいに顔をスリスリするこの姿を見たら、影本君信者の女の子達はどう思うんだろう。
 切り札として写真に撮るような真似は私にはできないけど。だって、絶対報復が恐ろしい。
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