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第二章
侵食される日常 12
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ソファーの前で紗菜が晃の手によってショーツを下ろされるのはあっという間だった。反射的に止めようとするのも間に合わずに呆気なくスルスルと落とされてしまった。
「服もグチャグチャになったり汚れたりしたら困りますよね?」
耳元で問いかけられて紗菜は俯いたまま答えられなかった。困るが、脱ぎたくはないのだ。そうして足下で丸まった下着が視界に入ると居たたまれない気持ちでいっぱいになったが。
彼の手は既に背中のファスナーにかかっている。どうせ、すぐに脱がす気なのだ。
「俺は着たままの方が好きなんですけど、先輩が困りますよね?」
あくまで同意を得ようとしているのだろうが、紗菜としてはそんなことは聞きたくなかった。彼の趣味など知りたくもないのだ。
「今度可愛い服買ってあげますね」
「いらない……」
買った服を着せたまましようとでも言うのか。良からぬものを感じて紗菜はふるふると首を横に振る。身内以外の他人、それも異性から服を買ってもらうことなど考えられなかった。恋人気分なのは彼だけであり、学生でもある。紗菜にとっては『ありえない』以外の何物でもなかったが、晃は楽しげに続ける。
「写真集作れるくらいファッションショーしましょうよ」
「しない……!」
どれほど服を買うつもりなのか。着せかえ人形にされて撮影までされる。考えて紗菜はぞっとした。服を着るだけなら簡単に思えるが、本当にそれだけで済むとは限らない。何よりも、それが画像として残ってしまうのだ。
「オカズ量産しましょう? 先輩のためですよ?」
つまり写真をそういうことに使うのだということだ。
いかにも紗菜のためであるように囁いてくる晃だが、彼は善人ではない。優しく甘く感じる言葉を信じても裏切られるのだ。
わかっているからこそ、紗菜は再び首を横に振った。
「じゃあ、今たっぷり楽しませてくださいね?」
「あっ……!」
紗菜が油断した隙にファスナーがスムーズに最後まで下ろされて紗菜は慌てる。
そうしている間にも晃はブラジャーのホックさえ外してしまう。そうなればもう後は果物の皮でも剥くかのように容易く脱がされてしまいそうで紗菜はギュッと前を押さえずにはいられなかった。
「ひゃう!」
不意にチュッと音を立てて項に口づけられれば前回の記憶が蘇る。そこは紗菜の弱点とも言えた。それでも押さえる手を緩めまいとするが、晃の手は肩にかかっていたストラップやワンピースを落としていく。
「服、グチャグチャドロドロになって帰れなくなってもいいんですか? 俺は構わないですけど」
「やっ……」
良くないが、脱がされるのもまた困るのだ。
この前もまだ明るかったとは言っても夕方だった。レースのカーテンがあるとは言っても、こんな真っ昼間から、こんな場所で裸にされるのは紗菜にとっては考えられないことだった。
「そんなに恥ずかしがるなんて先輩は本当にウブって言うか何て言うか……」
もう初めてじゃないのに――そう耳に吹き込まれた瞬間に紗菜の背中をゾクリと駆け上がるものがあった。
紗菜にとって大事だった『初めて』を奪ったのは他の誰でもなく彼だ。そうして今も紗菜を弄んでいる。
全ては彼のせいだ。それなのに、彼は紗菜のせいであるように言う。悔しさも悲しさもあるが、今はただ恥ずかしさが勝っていた。
「俺も脱ぎましょうか? 二人で脱げば恥ずかしくないですよ。見せ合った仲ですし、ね?」
ゾッとする提案を振り払うように紗菜は余計に頑なになって首を横に振る。心から同意したことではない。勝手に見られ、見せられただけにすぎない。それをさも自分も楽しんだように言われたくはなかった。
「それとも、ベッドがいいですか? ベッド行ったらうっかり我慢できなくなっちゃいそうで、先輩のためを思って、こっちにしてあげたんですけど」
なぜ、こんな場所でするのかという疑問はあった。紗菜にとっては秘められるべき行為であり、寝室で行われることであり、様々な場所で楽しむようなことではない。潔癖なのかもしれないが、キッチンで触れられたことさえ紗菜には耐え難かった。
「でも、焦らされれば焦らされるほど、燃え上がっちゃうってこともありますよね」
ならば、どうすれば良いのか。紗菜には正解がわからない。彼の心理など理解できるものではないのだ。
「どうしても恥ずかしいならエプロンだけ残してあげますから。ね?」
妥協したつもりなのだろうか。それだけ残されても、と思いながらも紗菜はそのまま晃に促されて服を脱がされていくしかなかった。
「服もグチャグチャになったり汚れたりしたら困りますよね?」
耳元で問いかけられて紗菜は俯いたまま答えられなかった。困るが、脱ぎたくはないのだ。そうして足下で丸まった下着が視界に入ると居たたまれない気持ちでいっぱいになったが。
彼の手は既に背中のファスナーにかかっている。どうせ、すぐに脱がす気なのだ。
「俺は着たままの方が好きなんですけど、先輩が困りますよね?」
あくまで同意を得ようとしているのだろうが、紗菜としてはそんなことは聞きたくなかった。彼の趣味など知りたくもないのだ。
「今度可愛い服買ってあげますね」
「いらない……」
買った服を着せたまましようとでも言うのか。良からぬものを感じて紗菜はふるふると首を横に振る。身内以外の他人、それも異性から服を買ってもらうことなど考えられなかった。恋人気分なのは彼だけであり、学生でもある。紗菜にとっては『ありえない』以外の何物でもなかったが、晃は楽しげに続ける。
「写真集作れるくらいファッションショーしましょうよ」
「しない……!」
どれほど服を買うつもりなのか。着せかえ人形にされて撮影までされる。考えて紗菜はぞっとした。服を着るだけなら簡単に思えるが、本当にそれだけで済むとは限らない。何よりも、それが画像として残ってしまうのだ。
「オカズ量産しましょう? 先輩のためですよ?」
つまり写真をそういうことに使うのだということだ。
いかにも紗菜のためであるように囁いてくる晃だが、彼は善人ではない。優しく甘く感じる言葉を信じても裏切られるのだ。
わかっているからこそ、紗菜は再び首を横に振った。
「じゃあ、今たっぷり楽しませてくださいね?」
「あっ……!」
紗菜が油断した隙にファスナーがスムーズに最後まで下ろされて紗菜は慌てる。
そうしている間にも晃はブラジャーのホックさえ外してしまう。そうなればもう後は果物の皮でも剥くかのように容易く脱がされてしまいそうで紗菜はギュッと前を押さえずにはいられなかった。
「ひゃう!」
不意にチュッと音を立てて項に口づけられれば前回の記憶が蘇る。そこは紗菜の弱点とも言えた。それでも押さえる手を緩めまいとするが、晃の手は肩にかかっていたストラップやワンピースを落としていく。
「服、グチャグチャドロドロになって帰れなくなってもいいんですか? 俺は構わないですけど」
「やっ……」
良くないが、脱がされるのもまた困るのだ。
この前もまだ明るかったとは言っても夕方だった。レースのカーテンがあるとは言っても、こんな真っ昼間から、こんな場所で裸にされるのは紗菜にとっては考えられないことだった。
「そんなに恥ずかしがるなんて先輩は本当にウブって言うか何て言うか……」
もう初めてじゃないのに――そう耳に吹き込まれた瞬間に紗菜の背中をゾクリと駆け上がるものがあった。
紗菜にとって大事だった『初めて』を奪ったのは他の誰でもなく彼だ。そうして今も紗菜を弄んでいる。
全ては彼のせいだ。それなのに、彼は紗菜のせいであるように言う。悔しさも悲しさもあるが、今はただ恥ずかしさが勝っていた。
「俺も脱ぎましょうか? 二人で脱げば恥ずかしくないですよ。見せ合った仲ですし、ね?」
ゾッとする提案を振り払うように紗菜は余計に頑なになって首を横に振る。心から同意したことではない。勝手に見られ、見せられただけにすぎない。それをさも自分も楽しんだように言われたくはなかった。
「それとも、ベッドがいいですか? ベッド行ったらうっかり我慢できなくなっちゃいそうで、先輩のためを思って、こっちにしてあげたんですけど」
なぜ、こんな場所でするのかという疑問はあった。紗菜にとっては秘められるべき行為であり、寝室で行われることであり、様々な場所で楽しむようなことではない。潔癖なのかもしれないが、キッチンで触れられたことさえ紗菜には耐え難かった。
「でも、焦らされれば焦らされるほど、燃え上がっちゃうってこともありますよね」
ならば、どうすれば良いのか。紗菜には正解がわからない。彼の心理など理解できるものではないのだ。
「どうしても恥ずかしいならエプロンだけ残してあげますから。ね?」
妥協したつもりなのだろうか。それだけ残されても、と思いながらも紗菜はそのまま晃に促されて服を脱がされていくしかなかった。
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