【R18】お世話した覚えのない後輩に迫られました

Nuit Blanche

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第二章

侵食される日常 13

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「あぁ……裸エプロンとか正直あんまり興味なかったんですけど、いいものですね。先輩が可愛いからですかね?」
「うぅ……」

 恍惚と呟く晃の視線を痛いほどに感じる。エプロンと靴下だけを残された紗菜は自らの体を抱くようにするが、最早どこを隠せば良いのかもわからない。
 既に裸を見られているからと言って平気ではない。前は恥ずかしい部分が隠れていても後ろはそうではない。薄い布地はあまりに心許なく、余計に恥ずかしい。
 穴があるなら入りたい。この場から消えてしまいたい。そんな心境だ。

「可愛いからよく見せてくださいよ」

 そうは言われても素直に見せることが紗菜にできるはずもない。あまりに卑猥な格好だ。

「心配しなくても、この格好で料理しろなんて言いませんよ。危ないですしね。恥ずかしがり屋な先輩に対する俺の優しさです」

 心配などしていないというのに、彼は本気で言っているのだろうか。本当に優しい人間は盗撮写真で脅すようなまねは絶対にしない。それでも紗菜は後輩に反論することさえできないのだ。

「何か言いたそうですね?」

 晃はきっと紗菜が何を言いたいのかわかっているのだろう。それなのに、意地悪く言うのだ。紗菜が言えないこともわかっていながら。

「恥ずかしいから……やるなら、早くして……」

 消え入りそうな声で紗菜は訴える。自ら強請ったとは思われたくないが、このままの状態が続くのは拷問のようなものだった。

「そうですね。座らせてあげようと思ってこっちに来たんでした。俺も早く先輩に触りたいです」

 触られたくないというのが本音だが、条件を呑んでしまったのだ。
 シンプルなレザーのソファーにはお洒落な柄のラウンドタオルがカバーのようにかけられている。どうぞ、と促されてそっと座った紗菜はひどくいけないことをしているような気分になった。しかし、紗菜を見下ろす晃は恍惚とした表情を浮かべている。

「あぁ……いいですね。写真、撮っちゃダメですか? M字開脚しろとは言いませんから。俺、そこまで露骨なの好きなわけじゃないんで」
「だ、だめっ……!」

 こんな姿は裸と変わらない。料理中の姿を撮られることとは訳が違う。慌てて首を横に振った紗菜に晃が「残念です」と笑う。本当に残念がっているのかはわからないものだ。

「じゃあ、楽しませてもらいますね」

 晃がぴったりと隣に座ると紗菜は固まるしかなかった。視線は痛いほどに感じるが、彼の方を見ることもできない。横にずれることで逃げようとしても肩に回された手が許さない。
 そうして、もう片方の手に頤を持ち上げられ、いよいよ逃れられないのだと思い知った。
 その視線を真っ向から受けることも逸らすこともできずにギュッと目を閉じれば同時に力がこもった唇に柔らかく濡れた感触が触れる。それが何なのか、もうわからないとは言えない。わかるからこそ紗菜は余計に唇を結ぶ。

「口、開けてください」

 指先でノックするようにトントンと唇に触れられて紗菜は首を横に振る。開かせて彼が何をしようとしているのかを察するのは難しいことではない。
 また、あんなキスをされてしまったら――紗菜にとっては考えたくないことだった。

「キス、したいんです」
「っ……!」

 しなくても良いはずだ。する必要がない。そう思っていたが、ペロリと唇を舐められた感触にゾクリと震えて紗菜は恐る恐る目を開ける。

「す、擦るだけでしょ……?」
「準備が必要なんです」
「準備って……」

 もう濡れているとは言えない。否定したい気持ちは消えない。
 結局のところ、すぐ終わるのか終わらないのか。不安でいっぱいになる紗菜をよそに晃はやはり楽しげである。

「だって、ラブラブな気分を味わいたいじゃないですか」

 晃の顔があまりに近くて紗菜は落ち着かないというのに、彼はぬけぬけと言い放つ。
 そんな気分になれるはずもない関係だ。愛など存在しない、体だけの関係だということは始めた彼がよくわかっているはずだ。

「もっとトロトロになってくれないと俺、簡単には満足しませんよ?」
「うぅ……」

 初めての時に思い知らされたからこそ紗菜は言葉に困って怯む。
 散々攻め立てられて頭がおかしくなりそうで怖くて帰りたい一心で彼の提案を受け入れてしまったから、こんなことになってしまっているのだ。

「だから、ムードを大事にして可愛い彼女といっぱいチューしたいです。ダメですか?」

 ねだる眼差しでじっと見つめられて紗菜は何の音も発することができなくなってしまった。
 ムードなど必要ない。けれども、身に危機が及んでいてもダメとは言えない自分が恨めしかった。
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