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続く日々
楽しいパーティー?
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しかしながら、ハロウィンパーティーは当初の予定とは異なるものとなってしまった。
示し合わせたわけでもないのに三人とも黒い服を着て、頭には何かを付けている。実結が小悪魔の角のカチューシャを付けることに恥ずかしさを覚えていたのも最初だけだった。慶が用意しようとしていたコスチュームに比べれば大したことはない。
実結としては十分に楽しんでいるた、和真もずっと笑っているが、慶だけが違った。
「慶君、お菓子あげるから機嫌直して」
実結はラッピングを施したカボチャの形のクッキーを差し出すが、可愛らしい狼の被り物をした慶はむすっとした表情のままだ。その被り物が犬にしか見えなくて『犬人間』などと称した実結に対して未だに怒っているわけではないだろう。理由は実結にもわかっているのだ。
「悪戯させてください」
慶はそう言って菓子を受け取ろうとはしない。
ハロウィンの決まり文句を言えば悪戯をさせられそうだと実結も警戒こそしていたが、それでも手作りのお菓子で手を打ってくれるだろうと安易に考えていたのだ。
「お菓子あるのに……」
「今は受け取り拒否します」
「せっかく作ったのに……」
あまりにきっぱりと言われて実結がシュンとすればわざとらしく大きな溜息が吐き出される。
「俺だけのためじゃないでしょう?」
慶の言葉は突き放すように冷たいが、実際そうなのだから実結は反論できなかった。慶と和真のためであって、どちらか一方だけのためではないのだ。
「じゃあ、俺が慶の分も貰おう」
「お菓子は貰います。でも、悪戯してからです」
慶の中で実結に悪戯することは決定事項らしい。彼の悪戯が性的なものでないはずがないと実結は考えている。お仕置きに近いニュアンスを感じるのは気のせいではあるまい。
「ったく……大好きな肉を食べたんだから元気だせよ。魔女が張り切って作ったご馳走だぞ?」
「美味しかったですけど……実結先輩の手作りだから食べたかったんです!」
カボチャの帽子を被った和真は呆れているが、慶は悔しげである。全て自分の思い描いた通りにならなかったから拗ねていると言えるのかもしれない。
数日前、パーティーメニューに頭を悩ませていた実結にもたらされたのは和真の母親が料理を用意してくれるという朗報だった。約束した煮物とお菓子だけは自分で作ろうと決めたが、肉料理も用意してくれると聞いて甘えることにしたのだ。尤も、既に母親が乗り気で和真にも止められないという状況らしかったが。
けれども、二人は慶にそれを言わなかった。言えば面倒になるとわかっていたから、実結は探りを入れてくる慶に当日のお楽しみだとはぐらかし続けた。魔女の帽子を被って出迎えてくれた和真の母は三人にも被り物も用意してくれていたのだから実結としては感謝してもしきれない。
「二人して俺に黙ってひどすぎます……! だから、罰として思う存分性的な悪戯させてください!」
慶の傷は実結が思っているよりも大きいのか、それともこの好機を逃すまいとしているのかはわからないものだ。
内緒にしていたのはサプライズのためではないからこそ、実結としては後ろめたい部分もある。
「悪戯されるのが嫌なら俺にご奉仕します?」
「お願いだからお菓子受け取って」
和真の母は既に出掛けているが、実結としてはそんな気分にはなれない。
「実結先輩が唇で挟んで食べさせてくれるなら受け取ってあげてもいいですけど」
「うー……」
これでは埒が明かない。実結は和真に助けを求めるように視線を送るしかなかった。
「実結ちゃんの煮物も母さんが結構つまみ食いしたからな……」
これならば慶も食べられるかもしれないとミルク煮にしたカボチャは和真の母が絶賛してくれた。それによって慶の分が必然的に減ったのだが、相手は他の料理なども提供してくれたのだから文句は言えないのである。
「カボチャもまた作ってあげるから、ね?」
よしよしと実結は慶の頭を撫でるが、今日の慶はいつも以上に機嫌が直らないようだ。
「実結先輩、俺よりこの被り物を撫でたいんですよね?」
ギクリとした実結は上手い言い訳など思い浮かばなかった。帰りまではパーティー気分を楽しもうと外さない約束を慶も守っている。
そして、一人だけ立派な被り物は慶が贔屓されている証だ。和真の母親にひどく気に入られてしまったらしい。
「スペアリブもレシピ教えてもらったから、今度は私が作ってあげる」
彼の頭に付いている狼の耳が本物だったならばピクリと動いたかもしれないが、今日の慶はとにかく手強かった。
「お弁当、作ってくれます?」
俺だけに、と強調する慶に実結は少し考える。朝に慶の分の弁当を作って学校に持って行くということはできれば避けたいことだった。
「今度、ピクニックしよっか?」
「どうせ、三人で、って言うんですよね?」
実結は二人でのつもりで聞いたのだが、そう言われてしまってははっきりとは否定できなかった。三人で行けたら、という気持ちも確かにあるのだ。
「二人で紅葉でも見に行ってくればいいんじゃない? 俺には後で写真見せてくれればいいよ」
助け船を出してくれたのは和真だった。気を使わせてしまったのだろうが、実結はこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。
「二人で行こう?」
これで今度こそ機嫌が直ると実結が思った時だった。
「いいお嫁さんになれるって、うちに欲しいって言われて満更でもなかったくせに」
慶が不機嫌な理由はまだあったらしい。チクチクと言葉が実結に突き刺さる。
実結が手伝いをしていた時に言われた言葉が慶にも聞こえてしまっていたらしい。手際や手料理の味を他人の母親に褒められたことが単純に嬉しかったのだが、慶は悪いように考えてしまったのだろう。
実結にも結婚願望はあるが、将来自分の隣にいるのが二人のどちらかなのか、別の誰かなのかは想像もつかない。和真との未来が思い浮かぶわけでもない。今はこの状態がずっと続くようにも思っているのだ。
「ま、今日のところは勘弁してあげますよ――トッリク・オア・トリート?」
ほっと息を吐いて実結がクッキーを差し出せば、慶は今度こそ受け取ってくれた。そして、実結は和真にも同じ物を渡すのだ。
今日のパーティーも楽しい思い出として刻まれる。だから、こんな日々がずっと続けばいいと……ずっと続くと実結はそう思っていた。物事には終わりが付き物だと考えもせずに。
示し合わせたわけでもないのに三人とも黒い服を着て、頭には何かを付けている。実結が小悪魔の角のカチューシャを付けることに恥ずかしさを覚えていたのも最初だけだった。慶が用意しようとしていたコスチュームに比べれば大したことはない。
実結としては十分に楽しんでいるた、和真もずっと笑っているが、慶だけが違った。
「慶君、お菓子あげるから機嫌直して」
実結はラッピングを施したカボチャの形のクッキーを差し出すが、可愛らしい狼の被り物をした慶はむすっとした表情のままだ。その被り物が犬にしか見えなくて『犬人間』などと称した実結に対して未だに怒っているわけではないだろう。理由は実結にもわかっているのだ。
「悪戯させてください」
慶はそう言って菓子を受け取ろうとはしない。
ハロウィンの決まり文句を言えば悪戯をさせられそうだと実結も警戒こそしていたが、それでも手作りのお菓子で手を打ってくれるだろうと安易に考えていたのだ。
「お菓子あるのに……」
「今は受け取り拒否します」
「せっかく作ったのに……」
あまりにきっぱりと言われて実結がシュンとすればわざとらしく大きな溜息が吐き出される。
「俺だけのためじゃないでしょう?」
慶の言葉は突き放すように冷たいが、実際そうなのだから実結は反論できなかった。慶と和真のためであって、どちらか一方だけのためではないのだ。
「じゃあ、俺が慶の分も貰おう」
「お菓子は貰います。でも、悪戯してからです」
慶の中で実結に悪戯することは決定事項らしい。彼の悪戯が性的なものでないはずがないと実結は考えている。お仕置きに近いニュアンスを感じるのは気のせいではあるまい。
「ったく……大好きな肉を食べたんだから元気だせよ。魔女が張り切って作ったご馳走だぞ?」
「美味しかったですけど……実結先輩の手作りだから食べたかったんです!」
カボチャの帽子を被った和真は呆れているが、慶は悔しげである。全て自分の思い描いた通りにならなかったから拗ねていると言えるのかもしれない。
