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暑い日には
君の昔
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「そんなの見てもつまらないですって」
そうは言いながらも慶は実結が見たいと言えばアルバムを素直に見せてくれた。
あの後、もう一度部屋を訪れた彰が置いていった物だ。家族写真のアルバムである。それを三人で並んで見ている。とは言っても、見ているのは実結と和真であって、慶は実結を見ていると言った方が正しい。
「慶君、可愛い」
一番古いアルバムから開き、幼い慶の姿に実結は顔を綻ばせた。
「確かにこの頃は毒がない感じで可愛いな」
そんなことを言う和真にいつもならば『先輩に可愛いとか思われたくないです』などと言い返しただろうに今日の慶は大人しくなっていた。
実結達が次々とアルバムを見る間も慶は質問に答える以外は黙って実結を見詰めてくる。
初めの頃は三兄弟が仲良さそうに映っていたが、次第に険悪そうなものに変わっていった。三人が揃った写真も減っていた。慶も段々と大きくなるにつれて可愛らしさがなくなり、和真は「目つきが悪くなった」などと言うが、実結にはそんなことが言えるはずもない。
そして、中学校の制服を着た慶を見ても文化祭の時に会ったという記憶が蘇るわけでもなかった。
「そう言えば、実結先輩の中学の制服ってどんなでした?」
ふと慶がそんなことを聞いてくる。
「ツナギのだったよね?」
咄嗟に答えられない実結の代わりに和真が問いかけてきた。
「ツナギ……?」
「そ、そうです! ジャンパースカートの。やっぱり覚えてくれてたんですね……!」
慶は何やら難しい顔をしたが、実結は和真が覚えていてくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
「もちろん。一目惚れしたんだから忘れないよ」
そんな笑みに実結が見とれると、いつもならば慶が茶化してきた。だが、今日の慶はやはり様子がおかしい。
「じゃ、ジャンスカ!?」
「えっ?」
急に大きくなった声が響いて実結の方が驚いていたが、慶は珍しく興奮した様子で身を乗り出してきた。
「制服まだ持ってます? 持ってますよね? 当然、まだ着れますよね?」
「えっ?」
失礼なことを言われている気がするが、勢いに圧されて実結は言い返すことができなかった。
「おい、お前、今、何を考えた?」
「中学の制服着た実結先輩に『先輩』って呼ばれながらのプレイですけど……」
尋問するような和真に慶はどこか恥ずかしげに答える。彼に頬を染めるような羞恥心があったのかは甚だ疑問だが、実結はそれ以上突っ込むべきではないと感じた。被害に遭うのは自分なのだ。
「制服はあげちゃったから……」
「誰に? まさか男じゃないですよね?」
その目が少し怖いと感じて、実結は思わず和真の服の裾をぎゅっと掴む。そして、大丈夫だと言うように頭をぽんぽんと叩かれると安心できた。
「近所の女の子だよ? お母さんが約束してて……」
慶が何を考えているのか実結にはわからないが、母親同士で取引が行われていたのである。
「実結先輩の使用済み制服……俺だったら買い取ったのに……」
「慶、実結ちゃんがドン引きしてる」
ブツブツと言い出した慶を怖いと感じたのは事実である。実結にとっては不要品だが、慶にとっては違ったらしい。
「今度、写真、見せてあげるからね……?」
写真を見せるのは少し恥ずかしいが、着るよりはましだ。実結はそう思ったのだが、慶はそれでは納得できないらしい。
「じゃあ、俺が似たようなの用意します。だから、今度、それ着てヤらせてください」
「や、やだ……」
なぜ、それほどまでに制服に執着するのか実結には理解できないが、慶は至って真剣のようである。
助けを求めるように和真を見れば彼も顔をひきつらせているようである。
「なんか慶がめちゃくちゃヤバい奴に思えてきた……実結ちゃん、もっとこっちおいで。変態がうつっちゃうよ」
軽く引き寄せられて実結は少しくらりとして、そのまま和真に寄りかかってしまいたい気持ちだった。だが、慶の存在が実結にそれを許さない。
「心外ですね。実結先輩は何着ても可愛いですけど、やっぱり制服って特別じゃないですか!」
ぐっと拳を握り締めて慶は熱く語るが、実結にはあまり理解ができないものだった。
「それに、実結先輩はジャンスカが超似合うと思うんです。生で見たかった……!」
言われても嬉しくないのはなぜだろうか。性的な意図があるとわかっているからか。
実結はどうにかこの話題から抜け出そうと考えるが、上手い方法が思いつかずに苦笑いをするだけだ。
どうにも先ほどからぼーっとする感じがしているのだが、実結は気のせいだと思おうとしていた。エアコンが効いているはずなのに、暑く感じるのは慶が放つ熱気のせいなのか。いくら室内が冷えていても両側から人に挟まれているのだから暑さを感じてしまうのかもしれない。慶も和真も暑さを感じているように見えないからこそ実結は何となく言えずに何度も麦茶を口に運んでいた。
「俺の夢叶えてください!」
しっかりと手を握られてお願いされてしまってははねのけることも難しい。
「何なら俺も学ラン着ますよ? あー、そうしたらセーラー服もいいですね」
自分だけがコスチュームを着るというのは恥ずかしいが、慶も着るからと言ってハードルが下がるとは言い難い。
実結が頷かないとわかると慶はそっと実結の耳元に唇を寄せてきた。
「和真先輩にも着てもらうのはどうです?」
それは悪魔の囁きのようであった。ぼんやりとしながら実結は和真を見る。普段はブレザーの制服だが、学ランも違う魅力を感じるのかもしれない。
「俺をお前の変態趣味に巻き込むな」
「ひどい言いようですね。実結先輩のためなら着るんじゃないですか?」
「それは……あれ?」
言い掛けた言葉を切って、和真が首を傾げる。それを実結はぼんやりと見ていた。
「実結ちゃん、すごい顔赤いけど、恥ずかしいから? それとも、暑い?」
「温度もっと下げます?」
「ん……」
先ほどから実結が暑さを感じていたのは事実だ。実結のグラスはすっかり空になってしまっている。和真も慶もやはり涼しげで実結は不思議だった。
「熱出たとかじゃないよね?」
和真が顔を近付けてきたかと思えば、こつんと額がくっつく。
「ひぁんっ!」
普段ならばフリーズして赤くなっていただろう。しかし、和真の行動よりも変な声をあげてしまった自分に実結は驚いていた。
そうは言いながらも慶は実結が見たいと言えばアルバムを素直に見せてくれた。
あの後、もう一度部屋を訪れた彰が置いていった物だ。家族写真のアルバムである。それを三人で並んで見ている。とは言っても、見ているのは実結と和真であって、慶は実結を見ていると言った方が正しい。
「慶君、可愛い」
一番古いアルバムから開き、幼い慶の姿に実結は顔を綻ばせた。
「確かにこの頃は毒がない感じで可愛いな」
そんなことを言う和真にいつもならば『先輩に可愛いとか思われたくないです』などと言い返しただろうに今日の慶は大人しくなっていた。
実結達が次々とアルバムを見る間も慶は質問に答える以外は黙って実結を見詰めてくる。
初めの頃は三兄弟が仲良さそうに映っていたが、次第に険悪そうなものに変わっていった。三人が揃った写真も減っていた。慶も段々と大きくなるにつれて可愛らしさがなくなり、和真は「目つきが悪くなった」などと言うが、実結にはそんなことが言えるはずもない。
そして、中学校の制服を着た慶を見ても文化祭の時に会ったという記憶が蘇るわけでもなかった。
「そう言えば、実結先輩の中学の制服ってどんなでした?」
ふと慶がそんなことを聞いてくる。
「ツナギのだったよね?」
咄嗟に答えられない実結の代わりに和真が問いかけてきた。
「ツナギ……?」
「そ、そうです! ジャンパースカートの。やっぱり覚えてくれてたんですね……!」
慶は何やら難しい顔をしたが、実結は和真が覚えていてくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
「もちろん。一目惚れしたんだから忘れないよ」
そんな笑みに実結が見とれると、いつもならば慶が茶化してきた。だが、今日の慶はやはり様子がおかしい。
「じゃ、ジャンスカ!?」
「えっ?」
急に大きくなった声が響いて実結の方が驚いていたが、慶は珍しく興奮した様子で身を乗り出してきた。
