26 / 37
踏み出す一歩4
しおりを挟む
放課後、光希の動きは素早いものだった。
真っ直ぐに希彩のところへ向かってきて咲子をうんざりさせたものだ。
「また一緒に帰れるってことだよね?」
「う、うん……」
そうなのだろう。希彩こそ誰かに確認したいくらいだ。前に戻るということは、一人でとぼとぼと帰らなくて良くなるのか。
友達ならば、当たり前に一緒に帰って良いのか。
「手、繋ぐのはダメ?」
差し出された光希の手を希彩はじっと見る。
「と、友達だもん」
「そう、じゃあ、付き合うまでお預けね」
付き合っても絶対に恥ずかしくてできそうにない。希彩は光希と付き合って手を繋ぐ姿を想像することができなかった。
「あんたがベタ惚れなんて気持ち悪い」
「藤村、ほんと敵か味方かわからないよね。困らないけど」
本人にはっきりと言い放つ咲子もそうだが、彼女の冷たい言葉にも一切動じない光希もさすがだと希彩は思っている。
「希彩、いい? 何かされそうになったら全力で急所蹴り飛ばして逃げるのよ」
「はいはい、あとは俺に任せて部活行ってよ」
咲子はまだ何かを言いたげだったが、光希はぐいぐいと希彩の手を引く。
「この瞬間をどれほど待ったことか……希彩ちゃんが足りなくて死にそうだったよ」
二人で歩き始めて光希が口を開く。彼も寂しいと思っていたのだろうか。
「希彩ちゃんが望むなら友達付き合いだって楽しんであげる」
そうやって笑う光希にドキドキしながら、ふと希彩は思う。
「なんか、光希君、変わった?」
そんな気がするのは、きっと前の彼が少し怖かったからだ。決して良い出会い方をしたわけではない。けれども、今は毒が抜けたようだ。
「変わったのは希彩ちゃんの方だと思うけどな」
自分が本当に変われているのか、希彩にはわからないが、光希がそう思ってくれているのだとしたら嬉しいものだった。
「それに、もう脅しは必要ないでしょ?」
何かされるかもしれない。前はそう思ったからこそ、より平和な方を選ぼうとしていたが、今の光希はそんなことをしないだろう。
「俺が真っ直ぐ希彩ちゃんに向かっていっても、もう逃げないでしょ?」
「もう逃げるのはやめるって決めたから」
希彩は頷く。隠れもしない。
それでも、光希には見付けられてしまうかもしれないと思うし、見付けてほしいのかもしれない。
「まあ、俺も変われたなら、希彩ちゃんのおかげだよ。俺だって、真面目になれるってこと」
光希の真面目とはどんなものだろうか。声に出さないまま希彩は考える。
「ちょっと、俺の真面目を疑わないでってば」
些か疑問を抱いたことに気付いたらしい光希は希彩の頬をつつく。
だが、遊び人って言われていたような男だ。今も変わらない格好は真面目とは言い難い。
「ねぇ、日曜、空いてる? それとも、藤村にでもとられた?」
「ううん、空いてるよ」
話を変えようとするような光希の問いに希彩は素直に答えていた。
土日に積極的に一人で出かけるようなタイプでもなく、咲子とのショッピングもまだ明確な予定ではない。
「じゃあ、デートしようか」
「デート?」
「そうそう、デート。まあ、まずは映画でも観ようか」
「映画……!」
デートと言われれば抵抗感はあったが、映画と言われれば反応してしまうのは仕方がない。希彩は映画が好きで遼とも家でよく観たものだ。
「何が観たいかは希彩ちゃんが決めてね」
「い、いいの?」
「もちろん。って、もう決まってるって顔だね」
「う、うん……観たいのがあって」
希彩は密かに公開を楽しみにしていた映画があった。一人で映画に行く勇気もなければ、一緒に観てくれるような友人もおらず、ディスクの発売を待つつもりだったのだが。
「じゃあ、それにしよう」
「でも、光希君がああいうの好きか……」
「俺は希彩ちゃんが好きな物を一緒に観て、知りたい」
自分のことを真剣に思ってくれているのだろうか。そんな光希の言葉が希彩には嬉しかった。
「デート楽しみにしてるから」
駅に着いて、光希が言う。
「わ、私も、楽しみだよ?」
「映画が、じゃなくて?」
希彩はギクリとした。映画が楽しみなのは事実だ。
光希とデートだと想うとどうしたら良いのかわからなくて、緊張するのだ。
「いいよ、それでも。チャンスがあるなら」
頭を撫でられ、気付けば光希の顔が近い。
「俺、本当に君が好きだよ。じゃあ、また明日」
ニコリと微笑まれ、それだけだった。
けれども、顔がどうしようもなく熱くなるのを感じ、希彩は光希が離れて行くのをただぼんやりと見ていた。
真っ直ぐに希彩のところへ向かってきて咲子をうんざりさせたものだ。
「また一緒に帰れるってことだよね?」
「う、うん……」
そうなのだろう。希彩こそ誰かに確認したいくらいだ。前に戻るということは、一人でとぼとぼと帰らなくて良くなるのか。
友達ならば、当たり前に一緒に帰って良いのか。
「手、繋ぐのはダメ?」
差し出された光希の手を希彩はじっと見る。
「と、友達だもん」
「そう、じゃあ、付き合うまでお預けね」
付き合っても絶対に恥ずかしくてできそうにない。希彩は光希と付き合って手を繋ぐ姿を想像することができなかった。
「あんたがベタ惚れなんて気持ち悪い」
「藤村、ほんと敵か味方かわからないよね。困らないけど」
本人にはっきりと言い放つ咲子もそうだが、彼女の冷たい言葉にも一切動じない光希もさすがだと希彩は思っている。
「希彩、いい? 何かされそうになったら全力で急所蹴り飛ばして逃げるのよ」
「はいはい、あとは俺に任せて部活行ってよ」
咲子はまだ何かを言いたげだったが、光希はぐいぐいと希彩の手を引く。
「この瞬間をどれほど待ったことか……希彩ちゃんが足りなくて死にそうだったよ」
二人で歩き始めて光希が口を開く。彼も寂しいと思っていたのだろうか。