数日前、パーティーメニューに頭を悩ませていた実結にもたらされたのは和真の母親が料理を用意してくれるという朗報だった。約束した煮物とお菓子だけは自分で作ろうと決めたが、肉料理も用意してくれると聞いて甘えることにしたのだ。尤も、既に母親が乗り気で和真にも止められないという状況らしかったが。
けれども、二人は慶にそれを言わなかった。言えば面倒になるとわかっていたから、実結は探りを入れてくる慶に当日のお楽しみだとはぐらかし続けた。魔女の帽子を被って出迎えてくれた和真の母は三人にも被り物も用意してくれていたのだから実結としては感謝してもしきれない。
「二人して俺に黙ってひどすぎます……! だから、罰として思う存分性的な悪戯させてください!」
慶の傷は実結が思っているよりも大きいのか、それともこの好機を逃すまいとしているのかはわからないものだ。
内緒にしていたのはサプライズのためではないからこそ、実結としては後ろめたい部分もある。
「悪戯されるのが嫌なら俺にご奉仕します?」
「お願いだからお菓子受け取って」
和真の母は既に出掛けているが、実結としてはそんな気分にはなれない。
「実結先輩が唇で挟んで食べさせてくれるなら受け取ってあげてもいいですけど」
「うー……」
これでは埒が明かない。実結は和真に助けを求めるように視線を送るしかなかった。
「実結ちゃんの煮物も母さんが結構つまみ食いしたからな……」
これならば慶も食べられるかもしれないとミルク煮にしたカボチャは和真の母が絶賛してくれた。それによって慶の分が必然的に減ったのだが、相手は他の料理なども提供してくれたのだから文句は言えないのである。
「カボチャもまた作ってあげるから、ね?」
よしよしと実結は慶の頭を撫でるが、今日の慶はいつも以上に機嫌が直らないようだ。
「実結先輩、俺よりこの被り物を撫でたいんですよね?」
ギクリとした実結は上手い言い訳など思い浮かばなかった。帰りまではパーティー気分を楽しもうと外さない約束を慶も守っている。
そして、一人だけ立派な被り物は慶が贔屓されている証だ。和真の母親にひどく気に入られてしまったらしい。
「スペアリブもレシピ教えてもらったから、今度は私が作ってあげる」
彼の頭に付いている狼の耳が本物だったならばピクリと動いたかもしれないが、今日の慶はとにかく手強かった。
「お弁当、作ってくれます?」
俺だけに、と強調する慶に実結は少し考える。朝に慶の分の弁当を作って学校に持って行くということはできれば避けたいことだった。
「今度、ピクニックしよっか?」
「どうせ、三人で、って言うんですよね?」
実結は二人でのつもりで聞いたのだが、そう言われてしまってははっきりとは否定できなかった。三人で行けたら、という気持ちも確かにあるのだ。
「二人で紅葉でも見に行ってくればいいんじゃない? 俺には後で写真見せてくれればいいよ」
助け船を出してくれたのは和真だった。気を使わせてしまったのだろうが、実結はこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。
「二人で行こう?」
これで今度こそ機嫌が直ると実結が思った時だった。
「いいお嫁さんになれるって、うちに欲しいって言われて満更でもなかったくせに」
慶が不機嫌な理由はまだあったらしい。チクチクと言葉が実結に突き刺さる。
実結が手伝いをしていた時に言われた言葉が慶にも聞こえてしまっていたらしい。手際や手料理の味を他人の母親に褒められたことが単純に嬉しかったのだが、慶は悪いように考えてしまったのだろう。
実結にも結婚願望はあるが、将来自分の隣にいるのが二人のどちらかなのか、別の誰かなのかは想像もつかない。和真との未来が思い浮かぶわけでもない。今はこの状態がずっと続くようにも思っているのだ。
「ま、今日のところは勘弁してあげますよ――トッリク・オア・トリート?」
ほっと息を吐いて実結がクッキーを差し出せば、慶は今度こそ受け取ってくれた。そして、実結は和真にも同じ物を渡すのだ。
今日のパーティーも楽しい思い出として刻まれる。だから、こんな日々がずっと続けばいいと……ずっと続くと実結はそう思っていた。物事には終わりが付き物だと考えもせずに。
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