【R18】お世話した覚えのない後輩に迫られました

Nuit Blanche

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第二章

侵食される日常 6

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 それから晃が紗菜のクラスに押し掛けてくることはなかったが、毎日放課後を共にしなければならなかった。そして、望まずとも約束の日は来てしまうのだった。


「新婚さんみたいですね」

 そんな晃の一言が紗菜を凍り付かせた。
 料理を作るための食材をスーパーマーケットで探している最中のことだ。きっと恋人には見えない。兄妹のように見えるはずだと紗菜は自分に言い聞かせていたが、彼はすっかりその気のようだった。
 彼が『愛情たっぷり感じる物が食べたい』などと言ったせいで紗菜はメニューを決めるのにさえ難儀したのだ。結局は晃のリクエストでオムライスになったのだが、ケチャップでハートを書かなければならないことが紗菜には不安でたまらなかった。

「オムライス作ってもらうのなんて初めてなので何だか嬉しいです」

 彼にとっては重要らしいケチャップさえ家にないと言うのだから普段は何を食べているかわからないものだ。思いの外買わなければならない物が増えてしまった。カゴは当然のように晃が持っているのだが。

「普段、何食べてるの……?」

 手料理を食べていないなどと言っていたが、調味料も揃っていなかったところを見ると自炊もろくにしていないらしい。普段どんな食生活をしているかわからないもので、紗菜は何となく問いかけていた。

「心配してくれてるんですか?」
「ち、違う……」

 質問を返してくる晃はどこか嬉しそうで、紗菜は聞いてしまったことを後悔した。彼に興味があるわけではないのだ。

「いつもはコンビニで買ったりとか出前です。面倒臭いとカップラーメンとかですね。家で食べると怒られたので自由っていいですね」

 思い返せば昼は購買で買っていたようだった。紗菜には想像できない不健康な生活だ。かと言って同情すべきではないと紗菜は自分に言い聞かせた。それまでの生活についても触れるべきではない。触れてしまったら最後、彼の術中にはまってしまう気がしたのだ。


 * * *


 どうして、こんなにも追い詰められた気持ちになっているのか。
 買い物を終え、紗菜は落ち着かない気持ちで慣れないキッチンで料理をしている。
 片づいているというよりも物がない晃の家は家電や調理器具、食器などは最低限揃っていたが、あまり使われている形跡がない。
 アイランドキッチンの向かいで椅子に座った晃は何が楽しいのか、ずっと笑みを浮かべている。そんな彼にじっと見つめられているからこそ紗菜は妙に緊張してしまうのだ。それでも集中しなければ調理中は危険なこともある。

「あぁ……本当に幼妻って感じでいいですね」

 うっとりと呟かれて紗菜は必死に聞かないフリをすることにした。構っているほどの余裕があるわけでもない。
 買い物だけで辛かったというのに、彼が用意していた白いフリルエプロンをつけさせられて『新婚さんごっこ』は継続中なのだ。

「あー、でも、メイドさんっぽくもあって、たまらないですね。ご奉仕してほしくなっちゃいます」

 晃がそう言うのは紗菜の服のせいだろう。白いレースの襟がついたシンプルな黒のワンピースを選んだのは大失敗だったのかもしれない。
 晃が「きっと私服も可愛いんでしょうね」などと言ったせいで紗菜は昨晩服選びに難儀したのだ。一番のお気に入りを着てデートに気合いが入っていると思われたくもなかったが、可愛くないからと余計な要求をされるのも嫌だった。ただでさえ憂鬱で仕方がなかったというのに、おかげでろくに眠れていない。
 こんなエプロンが用意されているのは想定外だったが、彼が喜んで満足してくれるのなら良いのかもしれない。
 だから耐えるしかないのだと自分に言い聞かせた瞬間に響いた音に驚いて紗菜が晃の方を見れば再びカシャッと音がする。彼はスマートフォンを構えていて、それはシャッター音に違いなかった。

「と、撮らないで……!」
「いいじゃないですか、エッチなやつじゃないですし」
「う……」

 こともなげに言い放つ晃に紗菜は何も言い返せなくなって迷ってしまった。そもそも写真を撮られることが好きではないのだが、要求がエスカレートしても困るのだ。また卑猥なことを強要されて写真をされるくらいならば、この程度のことは黙認すべきなのかもしれない。

「それとも、ハメ撮りさせてくれます?」
「はめ……?」
「先輩にハメながら撮るんですよ。先輩の処女喪失セックス撮っておけば一生抜けたと思うんですよね」
「なっ……」

 あまりに卑猥なことに紗菜は言葉を失った。盗撮写真を消してもらうために処女を失ってしまったというのに更に撮影をされていたらと思うと恐ろしくてたまらなかった。今だって自分を守るために耐えているのだ。

「オカズは多い方がいいですし、俺はこれでも十分抜けるんで。いいですよね?」

 そう言われてしまえば紗菜はもう拒否することもできず、ただ頷くしかなかった。
 それよりも今は調理に集中する必要がある。一体何枚撮れば気が済むのかカシャカシャと響く音を聞きながら紗菜は諦めることにした。

「本当に楽しみです」

 晃が本当に楽しげであるのが紗菜には恨めしくてたまらない。失敗したらどうしようかとプレッシャーが大きいのだ。

「あんまり期待しないで……」

 期待の眼差しで見られて撮影されているのも紗菜としては落ち着かないが、手伝うと言われたのも断ったのだ。料理をしている間は晃に触れられずに済むからなのだが、いつまでもゆっくりしているわけにもいかなかった。


 * * *
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