【R18】Again and Again

Nuit Blanche

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続く日々

彼の生き方

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「そんなに警戒しなくても、とって食いはしませんから」
 目の前で微笑むのは遠間彰、慶の兄である。
 会ったのは偶然で、慶のことで話をしないかと誘われてカフェに入ったのだが、実結は緊張しきっていた。この数日のもやもやが晴れればと期待もあったのかもしれない。
「あの時のことは申し訳ありませんでした。潤のことで不快な思いをさせたお詫びに三人の気分を盛り上げようと……」
「い、いえ……」
 あの夏の日の出来事を思い出すだけで身体が熱くなる気がした実結はどう答えたら良いかわからずに視線をさまよわせる。
 しかし、もう過ぎたことであり、彰の本題もそれではないのだろう。
「慶は間に挟まれて育ったから、我慢することが多かったんでしょう」
 未だに慶から話を聞けていないのに、こうして話を聞いて良いのか葛藤もあった。だが、慶本人が言えないこともあるだろう。
「俺と弟に奪われたり譲らされたり、欲しい物を欲しいって言えない」
 これまでの慶の発言から兄と仲が良いとは思っていなかったが、実際は妙な空気が漂う三兄弟だった。弟だから、お兄ちゃんだから、そんな我慢は実結には想像がつかないものだ。
「それでも、あいつはニコニコ笑っていたんですよ。欲しかった物を全部奪われても」
 一人っ子の実結は家族に奪われるということを知らずに生きてきた。甘やかされて、のんびりと育ったのは否めない。
「それなりに大きくなってからは俺達も落ち着いたと思ったんでしょうがが、現実はもっと酷だったんでしょう」
 皆、分別はつく年齢だが、潤のおねだりを聞いてしまった今となっては単純に食べ物やおもちゃだけのこととは思えない。
 否、本当は気付いているのだ。潤は実結を欲しがり、いつものことだと言った。だからこそ、実結はその先を聞いてしまって良いのか迷った。
「自分で言うのもあれですが、三人ともモテたんです」
「わかります」
 長身で端整な顔立ちの慶には実結のクラスメート達でさえ関心を寄せているほどだ。その慶に似て、知的な彰とやんちゃそうな潤はそれぞれに魅力があると言えるだろう。モテない方が不思議だと実結は思うのだ。
「俺も弟達を紹介して欲しいとよく頼まれてたし、あいつもそうだろうと……俺は何だって笑い飛ばせたが、あいつは大人しいから何も言わなかったんです」
 それが三兄弟にとって日常茶飯事だったとして、割り切れないこともあるだろう。
「自分が好意を寄せる相手が兄弟目当てに近づいてきていても、兄の恋人に襲われても」
 実結ははっと息を呑む。和真は慶が一番歪んでそうだと言った。闇が深いとも。その始まりに行き着いたのかもしれない。
「大人になってから、やっとあいつの我慢に気付いて、ぞっとしました。まあ、今更気付いたところでどうすることもできませんが」
 自分に執着しているのもそういう過去があり、奪うしかないと言ったのか。慶は初めてを奪われたと言っていなかったか。
「どうか、慶のこともよろしくお願いします」
 改まって頭を下げられて実結は驚いて困惑するしかなかった。こんな反応は失礼だと思いながら言葉が出てこない。
「これでも、慶がもう二度と恋ができないんじゃないかって心配していたんですよ。信じてもらえないでしょうが」
 彰は気分を害した素振りもなく続け、実結は同時に彼がやはり慶の兄であるのだと安心していた。表面上はどうであっても気にかけていたのだろう。
「君に恋をして慶は少しずつ変わっています。良い傾向だが、君達に見捨てられたらもう慶はダメだと思います」
 彼が言うことがよくわかるからこそ、実結には責任が重くのしかかってくる。
 けれども、実結はそこで彰の言葉に引っかかりを覚えた。
「達って……」
 なぜ、複数形になるのか。和真のことも含んでいるのか。
『まさか、二人と付き合ってるなんて言いませんよね?』
 真悠子の言葉が蘇り、胸が早鐘を打つようだ。知られてはならない、そんな思いが先行して実結を追い詰める。
「大丈夫ですよ」
 優しい声に実結ははっとして水を飲む。
「俺には恋人が二人いると慶から聞いていませんか? 二股とは言われますが、双方同意の上でどちらも愛しています」
 慶と和真との関係を彼ら兄弟は既に知っているのに、何を恐れていたのか。彰に二人の恋人がいることも聞いていたはずだった。
 軽蔑を恐れているのだ。真悠子の言葉に囚われている。それに対して彰は堂々としている。だからこそ、実結は彼と同じだとは思えなかった。
「病気だとか、心ないことを言ってくる輩はいくらでもいます。けれど、二人とも愛しているんです。それは胸を張って言えます」
 自らを愛の伝道師のように思っている節があるとは慶から聞いていた実結には彰が眩しく感じられた。そういう生き方をできていることが羨ましく思えたのだ。
 きっと自分達とは事情が異なるのだ。彰がそうだから自分もそうでも良いのだと楽観視することもできない。
「難しく考えずに自分の心に従えばいい。欲望に忠実なぐらいがいいですよ」
 彰は微笑むが実結は曖昧な笑みを返すことしかできなかった。
 どちらかを選ぶのではなく、このままの関係を続けたいと言っても良いのだろうか。難しく考えるなと言われても何度も繰り返してしまう。その理由はわかっていた。自分自身が許せないから、彼のようにはなれないのだ、と。
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