「制服まだ持ってます? 持ってますよね? 当然、まだ着れますよね?」
「えっ?」
失礼なことを言われている気がするが、勢いに圧されて実結は言い返すことができなかった。
「おい、お前、今、何を考えた?」
「中学の制服着た実結先輩に『先輩』って呼ばれながらのプレイですけど……」
尋問するような和真に慶はどこか恥ずかしげに答える。彼に頬を染めるような羞恥心があったのかは甚だ疑問だが、実結はそれ以上突っ込むべきではないと感じた。被害に遭うのは自分なのだ。
「制服はあげちゃったから……」
「誰に? まさか男じゃないですよね?」
その目が少し怖いと感じて、実結は思わず和真の服の裾をぎゅっと掴む。そして、大丈夫だと言うように頭をぽんぽんと叩かれると安心できた。
「近所の女の子だよ? お母さんが約束してて……」
慶が何を考えているのか実結にはわからないが、母親同士で取引が行われていたのである。
「実結先輩の使用済み制服……俺だったら買い取ったのに……」
「慶、実結ちゃんがドン引きしてる」
ブツブツと言い出した慶を怖いと感じたのは事実である。実結にとっては不要品だが、慶にとっては違ったらしい。
「今度、写真、見せてあげるからね……?」
写真を見せるのは少し恥ずかしいが、着るよりはましだ。実結はそう思ったのだが、慶はそれでは納得できないらしい。
「じゃあ、俺が似たようなの用意します。だから、今度、それ着てヤらせてください」
「や、やだ……」
なぜ、それほどまでに制服に執着するのか実結には理解できないが、慶は至って真剣のようである。
助けを求めるように和真を見れば彼も顔をひきつらせているようである。
「なんか慶がめちゃくちゃヤバい奴に思えてきた……実結ちゃん、もっとこっちおいで。変態がうつっちゃうよ」
軽く引き寄せられて実結は少しくらりとして、そのまま和真に寄りかかってしまいたい気持ちだった。だが、慶の存在が実結にそれを許さない。
「心外ですね。実結先輩は何着ても可愛いですけど、やっぱり制服って特別じゃないですか!」
ぐっと拳を握り締めて慶は熱く語るが、実結にはあまり理解ができないものだった。
「それに、実結先輩はジャンスカが超似合うと思うんです。生で見たかった……!」
言われても嬉しくないのはなぜだろうか。性的な意図があるとわかっているからか。
実結はどうにかこの話題から抜け出そうと考えるが、上手い方法が思いつかずに苦笑いをするだけだ。
どうにも先ほどからぼーっとする感じがしているのだが、実結は気のせいだと思おうとしていた。エアコンが効いているはずなのに、暑く感じるのは慶が放つ熱気のせいなのか。いくら室内が冷えていても両側から人に挟まれているのだから暑さを感じてしまうのかもしれない。慶も和真も暑さを感じているように見えないからこそ実結は何となく言えずに何度も麦茶を口に運んでいた。
「俺の夢叶えてください!」
しっかりと手を握られてお願いされてしまってははねのけることも難しい。
「何なら俺も学ラン着ますよ? あー、そうしたらセーラー服もいいですね」
自分だけがコスチュームを着るというのは恥ずかしいが、慶も着るからと言ってハードルが下がるとは言い難い。
実結が頷かないとわかると慶はそっと実結の耳元に唇を寄せてきた。
「和真先輩にも着てもらうのはどうです?」
それは悪魔の囁きのようであった。ぼんやりとしながら実結は和真を見る。普段はブレザーの制服だが、学ランも違う魅力を感じるのかもしれない。
「俺をお前の変態趣味に巻き込むな」
「ひどい言いようですね。実結先輩のためなら着るんじゃないですか?」
「それは……あれ?」
言い掛けた言葉を切って、和真が首を傾げる。それを実結はぼんやりと見ていた。
「実結ちゃん、すごい顔赤いけど、恥ずかしいから? それとも、暑い?」
「温度もっと下げます?」
「ん……」
先ほどから実結が暑さを感じていたのは事実だ。実結のグラスはすっかり空になってしまっている。和真も慶もやはり涼しげで実結は不思議だった。
「熱出たとかじゃないよね?」
和真が顔を近付けてきたかと思えば、こつんと額がくっつく。
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