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第二章
侵食される日常 10
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「好きでもないのに……」
紗菜がぽつりと呟けば晃の手がぴたりと止まる。しかし、抜け出すことはできそうになかった。
「俺のこと好きになればいいじゃないですか」
「私のこと好きなわけじゃないくせに」
晃は簡単に言うが、紗菜にとっては簡単なことではない。何より彼自身が本気で自分を好きなわけではないと紗菜はわかっている。友人達に見せたのは演技でしかない。彼は病的に人を騙すのが上手いのだ。
「先輩が俺のこと好きになってくれたら俺も好きになるんじゃないですかね? 先輩可愛いし、料理上手だし、エッチの相性もいいし」
可愛い女の子は大好きです――そう言った彼の『可愛い』には大して意味がないことも紗菜は知っている。舞い上がりもしないし、最後は紗菜にとって喜べる理由ではない。
「あっ、もしかして、先輩じゃないと興奮しなくなったのって、先輩に一目惚れしちゃったってことですかね? もしかして、俺、先輩に夢中ですか?」
不意に気付いたように晃は言うが、紗菜に聞かれても困ることだった。彼にしかわからないことだ。
だが、晃は本当に不思議そうで、こればかりは冗談で言っているのではないのかもしれなかった。
「ちゃんと恋したことないの……?」
本当にわからないのかもしれない。そう思ったからこそ紗菜は恐る恐る問いかけてみる。
紗菜には恋愛がわからないが、晃は経験豊富なはずだった。あるに決まっている、そんな答えが返ってくるはずだった。
「あっ、俺のこと気になっちゃいました?」
真面目に聞いたつもりだったが、茶化すような声が紗菜にはショックだった。また演技に騙されてしまったのだろうか。同情を引く作戦にまんまとはまってしまったのかもしれない。
「俺を夢中にさせた責任とってくださいよ」
「……ひゃうっ!」
何も言えずに黙りこくった紗菜に焦れたのか、晃の手が再びいやらしく動き始める。不意を突かれてはどうすることもできない。その手をつねってみても無駄だった。
「これだけ敏感だったら乳首だけでイケるようになるんじゃないですか? 試させてくれません?」
「今日は絶対しないからぁっ……!」
晃が言うことを紗菜は全て理解できるわけではないが、簡単なことではないのだと察することはできた。
だから、今度こそ彼の言いなりにはならない。そんな意思を紗菜ははっきりと示したつもりだった。
「生理ですか? もしかして、おっぱい触ると痛いですか?」
不意に止まった手に紗菜は戸惑う。様子を窺うような声音に混乱する。本当に心配しているのだろうか。
「違う、けど……」
「ははっ、先輩は正直ですね。いい子です」
咄嗟に答えてしまった瞬間に笑われて紗菜ははっとする。正直者が馬鹿を見るのか。嘘でもそうだと言ってしまえば今日はもう触れられずに済んだのかもしれない。だが、その場しのぎは自分の首を絞めることになるだろう。
結局、彼の手に翻弄されることしかできないのか。
「大切な彼女の体のことはちゃんと知っておきたいですから」
「したいだけでしょ……?」
あまりの白々しさに紗菜は最早呆れることもできなかった。彼の気遣いは全てセックスをするためのものでしかないのだ。
「だって、しょうがないじゃないですか。エッチ大好きなんですから」
「ひぁっ!」
悪びれることなく言い放つ晃の指に胸の先端を擦られるだけで紗菜の体にはむず痒いような刺激が走る。不快だとも言い切れないが、こんなことを好きになれるとは思えない。紗菜にとっては後ろめたさを感じる行為を恥ずかしげもなく言い放つ晃はまるで宇宙人だった。自分の常識がまるで通用しないのだ。
「大好きな事を共有したいって思うのは先輩のことを好きな証じゃないですかね? 俺が大好きな事を先輩にも大好きになってほしいです。そうしたら凄く嬉しいです」
「なりたく、ないっ……!」
快楽を求めるだけのセックスを好きになることは紗菜には堕落にしか思えず、耐え難いことだった。彼に都合の良い解釈でしかなく、押しつけにすぎない。心の底からそうはなりたくないと思うからこそ必死に首を横に振ったが、晃に理解されるはずもなかった。
