【R18】変態に好かれました

変態に試練です

食べ物は戦争の元です

「あのさ、嘘だとは思わないけど、何か隠そうとしてない？」
「何も」
「俺は竜也が何か弱みを握られてるんじゃないかって思うんだけど？」

　向井君の目がキラリと光った気がした。
　やっぱり迷探偵じゃない？　ほんとは名探偵？

「弱み？」
「何かはわからないんだけど、二人、あるいは凛鈴ちゃんが知ってるんじゃないかって」

　上野君は首を傾げるけど、向井君はまるで確信してるみたいに私を見る。

「し、知らない……知ってるわけないでしょ？」

　あんまり喋らないのもダメな気がして、何とか口を開く。声震えたかな？　大丈夫かな？
　だって、竜也君と学校では接点がないのに。

「竜也がロリコン、とか？　俺は気にしないのになぁ」

　上野君、ロリにこだわり過ぎじゃない？
　ロリっ子って連呼されるの地味に辛い。

「ってか、ロリっ子、それでご飯足りるの？　ダイエット中？　ミニで貧乳はじゅよーあるけど、ガリはマニア向けじゃね？　もっと幼児体型でもじゅよーあるから安心して食えって」

　ひぃっ……また言った！
　上野君に話しかけられるだけでも緊張するのに、一気に色々言われて頭パンクしそう。
　なんか凄く失礼なこと言われてる？　需要と供給の話？　セクハラ？

「俺のコロッケとこーかんしてあげる！」
「あっ……！」

　私のお弁当の上に大きなコロッケが着地して、小さな牛肉コロッケが浚われていった！
　そして、上野君に一口で吸い込まれた……！
　それだけは絶対最後に食べようと思ってとっておいたのに！

「いじめっ子……」
「うわっ、何今の！　すげーキュンときたんだけど！」

　完全に私の中で悪ガキ認定した上野君を恨めしい気持ちで睨むけど、胸を押さえる上野君は意味不明だった。
　今の胸キュンするところじゃないよね？　胸の痛みを感じてほしかった。

「通報したい」
「何で！？　いじめじゃなくね？　俺、いーことしたよね？」

　同意を求められても困るし、向井君も肩を竦めてる。
　由真ちゃんが上野君を見る目は冷ややかだった。まるで氷みたい。

「凛鈴が最後に取って置いた牛肉コロッケを奪っておいて？」
「こーかんしたじゃん！　俺のべんとーのメインと！　ほら、食べて食べて！」
「私の牛肉コロッケ……」

　お箸で割ってみるけど、中身はお肉じゃなかった。しょぼん……

「食べ物は戦争の元でしょうが。しかも、ソースかかってるし！」
「食べ物の恨みは恐ろしいって言うもんね。もしかして、凛鈴ちゃん、揚げ物はソースじゃない派？」
「醤油……」
「陽介、割と何でもソースかけるよね」

　べったりついたソース味のコロッケ……食べられるけど、ちょっと悲しい。
　冷凍の牛肉コロッケはまたいつでも入れてもらえるけど、やっぱり悲しい。
　こんな状況でも最後に食べたら元気出るかと思ったのに……

「うわっ、ガチでへこんでる……可愛い」

　何だろう、このどこかで聞いたような感じ。
　本当にへこんでるのに、可愛いとか言われても嬉しくない。しかも、へこませた張本人に。

「あんた、やっぱり頭おかしいのね」

　由真ちゃんは呆れてる。
　由真ちゃんだって、もしかしたら上野君のいいところも見つけようとしてたのかもしれない。
　残念なことに、やっぱり話が通じない人だって思ったけど。
　それでも上野君はヘラヘラ笑ってる。

「だって、可愛い子泣かせたくなるじゃん？」
「好きな子ほどいじめるタイプっているけど、あんたはいじめすぎてガチで嫌われるタイプよ」
「僕としては友達が犯罪者予備軍とか思いたくないんだけど」

　友達のはずの向井君まで呆れてる。
　いじめたいとか、泣かせたいとか、ひどくない？
　最初に絡んできたチャラ男バージョンの竜也君を思い出すけど、そもそも同類だった。
　こっちはこっちで楽しいって言ってたっけ。気が合うってことだよね……？
　いじめっ子の友達はいじめっ子。向井君だって自分は無害みたいな顔してるけど、今一緒にご飯食べてる時点で公開処刑な気がする。

「陽介が悪い。戦争になることした陽介が悪い。でも、僕は陽介の飼い主じゃないから責任取らない」

　誰もリードを握る人がいない……狂犬野放し状態？
　向井君は狂犬がいる檻の中で平然とミルクティー飲んでる的な。
　それでも、竜也君が入れば違うのかな？　入ってこられたら困るけど

「じゃあ、影本が飼い主？　あいつが責任取ってくれるわけ？」
「俺は誰にも飼われてねーし、ロリっ子と仲良くなりたかっただけなの！」

　仲良くしたくないと言うか、仲良くなれる気がしない。怖い。

「大体、あんた、何で凛鈴のこと変な呼び方するのよ？　ロリコンなの？」
「親しみ感じるじゃん？　可愛いじゃん？　ロリっ子」
「感じないわよ。バカにしてるのかと思ったじゃない」

　由真ちゃん、どんどん容赦がなくなってる。遠慮なんて要らないと思ったのかもしれない。
　上野君、全然ダメージ受けてないみたいだし。

「じゃあ、リリンって呼んでいいの？」

　小さく首を横に振る。ふるふる震える。絶対にやめてほしい。
　こんな上野君にだってファンはいるのに、怖すぎる。
　この恐怖体験、本当に竜也君を思い出す。竜也君が二人いるみたい。
　本当に怖いのに、上野君は私をじーっと見てる。

「嫌がってるの可愛い……」

　もう聞かなかったことにしたい。
　泣きたいけど、泣いたら喜ばれそうで辛い。

「陽介がロリコンとか聞いたことないけど。この前好きって言ってたグラドルも全然そっち系じゃないし」

　いつも一緒の向井君でも知らないことってあるんだ……
　性癖のことは知らない方が幸せかもしれないけど。
　竜也君だって、かなりヤバい性癖隠し持ってるし。

「あ、でも、お兄さんはロリコンだっけ？」

　何、だと……？
　向井君、さらっと変なこと聞いてない？
　危うく泣く泣く食べてるコロッケが喉に詰まるところだった。

「そーそー、ロリ物のえーぶいいっぱい持ってる。てか、ロリ系しか持ってない。百四十センチ台がいいんだって」

　今、凄く変な空気になってる。やばい、気まずい。
　上野君は何でもないことみたいに言うけど、こういう話には慣れられない。
　兄弟いないし、周りにいる男子も部長と加納君なんか淡泊な感じだし、アニ研側のボーイズトークもちょっと違う感じだし、竜也君もアレだけど、耐性はまだない。

「……凛鈴、そいつの臑蹴れる？」
「今のも陽介が悪い。蹴っていいよ」

　由真ちゃんは囁くどころか、上野君にもはっきり聞こえるだろう声で言った。
　でも、向井君のお許しが出ても困る。蹴れるわけない……

「えー？　俺、悪者？　しょーたが聞いたんじゃん！」
「デリカシーがないのは悪だよ」

　向井君は言うけど、上野君は何が悪かったのかわかってなさそう。
　でも、多数決をとったら上野君は負ける。

「でもさー、竜也、一緒に兄貴のえーぶい見た時、ずっと『ないなー』って言ってたじゃん？」

　そんな情報知りたくなかった……！
　別に見るなとは言わないし、怪しげな画像持ってるのも知ってるし、そもそも変態だけど、男の子同士ってそういうもの？

「確かにアニ研さんのロリ巨乳な後輩が迫ってるけど、それはあいつの好みとは違うでしょ？」
「年上のお姉さんには食傷気味なんじゃないかって思ってたんだけど」
「友達思いなのは結構だけど、あの子が勝手にしてるだけ。悪いのは全部オタクのせいにしようなんて思わないで」

　萌花ちゃんが勝手にしてること。完全に暴走してて制御不能。由真ちゃんでも無理。

「ごめんごめん、僕達だって、オタクが全部悪いなんて思ってないよ。でも、僕達が全部悪いわけでもない。周りが勝手に作り上げた図式ってあるよね」

　向井君は竜也君と上野君に比べたら、それほど悪い感じはしないし、まともなことを言ってると思う。
　こうして公開処刑的な気まずい昼食会してるのは和平交渉なんかじゃないけど、竜也君のためなんだよね？
　誰が悪いわけでもなく、クラス内の対立の構図は自然に作り上げられた気がする。思い込みとかあるし……　でも、何か引っかかるのは何だろう？　喉に小骨が引っかかったみたい。
　向井君を見つめるけど、微笑まれただけで答えてくれそうにはなかった。

「そーそー、ちょー楽しかった！　また一緒に食べよ？　今度は竜也も一緒に」

　上野君……！
　いじめっ子は止まらない。それは困る。超困るのに！

「今日だけ、って言ったの忘れた？　その耳は飾り？　あんたの頭どうなってるの？」
「俺、浅見のことも嫌いじゃないかも……」
「はぁっ！？」
「こういう感じ、嫌じゃないかも」

　由真ちゃん、唖然。上野君は爆弾を投下しすぎ。爆撃機なんじゃ……

「陽介、いつからドＭに？」
「私は嫌いよ！」

　こうして悲惨なランチは幕を閉じたのだった。
　もう一人悲惨なランチを体験した竜也君が疲れた様子で戻ってきたけど、知らないフリ。
　上野君達に色々聞かれてたけど、何かあったら後で連絡来るよね……？