「希彩ちゃんが望むなら友達付き合いだって楽しんであげる」
そうやって笑う光希にドキドキしながら、ふと希彩は思う。
「なんか、光希君、変わった?」
そんな気がするのは、きっと前の彼が少し怖かったからだ。決して良い出会い方をしたわけではない。けれども、今は毒が抜けたようだ。
「変わったのは希彩ちゃんの方だと思うけどな」
自分が本当に変われているのか、希彩にはわからないが、光希がそう思ってくれているのだとしたら嬉しいものだった。
「それに、もう脅しは必要ないでしょ?」
何かされるかもしれない。前はそう思ったからこそ、より平和な方を選ぼうとしていたが、今の光希はそんなことをしないだろう。
「俺が真っ直ぐ希彩ちゃんに向かっていっても、もう逃げないでしょ?」
「もう逃げるのはやめるって決めたから」
希彩は頷く。隠れもしない。
それでも、光希には見付けられてしまうかもしれないと思うし、見付けてほしいのかもしれない。
「まあ、俺も変われたなら、希彩ちゃんのおかげだよ。俺だって、真面目になれるってこと」
光希の真面目とはどんなものだろうか。声に出さないまま希彩は考える。
「ちょっと、俺の真面目を疑わないでってば」
些か疑問を抱いたことに気付いたらしい光希は希彩の頬をつつく。
だが、遊び人って言われていたような男だ。今も変わらない格好は真面目とは言い難い。
「ねぇ、日曜、空いてる? それとも、藤村にでもとられた?」
「ううん、空いてるよ」
話を変えようとするような光希の問いに希彩は素直に答えていた。
土日に積極的に一人で出かけるようなタイプでもなく、咲子とのショッピングもまだ明確な予定ではない。
「じゃあ、デートしようか」
「デート?」
「そうそう、デート。まあ、まずは映画でも観ようか」
「映画……!」
デートと言われれば抵抗感はあったが、映画と言われれば反応してしまうのは仕方がない。希彩は映画が好きで遼とも家でよく観たものだ。
「何が観たいかは希彩ちゃんが決めてね」
「い、いいの?」
「もちろん。って、もう決まってるって顔だね」
「う、うん……観たいのがあって」
希彩は密かに公開を楽しみにしていた映画があった。一人で映画に行く勇気もなければ、一緒に観てくれるような友人もおらず、ディスクの発売を待つつもりだったのだが。
「じゃあ、それにしよう」
「でも、光希君がああいうの好きか……」
「俺は希彩ちゃんが好きな物を一緒に観て、知りたい」
自分のことを真剣に思ってくれているのだろうか。そんな光希の言葉が希彩には嬉しかった。
「デート楽しみにしてるから」
駅に着いて、光希が言う。
「わ、私も、楽しみだよ?」
「映画が、じゃなくて?」
希彩はギクリとした。映画が楽しみなのは事実だ。
光希とデートだと想うとどうしたら良いのかわからなくて、緊張するのだ。
「いいよ、それでも。チャンスがあるなら」
頭を撫でられ、気付けば光希の顔が近い。
「俺、本当に君が好きだよ。じゃあ、また明日」
ニコリと微笑まれ、それだけだった。
けれども、顔がどうしようもなく熱くなるのを感じ、希彩は光希が離れて行くのをただぼんやりと見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る
ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。
義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。
そこではじめてを経験する。
まゆは三十六年間、男性経験がなかった。
実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。
深海まゆ、一夜を共にした女性だった。
それからまゆの身が危険にさらされる。
「まゆ、お前は俺が守る」
偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。
祐志はまゆを守り切れるのか。
そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。
借金の取り立てをする工藤組若頭。
「俺の女になれ」
工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。
そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。
そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。
果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。
交際マイナス一日婚⁉ 〜ほとぼりが冷めたら離婚するはずなのに、鬼上司な夫に無自覚で溺愛されていたようです〜
朝永ゆうり
恋愛
憧れの上司と一夜をともにしてしまったらしい杷留。お酒のせいで記憶が曖昧なまま目が覚めると、隣りにいたのは同じく状況を飲み込めていない様子の三条副局長だった。
互いのためにこの夜のことは水に流そうと約束した杷留と三条だったが、始業後、なぜか朝会で呼び出され――
「結婚、おめでとう!」
どうやら二人は、互いに記憶のないまま結婚してしまっていたらしい。
ほとぼりが冷めた頃に離婚をしようと約束する二人だったが、互いのことを知るたびに少しずつ惹かれ合ってゆき――
「杷留を他の男に触れさせるなんて、考えただけでぞっとする」
――鬼上司の独占愛は、いつの間にか止まらない!?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる