【R18】Again and Again

Nuit Blanche

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答えは三人で

彷徨う心

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 何だか不思議だと思いながら実結は呼吸を整える。震えは治まったが、言葉は纏まっていない。それでも両側から二人分の視線を受けて、何か言わなければならない気がして実結は口を開く。
「やっぱり、先輩のことは好きなんです……」
 初めて和真の部屋に来て、ベッドの上に座って、ひどくドキドキする。震えていなければ優しく抱いてくれただろう。泣きたくなるほどの優しさで包んでくれただろう。けれど、委ねられない。
「でも、俺とは付き合えない?」
 実結は頷く。どんなに望んでも叶わない夢になってしまった。それだけは諦めなければならない。
「俺との約束がなければ、俺を捨てて先輩と付き合いますか?」
「わからなくて……」
 今度は首を横に振る。捨てないと約束したが、単純に約束してしまったから捨てられないのとは違う。そうでなくとも慶を切り捨てることは実結にはできなかっただろう。
「慶君のことも放っておけなくて……」
 きっと同情なのだ。否定できないからこそ実結は俯く。
 自分を強姦した慶を許せないと言いながら、奪うしかないという結論に至るまでに思い詰めるようなことがあったのではないかと思ってしまう。
 求めてくるものの、実結から言葉を奪うためであって体だけが目当てというわけではないように思う。何か助けを求めているようだと思うのは考えすぎか。本当は毎日告白されていた時から何かサインのようなものがあったのかもしれない。
 話を聞いてあげなければならないような気がしているのに慶が拒むのだ。だから和真の力を借りたかったのかもしれない。
「二人とも好きだから選ぶなんてできなーい、って? そんな馬鹿な」
「好きとは言われてないだろ」
 嘲るような慶に和真が即座に突っ込みを入れる。
「でも、嫌われてない。そうですよね?」
「た、多分……」
 実結自身がわかっていない部分もある。
 顔も見たくないほど嫌いだと突き放せれば良かったのか。嫌いになると思っていたのに、そうなれないから、憎みきれないから、こんなにも困っている。
「お前、実結ちゃんが錯覚するくらい酷いことをしたのか?」
 低くなった声が問い詰める。ひやりとした空気が実結の肌を撫でた気がした。
「暴力振るってないけど、選択肢は奪ったし、まあ、脅迫レイプですよね」
 和真の怒りは明らかであるのに、慶は平然と言い放つ。慶のこういった悪びれない部分が実結には理解し難い。それは和真にとっても同じなのかもしれない。
「……わかっていたつもりでも、改めて言われると殺意が湧いてくる」
 和真が握り締めた拳は震えているが、激情のままに殴りかかるようなことはしない。だからこそ、実結は落ち着いていられるのかもしれない。異様な状況であっても和真が頼りになる先輩であることは揺るがない。
「一発くらい殴っておきます?」
「気分的には一発じゃ収まらないが……実結ちゃんが悲しむことはしない」
 いいですよ、と慶は挑発しているのだろうが、和真は自身を抑え込んでいる。それが自分のためだと知れば実結の胸の内は温かく満たされていくようだ。
 もし、和真が慶を殴ろうとすれば実結は必死に止めるだろう。暴力を振るう和真を見たくないのか、慶が殴られるのを見たくないのか、その両方なのかはわからないが。
「甘いですね」
 慶が鼻で笑おうとも和真は厳しい表情を崩さない。
「実結ちゃんが優しいからだ。感謝しておけ」
 和真は言うが、本当に優しいのかと実結は疑問を抱く。自分こそ甘いのかもしれない。和真のような包容力のある優しさとは言えない。厳しい態度を取れないから後輩に付け入る隙を与えてしまったのではないか。
「実結先輩は優しいですよ」
 まるで心を読んだかのような慶の言葉にドキリとして実結は視線を向ける。
「俺が毎日告白しても聞いてくれるし、壁ドンしたいって言ったらやらせてくれるし、俺のこと捨てないって言ってくれるし」
 事実ではあるが、自分が軽い女だと言われているような気がして実結は言葉に困った。ぎしりと胸が軋むように痛む。
 ちらりと盗み見た和真は何か言いたげにしていたが、実結の言葉を待っているようだ。
「まだ慶君のこと怖いし、許せないのに、放っておいたらダメな気がして……」
「それは俺もわかる。遠間は危なっかしい」
 言い訳なのかもしれないと思いながらも言った言葉に和真の同意を得て実結はほっとする。
「別に病んじゃいないですよ。俺は心身ともに健全な男です」
 慶の主張には些か疑問を覚えるところがあるが、実結は反論できない。
「兄的な立場で側にいてやらなきゃいけない気がする」
「お節介ですね。大体、俺、兄貴いますし」
 慶に兄がいるというのは初耳だった。しかし、その声音は暗く、何かを感じたのは実結だけではなかったようだ。
「……上手くいってないんじゃないか?」
 和真は実結には触れられない場所に触れる。土足で踏み入るほどの乱暴さではない。見極めているのだろう。
 だが、不快感を露わにした慶に実結は息を飲む。
「俺の家庭の問題にまで首突っ込む気ですか?」
 低くなった声に突き放されているのがわかる。慶が何らかの問題を抱え込んでいるのが明らかだとしても踏み込む権利などない。触れてはならないのだと実結は悟った。
「って言うか、俺の話はいいじゃないですか」
 鋭い視線が続きを促している。この話題から逸らそうとしているようだった。
「えっと……慶君にされるのも怖いんです」
「さっきも震えてましたからね」
「で、お前は無理強いして蹴られたのか。やっぱり自業自得だろ」
 和真は呆れているが、実結も蹴りたくて蹴ったわけではない。
「まあ、貴重な経験ですよね」
「蹴りたくなる気持ちはよくわかるけど、本気で潰すつもりで蹴らないと、ただのご褒美だよ」
「ご、ご褒美……」
 蹴られて喜ぶ人間など入るのだろうかとは思うものの、慶はニコニコとして実結の中の常識を揺るがす。
「それで? 実結ちゃんは遠間のせいで男が怖くなっちゃった?」
「でも、昨日は大丈夫だったんです。途中からですけど……」
 慶にされて怖かったのは確実である。昨日も今日も変わらないことだ。慶がしたことを思えば無理もなく、本当は断固とした態度を取るべきなのだろう。
「途中って……俺が参戦したあたり?」
「はい……だから、先輩は大丈夫かもしれないと思ったんですけど……」
「緊張してるだけって感じじゃなかったよね」
 和真のことが大丈夫であるのならば話は簡単だった。和真が好きだというのが答えだ。
 だが、和真が慶とは違うとわかっていても、震えを抑えることはできなかった。異性に対する恐怖心を植え付けられてしまったのかもしれない。
「もしかして……二人一緒なら大丈夫かもしれないってこと?」
 躊躇いがちに実結は頷く。
 和真があんなことをすると思っていなかったから混乱していただけなのかもしれない。二人にされて流されてしまったのかもしれない。和真とするための口実だったのかもしれない。
 けれど、和真は試すという選択肢をくれた。
「それで、試してみようと思った?」
 実結はこくりと頷く。まだ躊躇いはある。
 愛し合う者同士がすることであって、三人でする異常性を理解していないわけではない。道徳に反すると思い悩みもした。けれど、和真ならその不安を消してくれる気がした。
 そんな実結の心を読んだように和真の大きな手が頭を撫でるが、すぐに離れてしまう。
「あ……ごめん、ついいつもの癖で」
「だ、大丈夫です……」
 触れられること全てが怖くなったわけではない。けれど、気を使って触れてもらえなくなるのは寂しくもあった。
「提案したのは俺だよ。可能性があるなら試してみたい。細かいことは気にしないでいい。全部俺に任せてくれればいい」
 和真は欲しい言葉をくれる。迷いも薄れて全て委ねてしまいたくなる。それで良いのだと自分の中で声が響いている気がした。
「俺はもう後悔したくない。だから、俺に流されて?」
 後悔したくないのは自分も同じだ。こんなことをして後悔しないかもわからないのに、しなくても後悔するような気がしてなかなか踏み切れないでいる。
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