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第二章
侵食される日常 8
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気まずい昼食を終え、そそくさと洗い物を始めた紗菜は晃が近付いてくる気配に身を固くした。彼の家に二人っきりだということを考えると、どうしても警戒せずにはいられなかった。
「全部俺がやりますよ。先輩は休んでてください」
「いいの……すぐ終わるから、待ってて」
性的なことを除けば晃はとても優しく、気遣いができる男だった。尤も、セックスの最中も決して乱暴ではなかったが、紗菜の意思を無視したことは間違いない。
だから、紗菜は晃に背後に立たれると怖いのだ。彼は何をしてくるかわからない。
「すぐやめてくれないなら悪戯しちゃいますよ?」
「きゃっ……!」
言われた瞬間に洗いかけの食器をシンクに置いて手についた泡を落とそうとしたのだが、突然体を包み込まれる感覚に紗菜は慌てた。
「や、やめたから……!」
訴えるものの、後ろから回された腕に更に力がこもる。ギュッと抱き締められると小さな紗菜はすっぽりと晃の腕の中に収まってしまう。しかしながら、安心感は全くない。彼こそが紗菜にとって最も危険な男であるからだ。
「少しぐらいイチャイチャさせてくださいよ。せっかく一緒にいるのに全然触れないなんて寂しすぎます」
「今日はそういうことしないんじゃ……」
言い掛けて紗菜はまた自分が騙されたのだと悟った。きっと思い込んでいただけなのだろう。
頭に顎を乗せられて晃の重みを感じながら、紗菜の気分は更に沈み込んでいくようだった。
「これくらいいいじゃないですか。彼女なんですし。可愛い年下彼氏のじゃれつきですよ?」
「か、可愛くない……!」
紗菜にとっては破綻した条件だったが、晃はそれを存分に行使してくる。自由にする理由を与えてしまっただけだ。それが恨めしくて紗菜は思わず反論していた。
年下とは言うが、紗菜からすれば態度もサイズも可愛げがないのだ。
「あー、そんなこと言われると傷ついちゃいますよ?」
「ひぅっ……」
どこか不穏に感じる低い声を耳に吹き込まれるのが紗菜は苦手だった。弱点である上に先日晃にされたことを思い出さずにはいられなくなるからだ。
「勝手に触られるの、嫌だから……」
これ以上彼の好きに触らせてしまったら、また悪戯が悪化してしまう。そんな危機感で紗菜は身をよじりながら訴えるが、晃の腕の力はまるで緩まなかった。
「緊張します? ガチガチじゃないですか」
晃は笑うが、大きな手にするりと撫でられるほどに紗菜の体は石にでもなっていくようだった。いっそ本当に石になれたなら良かっただろうか。
「リラックスして、俺に身を任せてください。気持ちいいことしかしませんから」
「しないで……」
警戒せずにいられないのは晃のせいだと言うのに、その腕の中で力を抜けるはずもない。
彼女なら意思を尊重すると言った彼は結局のところ口先だけの男だ。紗菜が嫌がったところで何かと理由を付けて自分がしたいようにする。
わかっていても最早彼の腕の中に囚われて決して逃れることができないのだ。
「俺の愛情表現です。素直に受け取ってくださいよ」
晃が軽々しく口にする愛が本物でないと知っているからこそ紗菜は薄暗く冷めた気持ちになっていく。愛があれば良いというわけではないのだ。
「俺、急にデザートが食べたくなっちゃったんです」
「コンビニで買ってくればいいでしょ……?」
買い物をした時にデザートコーナーに立ち寄って、好きな物を買って良いと言われても紗菜はそんな気分になれずに断った。彼もいらないと言ったはずだった。だが、気分が変わったならば買える場所はすぐ近くにある。
「紗菜先輩がいいんです。甘い匂いがして……凄く美味しそうです」
「ひっ……!」
