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続く日々
パーティーを楽しみにして
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何かとんでもない夢を見てしまった気がする。
目が覚めて実結はようやく現実に引き戻された気がして安堵していた。既に細部は抜け落ちてしまったが、吸血鬼の和真と狼男の慶に散々いやらしいことをされる夢だったことだけは何となく覚えている。
真悠子がいじめっ子として出てきていたことには罪悪感を覚えるが、それよりも体が疼いていることが実結にはショックだった。恐る恐る触れてみれば下着が湿り気を帯びている。
自分がとてつもなくいやらしい女に成り下がってしまった気がして、これから二人に会わなければならないのに気が重い。具合が悪いと言って断れれば良いが、心配されて家に押し掛けられても困る。何より今日を楽しみにしている慶のことを思うと胸が痛む。
事の発端は数日前に遡る。
「ハロウィンパーティーをしましょう!」
背後から抱き締める慶の声は妙に弾んでいて、きっとニコニコしているのだろうと実結は感じていた。
目の前に翳されるスマートフォンにはハロウィン特集が表示されている。
「どうせ会うなら何か思い出作った方がいいと思って。特別なことって大事ですよね」
それは一理ある、と実結は思ってしまった。三人でのデート一つ一つが実結にとっては大切な思い出になっている。街中に増えていくハロウィンのグッズを見ながら自分には関係のないことだと思っていたが、きっと楽しいだろうと想像できる。
「何を企んでる?」
和真は探るような眼差しを慶に向ける。ろくでもないことを考える人間として和真は慶のことを警戒しているようだった。特に初夏の事件から彼は疑り深くなってしまったようである。
あの後も結局、慶の部屋には何度か行くことになったのだ。暑さには勝てず、他に行く場所も限られて妥協するしかなかった。絶対に持参した物以外には口にしないというルールを定めて。
尤も、慶もあれから随分と優しくなり、二人っきりになっても実結がしたいことを優先してくれたくらいだが、三人でいるからこそ箍が外れてしまうこともある。
「実結先輩の仮装が見たいんです」
「えっ……」
期待に満ちたように弾んだ声で言われて実結は戸惑いを隠せない。
慶はコスプレ好きなのだろうか。中学の制服への食いつきぶりを思い出せば今でも引いてしまうところがある。仕方なく中学時代のアルバムは見せたのだが、彼は実際に着ているのを見ることを諦めていないようだった。ハロウィンの仮装に乗じる気なのかもしれない。
「あと、実結先輩の手料理食べたいです」
「手料理は確かにいい考えだな……実結ちゃんさえ良ければ俺も賛成する。エッチなことはなしで」
「くっ……やっぱり簡単には味方になってくれないんですね」
和真は先手を打ったようである。背後で慶が悔しがっているのがわかったが、実結は聞こえないフリをした。セックスしなくていいのなら断る理由もない。
「カボチャ料理ですか?」
「俺はカボチャ好きだよ。煮物が一番好き」
「煮物、作ります……!」
一瞬にして実結の頭の中で煮物のレシピ検索が始まる。得意料理と言えるほどではないが、作ることはできる。
「ちょっと待ってください! おかしいでしょ! 何で和食なんですか!?」
「慶君は嫌いなの?」
「うっ……煮物とか苦手なんです」
慶にも苦手なものがあるのか。実結は意外に感じていた。しかし、弱みを握ったとは思えない。
「じゃあ、慶君は何が好きなの?」
「先輩」
「好きな食べ物は?」
答えになっていない言葉を実結は聞かなかったことにして問い直す。食べ物の話をしていることは慶もわかっているはずだが、ボケた様子もない。
「いつでも先輩を食べたいと思ってますけど」
慶は本気で言っているのだろう。彼は常に腹を空かせた子供のように実結を求めるのだから。
「和真先輩は他に何が好きですか?」
未だに慶を上手くあしらう方法がわからずにいる実結は和真に助けを求めるように彼に問うことにした。それに慌てたのは慶だった。
「俺は」
「ちゃんと答えますから無視しないでください!」
本当にちゃんと答えるのだろうか。実結が疑いの眼差しを向ければ慶は肩を竦めて口を開く。
「俺が好きな食べ物は肉と乳製品系ですかね。あと、卵も」
思い返せば慶は一緒に食事をするとしてもファーストフードやファミリーレストランが多かった。学生なのだからと実結は特に気にしなかったが、彼が好きだったからなのだろう。
和真は「それででかくなったのか?」などと言い、慶に八つ当たりのように無視されていたが、実結は脳内でレシピの検索を始める。
「子供っぽい食べ物か」
「うーん……ミートグラタンとかチーズ入りのハンバーグとかロコモコとか?」
「最強ですね」
実結としてはあまり得意なジャンルではなかったが、どうやら慶にはヒットしたらしい。そういう路線で作ればいいのかと安堵しながら実結ははたと気付く。
「あ、でも、カボチャじゃない……カボチャグラタン? カボチャハンバーグ?」
「カボチャは和真先輩の煮物でいいじゃないですか。俺はガッツリ肉がいいです。好きな物を食べてこそパーティーですよ」
そもそも慶はハロウィンに乗じているだけなのだ。煮物は苦手だと言っていたが、カボチャ自体も好きではないのかもしれない。
「わかった……パーティーっぽいメニュー考えてみる」
「楽しみにしてます」
「俺も」
そうして実結達はハロウィンに便乗したささやかなパーティーを和真の家ですることになったのだった。
目が覚めて実結はようやく現実に引き戻された気がして安堵していた。既に細部は抜け落ちてしまったが、吸血鬼の和真と狼男の慶に散々いやらしいことをされる夢だったことだけは何となく覚えている。
真悠子がいじめっ子として出てきていたことには罪悪感を覚えるが、それよりも体が疼いていることが実結にはショックだった。恐る恐る触れてみれば下着が湿り気を帯びている。
自分がとてつもなくいやらしい女に成り下がってしまった気がして、これから二人に会わなければならないのに気が重い。具合が悪いと言って断れれば良いが、心配されて家に押し掛けられても困る。何より今日を楽しみにしている慶のことを思うと胸が痛む。
事の発端は数日前に遡る。
「ハロウィンパーティーをしましょう!」
背後から抱き締める慶の声は妙に弾んでいて、きっとニコニコしているのだろうと実結は感じていた。
目の前に翳されるスマートフォンにはハロウィン特集が表示されている。
「どうせ会うなら何か思い出作った方がいいと思って。特別なことって大事ですよね」
それは一理ある、と実結は思ってしまった。三人でのデート一つ一つが実結にとっては大切な思い出になっている。街中に増えていくハロウィンのグッズを見ながら自分には関係のないことだと思っていたが、きっと楽しいだろうと想像できる。
「何を企んでる?」
和真は探るような眼差しを慶に向ける。ろくでもないことを考える人間として和真は慶のことを警戒しているようだった。特に初夏の事件から彼は疑り深くなってしまったようである。
あの後も結局、慶の部屋には何度か行くことになったのだ。暑さには勝てず、他に行く場所も限られて妥協するしかなかった。絶対に持参した物以外には口にしないというルールを定めて。
尤も、慶もあれから随分と優しくなり、二人っきりになっても実結がしたいことを優先してくれたくらいだが、三人でいるからこそ箍が外れてしまうこともある。
「実結先輩の仮装が見たいんです」
「えっ……」
期待に満ちたように弾んだ声で言われて実結は戸惑いを隠せない。
慶はコスプレ好きなのだろうか。中学の制服への食いつきぶりを思い出せば今でも引いてしまうところがある。仕方なく中学時代のアルバムは見せたのだが、彼は実際に着ているのを見ることを諦めていないようだった。ハロウィンの仮装に乗じる気なのかもしれない。
「あと、実結先輩の手料理食べたいです」
「手料理は確かにいい考えだな……実結ちゃんさえ良ければ俺も賛成する。エッチなことはなしで」
「くっ……やっぱり簡単には味方になってくれないんですね」
和真は先手を打ったようである。背後で慶が悔しがっているのがわかったが、実結は聞こえないフリをした。セックスしなくていいのなら断る理由もない。
「カボチャ料理ですか?」
「俺はカボチャ好きだよ。煮物が一番好き」
「煮物、作ります……!」
一瞬にして実結の頭の中で煮物のレシピ検索が始まる。得意料理と言えるほどではないが、作ることはできる。
「ちょっと待ってください! おかしいでしょ! 何で和食なんですか!?」
「慶君は嫌いなの?」
「うっ……煮物とか苦手なんです」
慶にも苦手なものがあるのか。実結は意外に感じていた。しかし、弱みを握ったとは思えない。
「じゃあ、慶君は何が好きなの?」
「先輩」
「好きな食べ物は?」
答えになっていない言葉を実結は聞かなかったことにして問い直す。食べ物の話をしていることは慶もわかっているはずだが、ボケた様子もない。
「いつでも先輩を食べたいと思ってますけど」
慶は本気で言っているのだろう。彼は常に腹を空かせた子供のように実結を求めるのだから。
「和真先輩は他に何が好きですか?」
未だに慶を上手くあしらう方法がわからずにいる実結は和真に助けを求めるように彼に問うことにした。それに慌てたのは慶だった。
「俺は」
「ちゃんと答えますから無視しないでください!」
本当にちゃんと答えるのだろうか。実結が疑いの眼差しを向ければ慶は肩を竦めて口を開く。
「俺が好きな食べ物は肉と乳製品系ですかね。あと、卵も」
思い返せば慶は一緒に食事をするとしてもファーストフードやファミリーレストランが多かった。学生なのだからと実結は特に気にしなかったが、彼が好きだったからなのだろう。
和真は「それででかくなったのか?」などと言い、慶に八つ当たりのように無視されていたが、実結は脳内でレシピの検索を始める。
「子供っぽい食べ物か」
「うーん……ミートグラタンとかチーズ入りのハンバーグとかロコモコとか?」
「最強ですね」
実結としてはあまり得意なジャンルではなかったが、どうやら慶にはヒットしたらしい。そういう路線で作ればいいのかと安堵しながら実結ははたと気付く。
「あ、でも、カボチャじゃない……カボチャグラタン? カボチャハンバーグ?」
「カボチャは和真先輩の煮物でいいじゃないですか。俺はガッツリ肉がいいです。好きな物を食べてこそパーティーですよ」
そもそも慶はハロウィンに乗じているだけなのだ。煮物は苦手だと言っていたが、カボチャ自体も好きではないのかもしれない。
「わかった……パーティーっぽいメニュー考えてみる」
「楽しみにしてます」
「俺も」
そうして実結達はハロウィンに便乗したささやかなパーティーを和真の家ですることになったのだった。
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