【R18】初夜を迎えたら、夫のことを嫌いになりました

みっきー・るー

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 翌朝、ずきりと下腹部が痛んで目を覚ました。
 寝台から身体を起こして、そっと下穿きを覗き込む。

「ああ……、月のものがきたのね……」

 月経が近づくと、身体と心の調子が思わしくなくなる。

(だから最近、すぐ頭に血が上って苛立つことが多かったんだわ)

 妙に納得しながら、侍女を呼ぶために呼び鈴を鳴らした。
 鎮痛薬とお腹を温めるための温石を頼み、また寝台に横になる。朝食をとる気にはなれなくて、アーファ様には伝言を頼んだ。
 何度も身体の関係をもったのに、妊娠していなかったショックも大きい。子は授かり物というが本当にその通りだ。

(月のものが終わったら、またしなくちゃいけないのね……)

 うんざりする心地が胸を塞ぎ、瞼をぎゅっと閉じた。
 そのうちに痛みを誤魔化すように、また眠りに落ちて、再び扉を叩かれてから目を覚ました。
 眠ってしまったせいで私からの返答がなく、扉の前で侍女は困っていたようだ。
 頼んだ物を受け取り、お礼を返すと彼女はおずおずと口を開く。

「旦那様がお部屋に来てもいいかお訊ねでした。なんと返事をしておきましょう?」
「ああ……お腹の痛みが酷いから断ってくれる? 用があるなら月のものが終わる頃――七日後くらいに聞くと伝えて」
「承知いたしました」

 侍女はてきぱきと軽食を用意して退室した。
 静かな自室に取り残され、ほっと安堵の息を吐く。

「ずっと引きこもっていたい……」

 本音を口にして、私はもう一度眠ることにした。

 ◇

 月のものが来てから最初の二日間は、ほとんど寝台の上で過ごした。痛み止めの薬があまり効かず、腰が重たくて何もしたくなかったからだ。
 三日目になると、ようやく動く気になれた。それでも部屋を出る気にはなれず、侍女に用意させた領地の地図や歴史を記した書物などを読みながら過ごしていた。
 四日目になると、毎日何度も訪れるアーファ様を、扉の前で追い返し続けた結果、さすがにもう来なくなった。

(やっと静かになったわ……)

 そんな酷いことを考えながら、領地の地図を机の上に広げて見つめる。
 協力すると言った手前、何もしないのは気が引けた。
 土壌と水源は人が生活を営むのに必要な物だ。自然の恵みが豊かであれば余裕も生まれるだろう。
 屋敷の食事は質素ではないが、それも私がいるから無理をさせているのかもしれない。

「精霊が見つかればすべてが解決するけど……」

 ふと、従兄の姿が頭をよぎった。

「おにいさまも精霊を感じられるお一人なのに、彼には相談していないのかしら……」

 精霊を感じられる王族の血を継ぐ者は四人いる。
 国王陛下、第一王子殿下、王弟の子である、おにいさまと私だ。
 頭の中で皆の姿を思い浮かべ、アーファ様には無理だと結論づける。この中で彼が接触できる立場の人間はいない。
 きっと、婚姻を打診されたときは渡りに舟だったのだろう。

「ああ……私の立場って、利用価値が高いわね……」

 ごちんと机に額をつけて卑屈な言葉を口にする。
 権力を使って得た夫のはずなのに、何も得られた気がしない。満足もしていない。

「恋って、よく分からないわ」

 ◇

 七日目の朝。月経はほぼ終わり、心なしか身体もすっきりしている。
 軽く体操をして、陽光が眩しい窓の外を見やる。

「お天気のいい日に確認に行こうかしら」

 机の上に折り畳んだ資料の紙を一瞥し、どうしようか悩む。
 ここ数日、いろいろと自分なりに調べたので、それらを直に確かめに行きたい。
 皮肉にも月経の痛みを乗り越えたあとは、いつも体調がいい。今なら何でもできそうな意欲すら湧く。
 侍女が用意してくれた朝食を完食し、彼女は皿を下げて退室した。それと入れ替わりに、また扉が叩かれる。

「ペレーネ。体調はいかがですか? 話があるのですが、入ってもいいですか?」

 懲りない人。馬鹿正直に、七日目に再び現れるなんて。
 取り次ぎの侍女がいないので、仕方なく扉を開けて顔を出すと、少々緊張した面持ちのアーファ様が立っている。

「体調はいかがですか?」
「問題ありません」
「あの……」

 扉が彼に影を落としているせいだろうか。少しだけ顔色が悪い気がした。

「アーファ様、体調がお悪いのですか?」
「え? 僕は問題ありません」
「……そうですか。それは失礼いたしました」

 数秒の無言が続いて、私はわざとらしく息を吐いた。

「どうぞ」
「……ありがとうございます」

 自室へ招き入れて、向かい合う形で長椅子に腰掛ける。

「本日、収穫に感謝を捧げる祭りが催されます。ジリアス公爵令息を案内する予定になっていますが、貴女の体調が良ければ、ご一緒頂きたいです」
「まあ……! ぜひご一緒させてください!」

 楽しそうな響きに、つい目を輝かせる。

「そ、そんなに期待されても地味な祭りですよ?」

 彼の保険をかけるような物言いに、むっとした。

「アーファ様の中の私は、よほど派手好みの印象なのですね」
「い、いえ、そういう意味で言ったのではなくて……」
「どういう意味でも構いませんが、いつ頃、屋敷を出ますか?」
「あ、ええと、昼食をとってから向かいましょう」
「承知いたしました」

 私は長椅子から腰を持ち上げる。話が終わり、彼が退室すると思ったからだ。
 しかし、アーファ様は腰掛けたまま何かを言おうとしている。

「まだ何か?」
「…………昼食はどちらで召し上がりますか?」
「? ここで頂きますわ」

 私は自室の床を指さした。

「あの、これから先も、別々に食事をとろうとしていませんか?」
「冴えていますね」
「やっぱり!」
「貴方だって、私がいないほうが落ち着いて食事をとれますでしょう?」
「僕は一度でもそんなことを貴女に言いましたか?」

 アーファ様は苛立たしげに目を細めて立ち上がる。

「ペレーネ。他にも話したいことがあります」
「まだ体調が整っていないので、今はお引き取りくださいますか?」
「さきほど体調に問題はないとおっしゃいました」
「アーファ様と話していたら、お腹が痛くなりました」

 張り切って失礼な発言をしてみると、彼は眉をつり上げた。

「僕だって貴女と話していると頭が痛くなります!」
「それは大変だわ! 今すぐここから立ち去って、お休みください!」

 大げさに反応し、アーファ様の背をぐいぐいと扉へ押す。

「ま、待ってください! まだ話が終わっていません!」
「頭の痛みが治ったら話しましょう!」

 アーファ様を無理やり廊下へ出し、扉を勢いよく閉め、ガチャンと音を立てて鍵をかける。

(私と話すたびに頭痛がするなら、これから先も会話なんて無理ね!)

 私から拒絶する言葉を吐き続けているのに、彼から同じようなことを言われて、目頭が熱くなるなんてどうかしている。
 酷い言葉を投げつけて、彼の気を引きたいのだろうか。それとも初夜で抱いた感情と同じものを、彼に味わわせたいだけ?

「どちらにしても自分勝手だわ……」
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