まるで味見をするようにペロリと耳を舐められて紗菜は震えた。単にその感触だけではない。先日のこともあって、紗菜には望まぬ行為の前触れのように感じられたのだ。
「全部俺がやりますよ。先輩は休んでてください」
「いいの……すぐ終わるから、待ってて」
性的なことを除けば晃はとても優しく、気遣いができる男だった。尤も、セックスの最中も決して乱暴ではなかったが、紗菜の意思を無視したことは間違いない。
だから、紗菜は晃に背後に立たれると怖いのだ。彼は何をしてくるかわからない。
「すぐやめてくれないなら悪戯しちゃいますよ?」
「きゃっ……!」
言われた瞬間に洗いかけの食器をシンクに置いて手についた泡を落とそうとしたのだが、突然体を包み込まれる感覚に紗菜は慌てた。
「や、やめたから……!」
訴えるものの、後ろから回された腕に更に力がこもる。ギュッと抱き締められると小さな紗菜はすっぽりと晃の腕の中に収まってしまう。しかしながら、安心感は全くない。彼こそが紗菜にとって最も危険な男であるからだ。
「少しぐらいイチャイチャさせてくださいよ。せっかく一緒にいるのに全然触れないなんて寂しすぎます」
「今日はそういうことしないんじゃ……」
言い掛けて紗菜はまた自分が騙されたのだと悟った。きっと思い込んでいただけなのだろう。
頭に顎を乗せられて晃の重みを感じながら、紗菜の気分は更に沈み込んでいくようだった。
「これくらいいいじゃないですか。彼女なんですし。可愛い年下彼氏のじゃれつきですよ?」
「か、可愛くない……!」
紗菜にとっては破綻した条件だったが、晃はそれを存分に行使してくる。自由にする理由を与えてしまっただけだ。それが恨めしくて紗菜は思わず反論していた。
年下とは言うが、紗菜からすれば態度もサイズも可愛げがないのだ。
「あー、そんなこと言われると傷ついちゃいますよ?」
「ひぅっ……」
どこか不穏に感じる低い声を耳に吹き込まれるのが紗菜は苦手だった。弱点である上に先日晃にされたことを思い出さずにはいられなくなるからだ。
「勝手に触られるの、嫌だから……」
これ以上彼の好きに触らせてしまったら、また悪戯が悪化してしまう。そんな危機感で紗菜は身をよじりながら訴えるが、晃の腕の力はまるで緩まなかった。
「緊張します? ガチガチじゃないですか」
晃は笑うが、大きな手にするりと撫でられるほどに紗菜の体は石にでもなっていくようだった。いっそ本当に石になれたなら良かっただろうか。
「リラックスして、俺に身を任せてください。気持ちいいことしかしませんから」
「しないで……」
警戒せずにいられないのは晃のせいだと言うのに、その腕の中で力を抜けるはずもない。
彼女なら意思を尊重すると言った彼は結局のところ口先だけの男だ。紗菜が嫌がったところで何かと理由を付けて自分がしたいようにする。
わかっていても最早彼の腕の中に囚われて決して逃れることができないのだ。
「俺の愛情表現です。素直に受け取ってくださいよ」
晃が軽々しく口にする愛が本物でないと知っているからこそ紗菜は薄暗く冷めた気持ちになっていく。愛があれば良いというわけではないのだ。
「俺、急にデザートが食べたくなっちゃったんです」
「コンビニで買ってくればいいでしょ……?」
買い物をした時にデザートコーナーに立ち寄って、好きな物を買って良いと言われても紗菜はそんな気分になれずに断った。彼もいらないと言ったはずだった。だが、気分が変わったならば買える場所はすぐ近くにある。
「紗菜先輩がいいんです。甘い匂いがして……凄く美味しそうです」
「ひっ……!」
まるで味見をするようにペロリと耳を舐められて紗菜は震えた。単にその感触だけではない。先日のこともあって、紗菜には望まぬ行為の前触れのように感じられたのだ。
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