紗菜がぽつりと呟けば晃の手がぴたりと止まる。しかし、抜け出すことはできそうになかった。
「俺のこと好きになればいいじゃないですか」
「私のこと好きなわけじゃないくせに」
晃は簡単に言うが、紗菜にとっては簡単なことではない。何より彼自身が本気で自分を好きなわけではないと紗菜はわかっている。友人達に見せたのは演技でしかない。彼は病的に人を騙すのが上手いのだ。
「先輩が俺のこと好きになってくれたら俺も好きになるんじゃないですかね? 先輩可愛いし、料理上手だし、エッチの相性もいいし」
可愛い女の子は大好きです――そう言った彼の『可愛い』には大して意味がないことも紗菜は知っている。舞い上がりもしないし、最後は紗菜にとって喜べる理由ではない。
「あっ、もしかして、先輩じゃないと興奮しなくなったのって、先輩に一目惚れしちゃったってことですかね? もしかして、俺、先輩に夢中ですか?」
不意に気付いたように晃は言うが、紗菜に聞かれても困ることだった。彼にしかわからないことだ。
だが、晃は本当に不思議そうで、こればかりは冗談で言っているのではないのかもしれなかった。
「ちゃんと恋したことないの……?」
本当にわからないのかもしれない。そう思ったからこそ紗菜は恐る恐る問いかけてみる。
紗菜には恋愛がわからないが、晃は経験豊富なはずだった。あるに決まっている、そんな答えが返ってくるはずだった。
「あっ、俺のこと気になっちゃいました?」
真面目に聞いたつもりだったが、茶化すような声が紗菜にはショックだった。また演技に騙されてしまったのだろうか。同情を引く作戦にまんまとはまってしまったのかもしれない。
「俺を夢中にさせた責任とってくださいよ」
「……ひゃうっ!」
何も言えずに黙りこくった紗菜に焦れたのか、晃の手が再びいやらしく動き始める。不意を突かれてはどうすることもできない。その手をつねってみても無駄だった。
「これだけ敏感だったら乳首だけでイケるようになるんじゃないですか? 試させてくれません?」
「今日は絶対しないからぁっ……!」
晃が言うことを紗菜は全て理解できるわけではないが、簡単なことではないのだと察することはできた。
だから、今度こそ彼の言いなりにはならない。そんな意思を紗菜ははっきりと示したつもりだった。
「生理ですか? もしかして、おっぱい触ると痛いですか?」
不意に止まった手に紗菜は戸惑う。様子を窺うような声音に混乱する。本当に心配しているのだろうか。
「違う、けど……」
「ははっ、先輩は正直ですね。いい子です」
咄嗟に答えてしまった瞬間に笑われて紗菜ははっとする。正直者が馬鹿を見るのか。嘘でもそうだと言ってしまえば今日はもう触れられずに済んだのかもしれない。だが、その場しのぎは自分の首を絞めることになるだろう。
結局、彼の手に翻弄されることしかできないのか。
「大切な彼女の体のことはちゃんと知っておきたいですから」
「したいだけでしょ……?」
あまりの白々しさに紗菜は最早呆れることもできなかった。彼の気遣いは全てセックスをするためのものでしかないのだ。
「だって、しょうがないじゃないですか。エッチ大好きなんですから」
「ひぁっ!」
悪びれることなく言い放つ晃の指に胸の先端を擦られるだけで紗菜の体にはむず痒いような刺激が走る。不快だとも言い切れないが、こんなことを好きになれるとは思えない。紗菜にとっては後ろめたさを感じる行為を恥ずかしげもなく言い放つ晃はまるで宇宙人だった。自分の常識がまるで通用しないのだ。
「大好きな事を共有したいって思うのは先輩のことを好きな証じゃないですかね? 俺が大好きな事を先輩にも大好きになってほしいです。そうしたら凄く嬉しいです」
「なりたく、ないっ……!」
快楽を求めるだけのセックスを好きになることは紗菜には堕落にしか思えず、耐え難いことだった。彼に都合の良い解釈でしかなく、押しつけにすぎない。心の底からそうはなりたくないと思うからこそ必死に首を横に振ったが、晃に理解されるはずもなかった。
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